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【コラム】ここは天国か

「ごめんなちゃい~~!」


 鴉野は腹筋崩壊を必死で耐えていた。今、鴉野と仮想人格二人の目の前にはなろう名物『土下座神』がいる。


「むしろ、最近は珍しいんじゃないか」


「日刊上位にはいませんよね」(※2013年当時)


 小説家になろうを知らない人に軽く解説すると、小説の主人公を異世界に飛ばす際、元の世界に未練を持ったまま他所の世界に行くと、本作の主人公のように望郷の思いを抱いてチート能力があっても普通の生活を続けようとして物語にならないことがある。また愛しい人を残して日本に帰るならばと魅力的なヒロインがいても恋人を作らない問題が発生する。当然である。


「痛快冒険活劇はモテモテで最強でご都合主義じゃないと」

「どこの本宮ひろしだよ」


 愛しい女を残して元の世界に戻るなら森鴎外じゃないか。エリスは追いかけてきたが。


「地味に当時のエリスさんは異世界召喚モノの異世界より行き来できない世界で遙か異国を越えて鴎外追いかけてきたんですよね」



 鴎外さんマジ外道。性欲で若い娘を食い散らかすなら専門の職の人に頼みましょう。マジで。


「で、主人公を一旦殺して異世界で好き放題させてやるから我慢しろってキャラだよね。コレ」


「土下座神自体が使い捨てキャラクターですし、昨今ははやりません。いい加減叩かれていますし、素直に最初から異世界にいたのほうが実は導入楽ですからね」

「一番楽なのは元の世界の記憶はおぼろげしかない。だな」


 いなくてもいい小説のキャラクター、『土下座神』を無視して会話を続ける男たち。


「ごめんなちゃい~~! お兄ちゃんたちは死ぬべき人じゃなかったんですッ 代わりに異世界に」

「やかましいわ『勝田 萌子』」


 鴉野は面倒くさそうに呟いた。だいたいコイツは『死神No.2-4649』こと山口達也君に連れて行かれなかったっけ?


「『ククク。ヤツは四天王の中でも最弱……。』をベリーズで書き直しているからじゃねぇっすか」

「それか。厄介だな」(※連載当時)


「かった? もえ?」



 不思議そうな幼女に鴉野は告げる。


「『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』『勝田 萌子』」


「ぎゃああああああああああああああああっ?!」


 逃げ出す幼女の姿をした『土下座神』。

 こいつの弱点は『本名を呼ばれること』である。


 彼は呆れた。「撃退したらあっちのプロットを書き直さないといけない羽目になりますよ」


 うーん。『金色の髪』が消滅しても、あの世界の人たちって困らんからなぁ。むしろいなくなってくれたほうが喜ぶという。

 それにあっちの読者はそんな作者都合なんてどうでもいいんじゃね? ベリーズには土下座神とか転生チーハーは人気ジャンルじゃないし。


 それより。鴉野はキラキラと輝く惑星の『輪』が見える空間でため息をついた。


「問題は。なんで俺らここにいるの」



「この子に花束爆弾で吹き飛ばされかけたのでとっさにロケーション変えたのです」

「なんで連れてきた?!」


 彼は小さな少女を抱きしめている。鴉野に花束を渡した少女だが鴉野は相手の顔を覚えるのが苦手だ。


「ロリコンとして幼女は守るものですっ!」


 おい。仮想人格がロリコン公言するな。俺まで粉かかる。


「しっかし……転生チーハーか。やっていることは金にあかせて異国で英雄になって好き放題のビン○ディンや権力握ってヒャッハーなヒトラーとかわらんな」


 ベルリンに火を放てなんて普通に愛国者はやらん。


「三島由紀夫はどうですか」

「うーん。まだ著作権切れていないはずだしノーコメント」


 主人公ほんにんたちは楽しいんだろうけどねぇ。


「現実世界でやらないでほしいですよね」

「だからそういうジャンルを俺たちは書くんだ」


 マジで。



「とはいえ。俺たち主人公じゃないし」


「確かに。ですね!」


 ぶーたれる鴉野に苦笑いする彼。

 こんな主人公は迷惑だ。『無笑』で笑いものになっているほうがマシである。


「で。どうするんだよ。この空間って出口あるのか」


「作者が知らないって……まぁ次回にはロケーション変えてますから」


 少女は呟いた。「綺麗」と。


 少女を抱きかかえる彼のそばで寝転ぶ鴉野。床がないのに床みたいになる。変な空間だ。


 鴉野たち三人の視野には惑星を包む『輪』が広がっており、無限の星空がちっぽけな三人を包んでいる。


「そういえば、『ククク』でも書いたけど人類がその瞳に視界として『世界』全てを納めたのはこの百年の間なんだよなぁ」


「久さんは宇宙空間を知らなかったですしね」


 少女をあやしながら彼も応える。



「『水の絆』やこの物語の『皇族』って『ブルーブラッド』の暗喩じゃないですか」

「ああ」


 簡単に解説すると白人の白い肌、金に近い髪の色は劣性遺伝だ。


「確か、自分たちの支配民に対して肌から透ける青い静脈を根拠に血の色が違うと言ったとかなんとかが元とか」


 ヨーロッパの王侯貴族は突き詰めると皆親戚なんだよなぁ。身内であんなドロドロの殺し合い滅ぼしあいしているとか、マジ庶民には意味不明。

 そして庶民が国の垣根ごときで憎み合うことは、ブルーブラッドには意味不明なのだろう。


 どうせ彼らは戦争の最前線にはまず出ない。


「突き詰めると皆親戚で、皆が敵。だから逆に国際連合や国際連盟、EUが産まれたんじゃねぇっすか」

「かもねぇ」


 お互いが『戦争をしない』口約束では誰も履行しないが、『戦争をする』国を全体の敵として、監視機関を置けば機能する。


「参考資料は新渡戸稲造の『国際聯盟とは如何なものか』だな」


「青空文庫にてタダで読めますよ~!」


 ふっるーい古典だが、現代人でも理解できる判りやすい文章で好感が持てる。


「というか何故今頃新渡部稲造」

「いきなり国際連合な条約をファンタジーの世界で結ばれてもなぁ」


 新渡戸稲造の時点で既にチートだ。


 少女を抱きしめる彼に視線を向ける鴉野。

 人間は小さな少女ですら常に軍靴を履いて血にまみれた歴史の川を歩いている。

 何かあってから軍靴の音が聞こえだしたとか言いだすのは、自分の履いている靴すら見えていない人間だけだ。


「どうして人は争うのだろう」


 小さな子供たちすら巻き込んで。


「鴉野さんが賢そうなこと言っている?! ……たぶんセ・リーグとパ・リーグが戦うからでしょう」


 かもね。


 世界から見れば些細なことなのかもしれない。



「綺麗だな。もう少しここにいたいな」


 星々と神々の『箱庭』である惑星を見下ろす鴉野たち。先ほどまで死を覚悟していた少女も指をさして仮想人格と戯れている。


 青い海。みどりの大地。くらやみに輝く星々に見守られ我々はなぜ争うのだろう。


「きれいでちゅ」


 ……ん?

 鴉野のひざ元に見慣れぬ幼女がもうひとり。


「げっ?! キサマまだいたのか勝田ッ」

「うぎゃあああああ」


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