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それいけ! モテモテ帝国

「俺たちにも春が来てイイと思うんだ」


 山越え谷超えして『滅びの街』からわざわざエースがやってきたのはナイトパレードが順調に終わり、『封印維持にきわめて有効』『光明や花火魔法代を補って余りある儲け』と三国王家が大喜びしているさなかだった。


「春どころかもう夏祭りだろ。何を言っている」


 この世界では『夏』は七日間しかない。その前祝いである四月の春祭りではお互い悪意のないウソをついていいことになっている。『夏祭り』は国家を挙げて盛大に行われ、パレードも出れば商店も出る。


パレードの進路上に家を建てている人々は事前に自らの家を壊すほどの熱の入れようだ。祭りはある種の区画整理の役目も果たす。


 男女は祭りの炎の中で歌い踊り、食べ物に舌をうち、甘い恋の香りと心を燃やし、骨まで震える喜びは七日にもわたる。


 それが終われば秋になり、長く辛い冬になるのだ。



「なんだよ。儲かっているんだし、いいじゃないか。封印もかつてないほど安定しているんだろ」



 オルデールは『滅びの街』管理の仕事に一役噛んだおかげで一気に金回りが良くなったらしく毎回違う女の子を連れまわしている。そのうち痛い目に遭うと思うが黙っておく。こういうのは自分で学ばないとな。


「三国の魔導士で競い合った御蔭で魔導技術が発展した」


 ソルじいさんは隣国の書の写しを手に入れてウホウホ言っていて気持ち悪い。


「……そる。けがらわしい」


ぷいと『かげゆり』。なにがあった?


「おじいちゃん。最低」


ふわふわのしっぽをピンと立てて『つきかげ』。


「誤解じゃ。ワシがモテモテなのは確定的に明らかじゃが」


三国一の魔導士なのでモテるらしい。信じられないが。


「ほれ! これがワシの真の姿じゃ」


魔法で姿をドロンと変えたソルじいさん。



 そこに現れたのは端正な顔立ちの美男子!

 しかし。『かげゆり』はやや釣り目の瞳をすうとさらに細くする。


「じいさん。『かげゆり』がマジギレしてるぞ」


ただでさえ無口なのに、怒らせるとマジで口をきいてくれなくなる。ぼくも経験がある。


「す、すまん『かげゆり』やぁぁぁっ! 誤解じゃぁぁぁっ! ちょーっと調子にのっちゃったのじゃぁぁっ?!」


 はぁ。まったく。

 ぼくは魔導技術に劣るはずの『立夏の嵐』の魔導士が生み出した小型魔導具を手に苦笑い。

 魔法は使えないが魔導具はなんとか使える。使い勝手はカメラに近い。「魔導技術的にはシンプルなのじゃが、実に考えて作られている」とはソル爺さんの言。


「需要は供給を生むからな」


そういえば今ナイトパレードを彩っている最新型の花火魔法は隣国『艶月の雪』の子供が描いた絵が元になっているらしい。


 そうそう。各神殿も十分の一税を徴収することで、貿易する商人相手に莫大な富を築きつつあるそうだ。



 おかげで紙幣代わりの為替が出回りだした。これがなかなか使い勝手が良い。


「納得いかないだろっ そういってくれっ 俺は無理だッ ガウルめえええっ?!」



 わざわざ山越えてやってきたってのに何言ってるんだろう。エース。

 ぼくらは仕事に戻ろうとしていたのだが。


「『かんもりのみこ』! 本当かッ?!」

「肯定だ」

「うん? どったの『かんもりのみこ』」


 さわやかな香りとほのかな燐光を放つ美女はふわふわなびく髪を指先でかき分け、お店に入ってきた。

 その後ろから最近顔を見せない猟師。ガウルが姿を現す。


「俺達さ。正式に結婚式を挙げようと思うんだが、皆来てくれるよなッ」


へ?

 歯を輝かせて笑う猟師と「興味がないといえばウソになる」と無表情に応える美女に。


『死ね。リア充』



 その場にいた全員(お客さんたち含む)の怨嗟の声が上がった。


 リア充死すべし!


 ある程度ここに書けない程度に無茶苦茶荒れたぼく達だったが、ある程度落ち着いてくると疑問もわいてくる。


「ガウル。そもそもお前『かんもりのみこ』とどうやって出逢った」


ラッキーどころじゃないだろ。


「うん? 猟に出ようと思って森に向かう途中に『森に帰る道が判らない』と言いながらこいつが現れて『この道をまっすぐ』と答えたら次の日に小さな木の前でぼーっと立っていて」


 木が枯れるのを待っていると言われたらしい。

 エルフの時間感覚は半端じゃない。木が育って枯れるまで何百年かかるのだろう。


「で、森までおくっていってやったと」

「迷子になるエルフってどうよ? って思ったけどな」


 なんか、なんか腹が立つ。よし。ぼくも迷子のエルフ探して……いやいや。



「よし! 俺も迷子のエルフを探してくる」

「いや。俺だ!」

「いやいや俺が」


 森は普通に危険なのでやめろ。


 ガウルの故郷ではエルフは神と同一視され、祠などを作ったり石ころをそれこそ何百年もエルフに見立てて捧げものをしたり、エルフを祭って毎年盛大なお祭りがおこなわれるらしい。


