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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第十七章 うんこうんこいぇ~い!
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【コラム】あれ? もうこのコラムなしじゃないの? 「いい加減にあきらめてください」

 異常に蒸し暑い中を歩く二人の男たち。若く長身の青年の背には幼女がべったり。


「暑い。というか熱いっすね。鴉野さん」

「お前らのほうが熱くないか」


 バカなことをのたまいながら進む。


「世界最古の下水道施設は古代インドのモヘンジョ・ダロだって聞きますが」

「かそーじんかくのにーちゃんえらい!」


 スゲエな。流石現役学生。今回調べものせずにすみそうだ。


「冷戦時代、この遺跡は古代の核戦争で焼き払われたって説があったよ」


「なんですかそれ。トンデモ説ですねぇ」

 当時はまだリアルな想像だったんだよ。多くはこじつけだけど。

「お前みたいに現地に飛べる能力者ばかりなら歴史の研究は進むんだがなぁ……」


「どっかの国の学者さんが憤死するじゃないですか」


 まぁ二年前に学生が書いた小説を大真面目にソースにしてきたりする人たちじゃな。(※2013年当時)



「紀元前5000年にはバビロンのメソポタミア文明。紀元前2000年がモヘンジョ・ダロのインダス文明で人類最古の下水道設備らしいよ」


「どっちが古いんですか! 3000年の差って中国四〇〇〇〇年よりアバウトすぎます!」

「知らん……しかも同じサイトの記述なんだ。とりあえずモヘンジョダロで4000年前だね」


「千年単位の誤差?!」


 二人はてくてく進む。モヘンジョダロはまだまだ発掘が進んでいない。多くは煉瓦であり、保存の必要性が訴えられている。


「このころは汚水を川に流す仕組みだったらしいよ」


 ちなみにメソポタミア文明は一粒から八〇粒の麦を生み出す灌漑技術を持っていた。この麦作成効率は現代アメリカの四倍らしい。


「どんなチート文明なんですか」


 というか、この時代に文字あるんだぜ……。古代ローマの下水道が紀元前600年だぞ。


「ローマもチートですけど、ここらへんになるとむちゃくちゃですよね」



「私のご先祖様です」


 胸を張る少女に苦笑する二人。


「主人公が言っているけど、汚水と上水を混ぜるとやばいからな」


「ですね。日本人でよかったっす」

 ウンコ呑むようなもんだしな。伝染病交じりのウンコが井戸に入ったり。

「ヨーロッパでペスト流行が1350年代。パリに下水道ができるのは1370年代らしい。2012年の映画『レ・ミゼラブル』に出てくるちゃんとした下水道が1700年代」


 観光旅行できるのは大変よろしいが下水の中には飛ばさないでくれよ仮想人格さんよ。


「しませんよそんなこと……それより微妙にファンタジー世界の時代とずれているんですねぇ」

「ローマってチートだよなぁ。今でもローマの上下水道は活躍しているらしいしな」


「すごいっすね。ローマ」

「水洗トイレが1800年代」


「『夢を追うもの』本編になんで出てくるのですか?」

「深く気にするな!?」



「活性汚泥法による浄水設備が1900年代だからあからさまな考証ミスを指摘されておかしくない」


「……鴉野さん。鴉野さん。知っていて出さないでください」

「出さないと主人公が疫病で死んでエンドだもん」


 そんな娯楽ファンタジー小説、いくら転生チーハーに否定的な鴉野でも一考せざるを得ない。


「それは、すごく情けないファンタジーのオチですね」

「現代日本人が生きていくには過酷すぎるのよ。中世ヨーロッパ。宗教の時点でダメダメだし」


 ため息をつく男たち。


「私たちの先祖が本を保存していないとひどいことになってたっていうよね」


「よく調べたな」

「えへへっ!」


 男たちは歩む。


「上水道の技術も上がるってことだからな。下水道の技術が上がるってことは」


「いいことですよね」



 そもそも二階部分に風呂がある家ってのが1960年代の日本にはなかったらしいよ。


「『夜明け』で描写し忘れたが、アパート二階部分に住む一家がプラスチック製の湯船にお湯を入れて風呂代節約していた実例もあるよ」

「誰得?!」


 そういうアパートあったみたいだよ……。通路側に置いてあるの。そういう私物の類。


「今じゃ考えられないっすね」


 うん。そしてお話の中での『はなみずき』は否定しているけど、中世ヨーロッパでは屎尿を肥料にする技術ができ始めている。

 その反面、都市部の汚染は悲惨なことになっていくけど。


「レディーファーストは女の子を盾にしたことから始まった習慣だっていいますもんね」

「ひどい話だよな。日本の場合、高温多湿な環境なので普通に屎尿を発酵すれば肥料として使えたのであまり問題化しなかったんだけど」


 明治以降、あふれたり、雨でひどいことになったり、家が汚水漬けになったり、焼き払いが発生したりとひどいことになったらしい。



「ネズミを連れてきたら五銭とかマジであった。ネズミを速攻で養殖されるので意味ないけど」


 本格的に下水道整備ができるのはGHQの支配を待たないとダメだったらしい。


「GHQはサラダの寄生虫でブチ切れだったらしいですからね」

「うむ。その後、産業化が進み、河川の汚染を防ぐ、洪水を防ぐなどの意味合いが強まっていったみたい」


 なんせ下水道処理人口普及率が五割を超えたのは平成になってからだぜ?


「うわ……。ファンタジーの世界って、ほんと変なとこはファンタジーですよね」

「盗賊ギルドが下水や上水を支配して秘密の通路にしていたりするしな。現実的に考えて下水を地下運河にすると窒息死するだけだ」


 だからこそ、ファンタジーは夢の国なのかもしれない。三人ははしゃぎながらかつての大都市を進む。


「歴史ものといいつつ荒唐無稽な時代劇が流行るのはそういう意味なのだろうねぇ」

「過去の醜く汚いいものには蓋をして、昔の清廉潔白な人に負けないように今を元気に生きようと描くのは正しい姿勢ですよ。……ラファエル前派でしたっけ」



 だから歴史の成績が悪いんだな。お前は。鴉野がぼやくと彼は大笑いしていた。


 過去を直視するだけではなく、現代に通じる意義を見出すということも大事……か。


 そうかもしれない。


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