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街コンってなんですか

「実はだな」


 エースが呟く。

『五色の魔竜砦』の周囲には妖精の世界への門があり異世界の温泉が湧いているという。


「これをだ。例の『滅びの街』の『ユーエンチ』に導入できないかと」

「お前にしてはイイ案だな」


 いや、マジで妖精境の温泉とかすごすぎだろ。フカシだろうが。


「ほら、普通の『熱き泉』は酔狂な人間が数人入る程度だが」


「俺の故郷では温泉にはサルでも入るのだが」

「さる? サルって??」


「サルを知らんのか? 人間の仲間なんだが」


 ぼくは知らなかったが、ニホンザルはサルの仲間では異端なほど寒い地方に住んでいるらしい。


「毛のある餓鬼族みたいな容姿の動物ねぇ」「聞いたことないな」


「私はあるが」「俺もあるな」



 エースたちが首をひねり、教養が比較的ある『はなみずき』とオルデールが返答。『立夏の嵐』のオアシスに少数が生息していることがあるらしい。微妙だな。


「ん。まぁいい。話は戻すけどさ。お前の故郷ではそれこそ一度に数百人が同時に『熱き泉』に入れる施設があるっていうだろ。その話を聞こうと」

「ぼくだって学生時代にちょっとバイトで入った程度なんだが」


 あまり期待するなよ。マジで。

 ぼくの言葉をうんうん唸りながら一心に聞くエースと『はなみずき』。なぜ『はなみずき』まで聞いているんだろう? そう思ったら。


「汗だくになるほどあの『風呂』に入ると信じられないほど肌がきれいになる上、香水をつけたときの匂いが違うのだ」


 なるほど。切実だ。


「ただ『浄水』を身体にかけるよりいいかもしれぬ」


 頷く皇女様だが、正直普通に何もつけなくても魅力的な香りを放っている。ぼくだけの錯覚だろうか。


 そんなやり取りを横で聞いていた連中がいた。『はなみずき』配下の女騎士たちだが。



「え? あの『おふろ』に入れるんですか? 『はなみずき』さまッ?!」


 そういえばぼくがいない間に勝手にお店のお風呂に入っていたみたいだな。 魔族の『かげゆり』や混沌とされる獣人の『つきかげ』が入った後の風呂に入る人間は珍しいのだが。『はなみずき』やその配下はそういったところが薄い。


 最初はアレだったが、モフモフして遊んだり、耳をいじって遊んだりするようになってきたし。


「あれほどキレイになれるならなんでもします!」

「もふもふとぴょんぴょん耳。つるつるお肌に触り放題」


 ちょっとkwsk。


 詳細を聞こうとすると『つきかげ』と『かげゆり』が顔を赤くしながらぼくの足を踏んだ。


「もちろん、妖精の『熱き泉』に入れさせてくれますよね? エースさん!」

 眼が座っていてマジでコワい。

「伝説の妖精の泉に浸かれば十年は若返るらしいわよ」「ほんと? 私子供になっちゃう!」


 早くもはしゃぎまくる彼女たちにぼくらは呆れた。



「目下の問題としては水というものは下に流れるということなのだが」

「街は高台になっていて、『熱き水』を街側に引くことができないから知恵を借りに」


 エースもただガウルに嫉妬しているだけではないらしい。


「それって」「エースさん」「うん。作ったら上から覗き放題だ。女はキレイに。男は覗ける。さぞ儲かるだろうと」


 平然と応えたエースは、『はなみずき』が配下の女性騎士たちの手によってリンチにかけられた。南無。



 男たちの野望はあっさりとついえた。

 しかし! 彼らはあきらめていなかった!