「エルフが見ていてくれるから、祭りは盛大かつ楽しく行えってばあちゃんたちに言われる」

「事実だぞ。私はガウルが赤子のころから知っている」


 マジか。


「あと、夕闇にまぎれて、死んだ先祖の魂が帰ってきて、エルフたちも人間に化けて踊って歌っているって」


お盆みたいだな。


「それも事実だ。精霊たちも祭りの日は楽しみにしている」


 薬草茶を飲みながら『かんもりのみこ』は呟く。


「ガウルが祭りの日にした失態も覚えているぞ」



な、なんか空気が冷えてないか? 夏なのに。


「確か村娘に襲いかかろうとして」

「やめろっ?! 餓鬼の頃だから!」


「そうそう。『みかづき』と『はるかぜ』姉さんと呼ぶ娘二人に同時に迫られていたな。両方を選ぼうとして両方に殴られていた」

「なぜ知っているッ?!」


「あと、はじめて祭りに参加した時はおもらししていたな」

「おい……」


 薬草茶の香りを楽しみながらガウルの幼少時の失態を次々と無表情に述べる『かんもりのみこ』と、新妻となるエルフの発言に顔を赤らめて文句を言うガウル。そして興味津津に黒くてとがった耳をピンと立てる『かげゆり』とふわふわ尻尾を揺らして耳をくるくるさせる『つきかげ』。


「村が餓鬼族に襲われた時、助けてくれなかっただろ」


「われわれは人間の争いには関与しない。たとえ永劫に祭りが見られなくなるとしてもだ」


つんと応える彼女だが、一瞬耳が垂れ下がった。

 普段無表情な彼女にぼくらは眞のこころを見た。



「逆に言うと、そこまで俺のことを見てくれていたのか」

「肯定だ」


知らなかったとガウルが呟く。


「私たちエルフは、里の人間の行動はたいてい見守っている。手出しはしないが。私は貴様が子供のころから知っている。お前の言う話よりもだ」

「はい? 俺はお前が初めてあったエルフなんだが」


「『すっごくきれいなおねえさん。ぼくがおおきくなったらけっこんしてください』と言われたな」

「なんかうらやましすぎる」


黙れ。オルデール。


「人間に興味を抱き、身体を作って外の世界に出てみた。無断外出だったのであとで長老がたに叱られたが」


 あのときの子供に会えたと『笑う』。


「大きくなったな。ガウル」

「……ああ。お姉ちゃん」


「大きくなりました。立派になれたかは疑問ですが、結婚して頂けないでしょうか」

「それもまた余興だな」



 ガウルはぼくのチタン製六連パズルリングのコピーを『かんもりのみこ』の指にはめた。


「なんだこれは」


 興味深そうにその指輪を眺める『かんもりのみこ』はのぞき込む動作に合わせて逆手を動かして不思議そうな『しぐさ』をして見せる。エルフはしぐさをしないはずなのだが。


「婚約指輪を知らないのか。本当に俺たちを見ていたのか」

「肯定だが貴様の人生にそんな光景はなかった」


 あ、この先は子供には刺激が強いかも。



 その夜。


 夏になろうとしているが、夜は肌寒い時がある。子供たちは夜泣きしなくなってきたが。

 ぼくは部屋を出て、店の中を歩く。薄暗い店内に光明の魔法の明かりが照らしだす。


 ぼろぼろになった自転車たちに軽く礼を述べ、魔導具で修理の魔法を注ぎ込むが。


「そろそろ金属疲労起こしているのだろうな」



この仕事をたたむ日も近いかもしれない。

 この世界では自転車の完全な再現は難しい。ローテクに見えるハイテク。それが自転車だ。


「『かげゆり』。ここにいたのか」


 薄暗い中に黒い肌の少女は本当に見えにくい。話によるとぼく以外には見えないらしい。

 彼女は『影に溶け込む』能力があるらしいが、なぜかぼくには見える。


「こないで」


珍しくはっきり言葉を放つ『かげゆり』。


「月を見ていたのか」


普段月をみているのは『つきかげ』のほうだ。遠吠えもする。


「あと星も。星も月も消えない。壊れない。死なない」

「知ってるか。星も月も不滅じゃないぞ」


 そうなの?

 呟く魔族の娘に応える。


「何十億、百億年かでほろんだりするそうだぞ」

「ふうん」



 彼女の頭が持ち上がり、耳が左右に震える。


「そこまで生きている自信はないしいきたくはない」

「そうか」


彼女はお店の天井に座り込んでいる。

 ぼくは少し離れて座る。


「珍しいな。曇りばかりのこの世界で星空を見れるなんて」

「こういう日はみんな寒い日でもがまんして星をみる。わたしは星が堕ちていくのも。ずっとかがやいているのも好き」


「そか」

「でも、たまらなく悔しい」


「ん?」


 彼女は語る。

 エルフは不老不死に近い存在だと。

 肉体が滅びても魂は残り、いつか顕現できると。


「それでも、人間と交わって、神性を与えたら無事では済まない」???


「『かんもりのみこ』は、えるふじゃなくなる」

「エルフだろ」



「えるふは。ヒトと交わるのを良しとしない。でも彼女はそれを選んだ」


 私にはできない。できなかった。そう呟く『かげゆり』。


「かのじょらは死をほとんど恐れない。でも『追放』は恐れる。永遠ゆえに」


え。


「くやしい。ほんとうにくやしい」


小さな嗚咽と共に流れる雫にさらに小さな星たちが輝いていた。


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