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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第十五章 デバガメどもと伝説の女傭兵
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F70戦闘機襲来!

「こんにちは。こちらが貸自転車屋さんでしょうか」


 その女が店に現れたのはぼくらがコーヒー休憩をしている最中だった。


 美人だ。

 その場にいる人間は皆一様にそのような感想を抱いただろう。


 とはいえ、最近出逢う人間は美人ばかりのような気もするが。

 ガウルだって見方を変えれば美男子だし。


「うおおおっ! おっぱいじゃ!」


 この爺。自重しろ。

 そう。ソル爺が叫ぶより先に、顔よりその胸に目が行ってしまうくらい。


 ……デカかった。


 形も抜群。しかも揺れ具合と言い、身体から放たれる芳香といい、温かそうな血管が透けるほど白い肌といい。


「いい乳してるな。姉ちゃん」


 オルデール。貴様も自重しろ。



「そうか。俺はケツと太ももと細い足首がすげえと思った」


 エース。お前の趣味は判った。隣でアリシアさんが睨んでいるぞ。


「ええ。こちらは貸自転車屋ですが」


 腰ほそっ??! どうなってるの?

 ぼくは思わず彼女の頭から(胸で視線が引っかかりつつ)足元まで見てしまった。

 程よく背が高くて体格も良いので、腰の細さが引き立つらしい。


「『立夏の嵐』の人間でも借りることができるようになったと伺って来たのですが一台お貸し願えませんか」


 彼女は丁寧な言葉遣いで依頼すると頭を軽く下げた。

 男たちの視線が彼女の胸元に集中したのは言うまでもない。


 これが彼女との出会いとなる。



「……で、前の議題の街側に温泉をひく方法だが」

「水車なんかどうだ」

「水車ねぇ。『鉄鉱石』じゃないとわからん」「あいつは本当に色々出来るからな」



 彼女の話はいったんおいておき、何が何でも都市部にひきたいとエース。あのお湯には眼病や傷を治す効果もあるらしい。


「水車を具体的に説明すると、水の勢いでくるくる回ると同時に水車の横についた柄杓ですくって水をかき出す仕組みでな」

「しかし、現地に着いたころにはぬるくなってそうだな」


 意外と突っ込まれる。うむう。


「手や自転車で運ぶのはどうだ」

「却下。どれだけ大変なんだよ」「自転車が足りないだろ」


 異世界人、知恵がすごい。ぼくがダメなだけなのか。


「そもそも井戸が掘れるんだから水を温めてだな」

「薪がどれだけ貴重か、異世界人は知らんのだな」


 薪はエルフの恵みであり、勝手に伐採だのなんだのするとエルフのたたりを招くらしい。


「てか詰んでね。エース」

「だから困っているんだろ」


 ぼくらは激しくお湯のひき方について話していた。



「『はなみずき』さま。難しいのでしょうか」「うむ。今協議中だ」


 あーだこーだと話す連中には悪いが、付き合わされるぼくもどーかと思う。普通に邪魔だし。


「『滅びの街』に残る遺跡から、何かの燃料を利用していたことは判るのだがこれがなかなか」

「木ではないのは判るのだが」


 あれ?


「……石炭じゃねそれ。あるいは重油とか」

「セキタン?」「セキユ? 『燃ゆる黒き水』のことか?」


 それだッ?!


「あれは『立夏の嵐』で取れる飲めない水で、燃やしても酷い臭いを放つんだよな」


 ああ。分離とかできないのか。


「『女神』の力でやるしかないのでは」「出来れば滅びの神の力は使いたくないのだがなぁ」


 あの莫大な魔導力は使わないほうがもったいない。ほとんどの連中の意見はそうだが、ぼくらの意見は少々違う。



「まぁ、暫定的に『女神』様の力も使うとしてだ」「永続的になりかねないがな」

『はなみずき』は背後で『今すぐ入りたい!』と無言で抗議する女騎士たちを一瞥してぼやく。


 そこに。


「ただいま帰りました」彼女が帰ってきた。


「すこし慣れるのに時間がかかりましたが快適ですね。またお願いします」


 ふわりと彼女が礼をすると、それに合わせて甘い芳香が揺れた。


「サドルは俺がふく」「むしろ舐める」「やめんか変態」


 彼女が去った後、醜く争うぼくたちを尻目に。


「いぬ。さいきんおまえ、空気だな」

「いぬじゃないもん。おおかみだもん」



 閑話休題。

 ここで最近の異世界研究成果の一環を。


 題して『自転車にのった女性のパンツを覗くための科学的考察(悪用厳禁)』



 そしてタイトルに釣られたオトコどもに告ぐ。

 バカが。ファンタジーの世界にパンツがあると思うなッ!


