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【コラム】バブル崩壊

「こ、こ、ここはなんですかっ??!」


 鼓膜を破きかねないほどでかい音楽。原色かつ退廃的なデザインで透けるドレスを纏った女性が高台に立って激しく踊っている。

 どうやらここはジュリアナ東京らしい。てかお前の能力だろ。制御できないのか。


「鴉野さんの指定にも従うのですよっ」

「便利な能力だなぁ」


「あの子は?」

「子供は入れないんじゃなかったか?」


 鴉野はさっそくナンパを開始した仮想人格にチクリ。


「その娘たち、今なら40代前から50代だぞ」


 バブル時代は遥かなり。鴉野はスクリュードライバーを片手に苦笑い。値段が。


「ああ。有名一流大学なら新卒三〇万でボーナスな夢の時代ですね」

「大学生のアルバイト時給は低かったぞ。反動反動」


 その代りおまけや餞別が豪華だったみたいだけど。鴉野の昔の上司は若いころ吉野家に一緒に行こうとナンパしていたからなぁ。



 鴉野は苦笑いしながら追加注文。ああ。今月は財布の中身が激しく減る。


「はぁ? なんで安い早い不味いのファーストフードに行かないといけないのですか」

「バカ。この時代はまだ牛肉が高いと思っている庶民がいたし、吉野家その他ファーストフードは旨かったらしいし、当時はオシャレだったのさ。あと大学生のバイト料が今より単価が低い。貧乏女学生なら引っかかったらしいぞ」


 マクドナルドも最初のお店は銀座に出店し、当時は珍しい100%ビーフを売りにしていたしな。


「『私の夫は鼻先零ミリ』の夢子さんじゃないのですよ」

「あの人は吉野家の牛丼一杯で大空さんと付き合うことになっちゃたしな」


「このお店も潰れるのですよね」

「休店だか閉店だか知らんがその通りだ」


 男たちは、汗で透けたドレスを纏い羽毛のついた扇子を激しく振って踊る女と、その下から激しく叫ぶ男たちにドン引き。


「あの女の人、ぱんつ」

「はかないほうがずれない」

「というか、のぞきは犯罪ですよっ」



 意外とお前堅物だな。仮想人格。

 カパカパと酒を開けて愚痴る仮想人格。


「ああ。この時代にいれば」


 いてどうするのよ。インターネットにつなぐのに数時間とか専門知識とかだし、ネット動画もないし、音楽も自作の耳コピだし。


「飯島愛のAVだって今は普通に見ようと思ったら見れますものね」


 それかよ?! AV嬢は災難だな。


「DVD-Rもないぞ。この時代のビデオテープは劣化する。音楽もそうだな。CDもあるけどまだテープ全盛だ」


「う、うーん。どうしようかな」

「あと、この店の全盛期は実はバブル崩壊後なんだ。開店時の1991年はまだバブルの影響があった」


「へぇ」

「潰れたのは1994年」


「意外と最近なんですね」


 それだって20年近く前だ。



「ところでバブル時代に入る寸前だが……」


「あ。『夜明け』では日本は貧乏だったのにどうしてこんなに金持ちになっているのですか?? おかしいじゃないですか」

「円高ドル安の影響で1985年代の日本は現在以上の不況だったんだよ。輸出で大打撃を日本は受けた。


 当時の新聞四コマ漫画では輸出用の車は頑丈な窓を装備しているが国内用の車は安物で事故時に窓を突き破って死ぬっていう風刺があるね」

「詳しいっすね。鴉野さん」


 母が持ってた『フジ三太郎迷場面』に載っていただけだがね。よってくる女の子を半分無視して鴉野は怒涛の知識自慢。確実にもてない。


「この漫画だと昭和六一年(1986年)が舞台だな。高級品だったワープロが秋葉で2万円に低下。


 男女雇用機会均等法施行でコピー機の位置も知らない係長、男は飲酒運転で警察にとめられるからと女装して子供の人形をもって検問を通過する主人公、女性が来なくなった忘年会、くっつくメモの流行、