 回復魔法で復活したエースはまだぼくの店に居座っている。来たからには何か土産がほしいらしいが。


「妙案だと思ったのに」

「やり直しだな」


「封印はいいのか」

「俺がいなくてもしばらく持つ」


 邪魔なのだけどなぁ。この時期何かと忙しくて。



「いらっしゃいませ」「いってらっしゃい」


 頭を下げてお客さんたちを送り出すぼくと『かげゆり』『つきかげ』だが、エースをはじめとする山賊風の連中と物々しい騎士連中がいるのはどうかと思うぞ。


「エース。とりあえずその恰好からなんとかしようぜ」

「山賊が山賊以外の恰好をしてどうするんだ」


 自分で言うな。


「というか、くさい」


『つきかげ』がしっぽを揺らしながら呟く。


 汗どころかうんこや小便くさい。何年風呂に入っていないんだ。


「……汚い。ダサい」


『かげゆり』よ。

 思っていても口に出してはいけないことがあると教えたぞ。その言葉を聞いたエースたちは地面に一斉に『の』を描き出した。お前らは子供か。


 散々煮え湯を飲まされてきた相手である『五色の魔竜』たちの愉快な様子に噴き出す騎士団の連中に『はなみずき』が呟いた。



「貴様らも騎士なのだぞ。少し容姿に気を配れないのか」


 騎士たちと山賊たちは一斉に沈んだ。可哀そうに。

 ところで、お前ら店の前で沈むな。営業妨害だ。



『モテたいなら仕事を真面目にやってくれ』

(『はなみずき』談)



 今年入団したばかりの女性騎士(御歳一四歳)と『はなみずき』(御歳は言えない。ぼくと出逢ったとき一三歳だったとだけ言っておこう)が思い思いに勝手なことをいう中、彼は電気カミソリできれいに整えた髭をさすり、ぶつぶつと文句を呟く。



「意外と見れる格好になったな」


 騎士団という以上、普通は子供たちの憧れの職業だが。


「ここ一〇年近く、貸し自転車屋の店員もどきをやりながら諜報だの郵便だの雑事だの」


 御蔭で婚期を逃したと言い訳をする団員の男性(御歳三三歳)。



「だからと言って身だしなみを悪くしろなどとは言っていない」


 彼の上司に当たる『はなみずき』は苦笑する。


「副団長はもう結婚しているんですからそろそろ」

「いい娘を紹介してやっても仕事仕事だ。今更だな」


「こっちは完ぺきだ」


 二メートル越えの食人鬼オーガを思わせる容姿のエースだが、顔立ち自体は悪くはない。

 ただ、ひたすら人相が悪いだけで。本当に人類か。

 こちらは服の仕立てに手間取った。二メートル越えの男の服などオーダーメードするしかない。


「金はあるし、よその国の繊維だの手に入るようになってきているのだから少しは服装に気を使えよ」


 三国の間にある『滅びの街』は立派な港を持っている。海のアトラクションも開設予定で、膨大な収入が見込まれている。


「俺たちも一気に貴族様か」

「『車輪の騎士団』万歳ですね」


 こいつら、例の街の警備を担当するようになって金周りが良くなったらしい。



「で。出会いがナイト。騎士だけに」

「つまらん冗談を言うな」


『はなみずき』が殺気のこもった瞳でぼくをみた。


「成り上がりが一発で判る酷い恰好ですよ」


 ポプラは苦笑する。彼は奥さんのセンスがイイのでまだ良い。他のメンバーの恰好が酷い。今まで服装にあまり気を配らなかったのでなおさらだ。


「繰り返すが、私は何度も何度も口を酸っぱくしていたのだぞ」『はなみずき』は苦笑い。


 まぁ、小国の騎士団は忙しすぎるし、個々人単位では恰好を気にできる財政でもなかったのだろう。『はなみずき』とぼくはそれでも今までの彼らの恩に報いるために演説を始める。


