【コラム】もうそろそろこのコラムやめよーぜー。うざいし。
「もう読者さんからみてウザいだろ。このコラム辞めたいと思うのだがどうだ」
鴉野は仮想人格の彼に告げた。議題はタイトル通り。
「え~?! もっと政治経済や人間や歴史の楽しさに触れましょうよ!」
「もう本編で充分だろ」
「というか、私はどうなるの」
「人を爆破しかけて何を言うかね」
悪態を突き合う鴉野と少女。
三人は健康ランドを歩く。入浴施設を兼ねた総合レジャー施設は少女には珍しいらしい。『休憩』名目で一夜を休憩室で過ごす人々を見て少女は表情を引き締める。
あ、本編の『休憩』とは意味が異なる。
「あの人たち大丈夫かしら」
「ああ。日本は治安がいいからな」
「まぁ危険ですけど、それだって命の危険はあんまりないです。たまに泥棒される程度ですね」
だらしなく浴衣をはだけてぐーすか眠るおっさんに鴉野は毛布を掛けなおしてあげた。
「カラスノ! お菓子お菓子! ごはんごはん!」
「あ。鴉野さんぼくにもアイスを」
お前ら人の財布を何だと思っている。
「金持っているのカラスノだけ」
「ですよね。今日日の大学生は関関同立や京大生でもバイト料冷え込んでいるんですよ? 居酒屋やラーメン屋で汚いおっさん相手に地面に膝ついては走り回って深夜時給一〇〇〇円ですからね(※連載時期は2013年頃)」
うわあ。夢も希望もない。
「今の大学生は人手にすぎません」
悲哀を感じるな。
「あっ! 本もいっぱいおいてある!」
「古い漫画だけど。……って、お前日本語読めるのか」
「というか、カラスノと普通に会話できているし」
「不思議な現象だな」
頭を抱える鴉野と少女。
「ぼくの能力かな」
……地味にチートだな。貴様。他所のロケーションから人間連れ帰ったり無茶苦茶だよ。
「あれだ。お前の能力でこっちのチタンを向うに持ち込んで大儲けしようぜ」
「それだ! あっちではチタニウムはミスリルって扱いでしたよね! 魔導加工してもらうと夢の金属に化けます! 一気に大金持ちですよ!」
男たちは自重を知らない。
「チタンの話はさておき、古代ローマにもこういう大規模な運動入浴施設があったのだけど知らないかな」
「あ。映画で見ました!」
「なにそれ」
あ、テルマエ・ロマエとかこの子は知らないか。
「著作権料やすすぎ。修正しろと騒がれた映画さ」
そんな話を子供にするな。鴉野。
アイスのバニラの香りを楽しみつつ、三人は施設をめぐる。古びたゲーム機で嬌声をあげ、卓球で仮想人格と子供に負けてふて腐る鴉野を引きずり、テニスやカラオケを堪能する。めっちゃたのしい。バブルの庶民が家族で遊んだ理由わかるぅ~~!
「古代ローマの皇帝は『なぜ毎日風呂に入るか』と外国人に言われ『一日に二度公衆浴場に行く時間がないからだ』と答えたそうだよ」
「らしいっすね」
「こんな楽しいところなら毎日行きたいよね!」
しかも当時のローマは公衆浴場を無料開放する日も少なからずだったらしいし、料金も良心的。貧富を問わずに使えたらしい。
「『始まりの剣士』だか『最初の剣士』さんの理想に叶いますね」
「図らずしもそうなるが、古代魔導帝国時代の施設もローマの風呂に似た施設というか、完璧にモデルにしているからなぁ」
運動を楽しみ、汗を流したら薬油をつけて垢掻きで垢を落とし、ひげをはがしたり哲学や学問について語り合ったりしたらしい。
「ホモホモな楽しみもあったそうですね」
「おい」
やめてくれませんかねぇ。
「ボウリングやりましょ! ボウリング!」
「いい加減にしろっ!」
大学生とローティーンの体力に付き合わされてはたまらない。
「そうそう。この健康ランドは知らないが、昔大阪の箕面にあったスパーランドは女風呂から男風呂がのぞき放題だったらしい」
「今なら普通に訴えられる構造ですね」
いや、当時も切れる人いたみたいよ?
「え? ここから私だけなの? つまんない」
「一緒に入ろーか?!」
「やめんかロリコン大学生。自重しろ」
脱衣所で少女と別れ、男たちは湯船に浸かる。
「のぞきのタブーってのがある。これは世界中にあるな」
「今回はのぞきもテーマだったんですねぇ」
エロは昔から人間のネタになっている。
「日本神話といえば。『私の股間にはなんかでっぱったところがあります』『私の股間にもなんかへこんだところがありますわ』『……そうだ。これを合わせればきっと子供が作れるだろう!』……はぁ」
鴉野は湯船に浸かり、ため息。大きく湯気が揺らぐ。
「冷静に考えたら日本神話ってすごいな」
「国造りを任せる男女に子供の作り方を教えないとか」
「あのあとの展開も『覗くな』のタブーだよな」
「愛する美しい妻がゾンビになって追っかけてくるスプラッタ展開ですけど」
「ギリシア神話では女神の裸を見たアステリオンさんが鹿に変えられて自分の愛犬に食われている」
「あれは怖い」
「『鶴の恩返し』も」
「あれも覗くなだよな」
ところで、なんか騒がしくないかと鴉野はつぶやく。
「カーラッスのっ! かそーじんかくおにーちゃん!!」
聞きなれた声に頭上に瞳を向ける二人。
頭上の観葉植物の隙間からぴょんぴょん跳ねて手を振る少女と遠慮がちにこちらを眺める全裸の老若女性たち。
この施設は上のほうに女風呂があり、観葉植物で目隠しをしているようだ。
「……」
「……」
男たちは無言で股間を抑えた。