 ……この世界では下着はまだまだ未発達で、ブラジャーはシャツの変形みたいなものや布で大きすぎる胸を自主的に抑えている程度。そして布は高価だ。


 下着と言ってもかぼちゃパンツみたいなものが多い。パンティはない。そもそも布がないのだ。


 と、言うわけでパンチラのロマンはないしそれでそそるという文化そのものがないのだよ。うん。


 ああ。入口付近で修理中に自転車に乗っている女性が乗車したままお店に帰ってきたら対面で見える時もないわけではないよ? パンツじゃないけど。深くは聞くな。仮に対面で女性の下半身がスカートから垣間見えることについて以下の条件を満たさないといけないことを告げなくてはならない。


 ぼくの身長は165センチ。瞳の高さを仮に140センチとする(細かい高さは知らないが)。

 対する目指すうちの自転車の座高は80センチ。つまり高さ60センチの三角形の範囲内に視線が収まらなければならない。


 キモは距離と対象のスカートの短さだ。



 仮に布地のガードを20センチ、高さ5センチを狙う部分とすれば、三平方の定理により高さ5センチ、幅20センチ、斜面√(ルート)425、すなわち20.6155……センチの三角形が形成される。√425の延長線上にぼくの視線があると仮定したら240センチの距離で視線に股間を収めることができる!


 彼女が帰ってくる時間を把握し、その時間に修理に立ち、ラッキースケベを狙う場合の経済的コストも考えた。


 ぼくの月収を一五〇〇〇〇円。日給に換算して(この世界は一カ月30日ジャスト)日給五〇〇〇円。

 朝五時から昼三時の勤務で一日七時間勤務(一時間は休憩)と仮定! すなわち時給にして七一四円!


 一時間にぼくが出来ること。


 パンク修理一〇分(六台)。修理屋での末端価格三〇〇〇×六=一八〇〇〇円

 スポーク張り直し二〇分(三台)、時価。

 日報作成一〇分から一二〇分。

 トイレ掃除一〇分。風呂掃除二〇分。洗濯(洗濯機が動かないので)二時間前後。


 結論。やってられっか。


「いらっしゃいませ~!」



 なぜか増えたオトコ店員(無給ボランティア)の残念な声を横で聞きながらぼくは愛用のそろばんを動かしていた。


「貸自転車屋にずっといればと思ったのにみえねぇ!」「今一瞬見えた気がする!」「うおおお!」


 いや、意味なく突っ立っているなら手伝えとは言ったけどね?


(※作者注訳 計算間違っていたらごめんなさい。即時訂正します。参考文献。『空想科学大戦2』(柳田理科雄 筆吉純一郎)


 なお、男にとってはそれほど重要ではないがかつて存在した箕面ス●ーガーデンでは女風呂から男風呂覗き放題だった。性別逆転したらサービスになるのだろうか。

 ……そのような平和な事を考える程度にはぼくは短い平和に慣れて少々彼らを誤解していたようだ。なんといっても彼らは元をただせば山賊などなのである。その油断の報いを受け、現在ぼくは山賊団の強襲を受けている。


「自転車を貸せ」


 というか、君ら山賊団としては解散して元の傭兵団になったんじゃないのか。



「『五色の魔竜』を舐めるとタダでは済まんぞ」

「というか、普通、『借りる』じゃなくて『寄越せ』だろ」


 強襲を許してしまうとは。不覚だ。


「泥棒でも強盗でもないし」

「一般論として山賊は強盗だ」


 胸を張って勝ち誇るエースにぐるぐるまきのぼくは告げた。



 少しさかのぼる。

 午後三時の鐘が鳴り、店じまい(何度も述べるが雲の厚いこの世界は午後三時に日が陰りだす)を始め、シャッターを降ろして珈琲を淹れてくつろいでいたところ。


 あれ? いつもの珈琲の香りに加えて。


「甘い香りがするな。『かげゆり』よ。なんか入れたか」


 魔族娘は首をぶんぶんとふった。

 無口な彼女のしぐさに合わせて長くて黒い耳がパタパタと左右にぶれる。


 うーん?