 羽振りがすこしよくなったので万年ヒラ設定の主人公の奥さんが懐石料理を食べにいって、高い割に腹が膨れないのでラーメンで腹なおし、ハレー彗星ブームや婚前交渉を警戒する男親。



 あとこの時代にやっと認知度を得た花粉症の話、働きすぎだと外国から非難され、家では家庭のことは何もしないと叱られる男たち、放射能測定器や炊飯器をもってソ連旅行に行かないといけないのではないかとかいう風刺漫画、ファミコンを楽しむ父の将来を心配する小学生、激辛食品ブーム、賞与が減らされる話、金ブーム、輸出不振でLSIという当時のコンピュータの端子が売れなくなる話、ハイレグ水着登場」


「な、な、なんかバブル絶頂のはずなのに不況ですね」

「そうなんだよなあ。まぁ今の政府も『景気がいい』を連発していまだ庶民には実感なしだけどね。実際に庶民が景気良いと感じるようになるのは二年後」


 ネットがないから。世論は人が作るのではなくマスコミの発表するデータが決める。


「あ、だからか大型テレビのブームの描写もある」


「へぇ。もうプラズマあるんですか」

「この時代に薄型テレビはない! ひたすらかさばるブラウン管の21型から28型だ」


「ごみじゃないですか」

「当時はバブリーな代物だったみたい」


 今に通じる提案もある。あったらいいものとして会社の宴会の席では呑めない人と呑める人を分けるとか。



「飲めない人はラブラブな若い人たちで若者に絡むオジさんオバさん隔離って描写」


「あ。それめっちゃ欲しいですっ!」

「宴会で先輩方の無茶を受けて酒が嫌いになる人が大半だからな。同じく男女雇用機会均等法補足として『女性車両』ではなく『飲酒車両』と『残業車両』を分けろという提案、タバコの健康表示のようにクレジットカードに買いすぎ注意の表示、私用料金を取る会社用電話機、美術館巡りのために遊園地より先にカート車両を導入してほしい提案もある」


「あ。カートはウォルマートのデブより重要ですね。老人福祉的にも」

「だな」


 鴉野は踊り狂う人々を眺めてため息。この人たち現在は孫がいる世代だからな。


「飲酒車両は欲しいですよ」

「俺も欲しい。先日また酔っ払いに追っかけられた」


 他の風刺描写としては京都の拝観料でもめて『煩悩だらけの鐘の音聞いて人が悪くならないように』と耳栓を売る美女、オンボロ自動車に乗る経済学教授、国家危機に大統領将軍親類財閥皆トンズラするフィリピンのアキノ政権に対して昭和天皇が身を挺して国民を守る描写もあるなぁ。



 ゴルフに始発電車に乗っていくと老人が堂々と皆座っているのをみて、高齢者社会の到来と、仕事がないであろうという的確な予測を主人公は行っている。


「じゃ、この人たちは」

「まぁ憂さ晴らしは重要だ」


「話をずらすのはダメっすよ。鴉野さん。なんでいきなり景気良くなったのです」

「そんなんわかっていたらすげえと思うが、当時における日本では『不動産はなくならないゆえに値段の落ちないもの』とされていたんだ。よってあほほど値上がり、転売されていく。OLでもマンションを買って資産運用ができたらしいよ」


「うーん。この話のチューリップの代わりにただでさえ少ない土地っすか」


 うん。少ないからね。


「で、金持ちはどんどん金持ちになっていくんだが」


「インターネットがないなら投資に庶民は手がだせませんよねぇ」


 うん。でもファミコンで投資できるシステムもあったみたいよ?

「この転売は海外資産や名画などにも及ぶんだけど」



「鴉野さん。鴉野さん」


 はい?


 彼はつぶやいた。


「儲けたら、下の人に分配するという意識が低いんじゃねぇっすか? 今の会社」

「分配したいような下の人間でもないと思うぞ」


 世の中お互い様。


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