「三国の国交が改善したせいで我が国は好景気が続く中、今まで以上に犯罪率が上がった」


 悪質な店舗はそこの貸し自転車屋に〆られたが、また増えている。

 また、移民と既存住民とのトラブルも絶えない。騎士団の職務はさらに増えている。

 騎士団と元『五色の魔竜』のメンバーが頭を縦に振る中、『はなみずき』とぼくは話を続ける。



「これらの問題を一挙解決するため、当店では、来る来週の闇曜日と光曜日に、王国、各ギルド、各優良店舗のご協力を仰ぎ、『街コン』を開催する」



 ぼくらはにっこり笑いながら高らかに宣言した。


「?」「??」「あの。『まちこん』ってなんですか」


 騎士たちや『五色の魔竜』たちが挙手。


「街単位を出会いの場とする祭りみたいなものだな。地方自治体や商店街の協力を必須とするが」

「???」「???」


 茫然とするもの、頭を抱えるもの。『それって食えるのか』と言い出す残念な者たちを尻目にぼくらは話を続ける。


「参加費をまず払い、『腕章』を身につける。簡単なギルドカードだと思ってほしい」『はなみずき』が実物を騎士団たちに見せる。

「朝の鐘六時より、当店では『腕章』をおもちのかたに無償で自転車をお貸しする。ちなみに返却は今回の企画に参加してくれた各店舗で構わない」


 ぼくは『専用車』と書いてタグをつけた自転車を見せた。ぴかぴかに磨いてある。



「参加店舗では腕章をつけた『二人以上』のグループには割引や特別サービスが保証される」

「各店舗のサービス内容と詳細地図はこちらだ。『腕章』の登録情報から参照できるぞ」


 湧きあがる騎士団の男どもに女たち。お互いの利益のため必ずグループができる仕組みになっているわけだ。


「これなら俺にも彼女が」「あたし、今年こそイイ人を見つける!」


 はしゃぐ騎士団連中に苦笑いしてぼくは告げる。


「これは優良店舗を調査する意味合いもある。忌憚なくアンケートに応えてほしいな」


 ちなみに、入り組んだ店だから特定ができないなどということはない。『腕章』にはGPSのような機能があり、どこの店かは一発でばれる。


「優良店舗として認定された店は王国より賞が贈られる。もっともその後の一年の態度を見てからだがな」


「あと、酒造ギルドから大量のワインが」

「トロール橋のトロール君からも果物やら酒やらが」


 さらに盛り上がる彼ら、彼女ら。



「素晴らしい! 素晴らしい案ですっ」


 感激する騎士たちに『はなみずき』は告げた。


「我々は今整えた服と装備で参加者に交じり、内部からその警備を担当する。元『五色の魔竜』にも協力を要請する」

「仕事ですか……」


 微妙にがっくりきたらしい騎士団連中に『はなみずき』はコロコロと年相応の笑みを見せた。


「ほどほどなら手を抜いてもいいし、多少の飲酒くらいなら許す」



 大喜びで騎士たち『五色の魔竜』たちが出撃してしばらく。休憩時間に皆でコーヒーを飲んでいると『かんもりのみこ』がぶっちゃけ発言をした。


「とどのつまりは人間の女は男を『財布』として見ており、男は女を自分の子供をつくるための『姉妹の樹』とみているのだな」


 その言葉を聞いてガウルはおろかぼくまでコーヒーを盛大に噴く。


「私は聡い。人間の世界のことはよくわかるぞ」



 さわやかに『微笑む』エルフにガウルは涙を流す。


「安心しろ。私は自分を養える。お前を出来そこないの金の円盤を生み出す魔法の袋と認識していない」


 エルフは無表情ながらうれしそうだ。そして一言。


「ただ、本当によかったのか? ガウルよ」

「ん?」


 え、意味わかんない。


「我々は本質的には無性だ」

「はい?」


 は?


「簡潔に言おう。『穴がない』。物理的に子供をつくれぬ」

「……」


 え。ええええ?


「だから、『そちらのほう』はお前の期待に沿えぬ。まさか知らなかったのか?」

「!!!!」


 知らなかったようだ。哀れな奴。



 というか、ぼくらはニューハーフに心惹かれていたようなもんなのか?! 戸惑うガウルをよそに『かんもりのみこ』は楽しそうに彼の狼狽を眺めていた。



「と、いうことがあったんだが」


 いつの間にかいなくなっていた『かげゆり』を探し出し事の次第を話してやると彼女は妙なことを口に出した。


「えるふと『神』や他の妖精、たとえばドワーフとの違いって知っている?」

「なにそれ知らない」


「ドワーフはウソがつけないけど、エルフはウソがつけるの。だから私はえるふが嫌い」

「はい?」


 今お店は偉いことになっているんだが。『かげゆり』はお店の天井から街の様子を見ている。


 下で人間の限界を超えた身体能力を誇る犬娘「おおかみなのっ!」……狼娘が必死で接客および場内整理しているようだ。入れ替わり、立ち替わりカップル成立した人間が自転車に乗って戻ってきたり出て行ったり。話を聞いて今更『腕章はないのか』と食ってかかるお客さんも出る始末。