「おい。『つきかげ』。寝るな」

「むにゅ……。もみゅみゅ」


 こら。しなだれかかるな。って。ちょっと胸またでかくなってるぞ。


「ぬむい」

「眠いだろ」


「……『子守唄』」


 歌? なんも聞こえないが。

「人間には、聞こえな」


 強い意志でピンと上に立っていた『かげゆり』の耳がふにゃんと垂れ下がり。「だめ。耐え」ぼくにしなだれかかる。ちょ。


 すっごいいい匂いがするな。『かげゆり』。ってそういう問題じゃない。


 ぼくは二人の始末を考える。さすがに昔みたいに二人一辺に抱えて行くわけにはいけないし。


「開けろ。客だ」

「もうクローズですよ」


「さっさと開けろ。俺だ」



 エースかよ。イイ酒でも手に入れたのかな?


 そしてこうなった。


「自転車を貸せ。今すぐだ」


 なんで君ら剣持ってるんだ? 経緯説明終わり。


 ちなみに犬娘「おおかみっ ……ふみゅ……」もとい狼娘の『つきかげ』は特殊な香を焚かれて一発でダウンしたらしい。鼻が利きすぎるのも考えもの。

 魔族娘の『かげゆり』は人間の聞こえない音声が聞こえるらしいが、エースの持つ鐘の所為で耳を押さえている。


「いや、ごめん! 『つきかげ』ちゃん。『かげゆり』ちゃん」

「骨付き肉で許す……」


 許すな。ばか。

「……」


 黒い肌の美少女の口元がかすかに動く。

「ん? 聞こえないが」

「エースよ。ぼくには判るぞ。『コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス』って言っていると思う」



「おい……」

 ドン引きするエースに。


「(コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス)」


 『かげゆり』の呪詛は続いていた。


「いやいや、さすがにお前ら三人同時は俺らでも無理だからな。騎士団のいない今日くらいしか襲撃は」

「自転車くらい襲撃などせんでも普通に貸すわいッ?!」

「いや、違う。この間『滅びの街』のパレードに貸した自転車を寄越せ。今すぐだ」


 はぁ???

 真剣というか、血走った視線の連中と倒れた娘たちを見比べぼくは茫然としていたが。



 しばし黙考する。

 今更ながら珈琲の優雅な香りに山賊団は似合わない。

 山賊のくせに一日三回洗濯したてのジャケットに着替えるスタイリッシュな山賊とかもっと別の意味でおかしい。


 確かに移動用の足としていくばくか提供したが「違う」らしい。

 あれか? 砂漠王に貸した電動一輪車か?「似ているが違う」。

 あとは本当にパレード用の普通の自転車をみっつ連結した高さ三倍の……。「それだっ!」


「いますぐ貸せッ」

「……事情を聞こうか」


 血走った眼で叫ぶ彼らに『俺』は拳を握りしめて呟いた。


「あれだ。あの温泉だが」


 苦労して都市部に運べるようになったよな。まさか上下水道があの街にあるとは。


「隙間があるんだ」

「ああ。そういう設計だからな。浴槽に面した小さな隙間の数々から外の絶景、特にナイトパレードが見える。あれはいいぞ」



「こっちからなぜ見えない?!!」

「……おまえら」


 ぼくは愛想笑いを浮かべながら呟く。


「そんな理由で襲撃するなああっ!!」


 後日。

 高台にある女風呂を覗くため極端に高い座高の自転車を駆り(※無駄な努力)、投げキスをしつつヒューヒューと言いながらパフォーマンスを行う愉快な山賊やら老魔導士やら少年の姿が見れたと『はなみずき』配下の女騎士たちが述べていた。

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