 ……男女限定五〇しか用意できなかったんだよなぁ。みんなほんと(m´・ω・`)m ゴメン…。


「みんな楽しそう。みんなしねばいいのに」

「物騒だな」


 そういえばこの子、魔族だったっけ。

 彼女のつややかな黒い肌は潤いをますます増し、細い身体はシャープな美しさとともに早くも女性らしい膨らみを帯び始めている。長くたなびく黒髪は小川のきらめき、その香りは百合の花を思わせる。香料をつけていないのに。


「今日はよくしゃべるな。いい傾向じゃないか」

「……」


 彼女はエルフの使う言葉をしゃべりだした。この言葉は歌にしか聞こえない。


『もしこの世界が いつかおわるなら あなたと共に手を握っていたい

 もしこの世が 星屑となって散るならば あなたのそばにいたい


 あなたはどこに わたしのいとしいあなたは今いずこ

 あなたはあそこ わたしの瞳のさきにある空の果て 私のゆびさきとどかぬ大河の果て 



 魂の大河をわたってあなたは旅だった


 わたしはとわに生きる あなたのいないこの世界をとわに生きる


 少し考えれば判ることだった 常命のあなたに恋をしてはいけないと


 少し考えれば判ることだった 小さなともしびと一瞬でも寄り添っていればと……』


「なんて歌なんだ。きれいな歌だな」


『かげゆり』は膝を抱えて黙りこんだ。


「私は魔族。一瞬を寄り添うくらいなら、この手で殺したほうがイイと思う。そうすれば『眷族』に出来る。少しはまし。壊れにくい。心は壊れるけど」


 よくわからないことをぶつぶつと呟く彼女に告げる。


「ほれ。お代りのコーヒー入れてやったぜ」


 彼女の長い耳がぴょこんと嬉しそうに動いた。


「人間に恋をすると、えるふはウソがつけるようになる。同時に人間の子供が作れるように、『兄弟の樹』が生み出した身体の性別が決まる」



「ガウル。それ知らない」

「教えてやれよ」


 それを聞いて彼女の瞳がすうとほそまった。マジギレしている証だ。


「い、いや、悪かった。本気だったんだな」


 あんなんのどこがイイのか我が娘ながら謎だが。

 そして『かげゆり』は瞳を潤ませて呟く。


「『妖精の騎士』」

「ん? なにそれ」


「『魔を断つは妖精の騎士。其は妖精の愛を受け、妖精を信じて悪を討つ』」

「は?」


 何かのおまじないのような台詞を放つ彼女の額にそっと触れた。


「わたし。風邪ひかない」

「知っている」


 ただ、なんか今にも消えそうな脆さを感じたからさ。


「わたしには、永久に寄り添うことも、一瞬の愛を胸に永遠を生きることも出来ない。ましてや」



『かげゆり』の台詞の続きは。


「いやぁ! 『かげゆり』ちゃん! おみやげかってきたよ!」


 某騎士(御歳三三歳)が下で腕をブンブン。馬子にも衣装のイケメンっぷり。その隣では以前毒舌を放っていた新米女性騎士(ただいま一四歳)がぴったり。


「治安維持活動で逆に絡まれているこの子とすっかり」

「おい」「変態だ」「事案だ!」


 下で『つきかげ』たちが非難の言葉をあげた。


「『つきかげ』ちゃん?! 変態ちがう!」

「変態」「私の意志ですよ? 財布財布。若い娘に健康な子供を産んでもらうのですからねぇ。お給金は今からお小遣い制にして、家計に回すつもりです」


 ……ロリコン変態案件と思ったら逆だった。恐ろしいガキだ。マジで。


「そうか。生真面目で職務熱心だと思っていたがまさかロリコンだったとはな。給与を見直し、直接奥方に渡すようにしよう」おどける皇女さま。悪です。

「『はなみずき』様ッ?! そりゃないですよっ?!」


「クク。幸せにな」



「おおいっ! 見てくれッ このエース様にも彼女が出来たぞッ アリシアちゃんっていうんだっ よろしくなッ」


 ああもう。騒がしくなってきたな。

 ぼくは梯子を飛び降りるように下がり、接客に戻った。


「『かげゆり』ッ!」

「……うん」



「おかえりなさい」「いらっしゃいませ」「またのご利用をお待ちしております」


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