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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第一章 物語開始とほぼ同時期に美少女奴隷たちを買い求めることはなろうのテンプレらしい(作者:『解せぬ』)
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ギルドカードってなんじゃらほい?

「おまえはそろそろギルドカードを作れ」


 ぎるどかーどってなんじゃらほい。

 ぼくは『はなみずき』の発言の意味がわからず。


「お前の能力や身分などを証明するカードだな」


 役立たずの住基ネットか? 西○のドヤ街のおっちゃんが持ち込んでくるけどあれ困るよなあ。三畳の部屋に百人住んでいるとかありえん。


「お前の『命の樹いでんし』を記憶し、更に今までの行動や身分、能力や魔力などを証明する世界に一枚のカードだ」


 ふむ。電子マネーに近いのかな?

 ぼくが首をひねりながら珈琲を炒る姿に『はなみずき』は苦笑い。


「あれから可也(かなり)日が経ったが、お前の態度は変わらないな」

「客商売が客ごとに態度変わってどうする」


 そういうと彼女の頬が赤く染まる。病気だろうか。

 というか、『はなみずき』さん。借りる用事がないならこなくて良いぞ。ぼくはこう見えても結構忙しい。

 おそらくしがない貸自転車屋より皇女だか王女の君のほうが忙しいだろうに。



「お前は今割符を使っているな」

「まぁ紙がとんでもなく貴重品らしいし」


 割符をなくすと身分証明を必要とするしくみ。『この世界』には身分証明の概念が無いと思っていたが違ったらしい。

 そう。驚きだがぼくは地球の、日本とは違う世界。『悠久の翼』国という国の空き地にぼく共々お店が飛んだらしいのだ。


「あれだ、割符が一番シンプルで信頼性が高いからね。コストも安い」


「ギルドカードを試してみると良いぞ。更に信頼性が上がる」


 ふむぅ。今度作ってみようかな。


「それがいい。お前は王家と皇家の保障がついているが、基本的に蛮族の扱いだからな」


 蛮族はおまえらだ。ウンコそこらに撒き散らすな。

 そう悪態をつきかけるが辛うじて黙る。

 さわやかな香りを息と共に吸って頬を緩める金髪の美少女は少女偏愛趣味がなくとも美しい。

 丁寧に油をさした青銅の甲冑は宝石のよう。


「この。珈琲という墨汁すみじるは嫌いではない」



 皇女を名乗る子供。『はなみずき』はそう呟くとぼくの淹れた珈琲を啜った。この子、スポンサーだから逆らえないんだよなぁ。井戸も掘ってくれたし。

 ただ、この井戸ってヤツが良くない。こいつらウンコを地面に垂れ流す。使えるわけがない。


 珈琲はなんとか似たような果実を見つけてもらって作ることに成功したが、インスタントだけではなく豆の状態から持っていて良かったと今でも思う。


 さて。状況確認。

 恐ろしいことにこの国の住民は『魔法』ってヤツが使える。


「私は一切使えないがな。『皇族』なのに」


 そう呟いて、カップを持つ手を下げうつむく『はなみずき』にぼくは慌ててフォロー。


「そ、そのうち使えるようになるってっ……なりますって?!」


 ぼくも使いたいけど、無理だろうな。柄でもない。

 爽やかな香りは専用の炒るための器具を使い、手で行っている。『発火』の指輪、『浄水』の杖と言うのを彼女からもらえた。凄く役に立っている。

 と、いうか、無いと死にます。ハイ。あと、この辺、ウンコ臭すぎ。



「ミストクーラーが使えたらいいのに」


 本来は暑さしのぎに使うが、臭いけしや埃対策にもなる。そう思いながらぼくは店先にぶら下げた銀の輝きをもつ筒を見上げた。

 この国の連中はほっておくと資材や店先のものを平気で持ち出そうとする。泥棒もいいところだ。

 当然、コレも狙われたのだが、最近は色々あって大丈夫になっている。


「いらっしゃいませ。ありがとうございます」


 頭を下げて、整理に追われ、整備を行うぼくに彼女は微笑む。


「忙しそうだな」

「あたりまえだ。バイトが欲しいッ」


 幸いにもこの国の人たちは夕方と共に出歩かなくなる。照明器具そのものが貴重だからだ。その話を聞いてぼくは店にあったライトの乾電池を抜き、『あの魔導具は壊れた』と彼女に報告した。

 だから深夜まで開店していたぼくのお店は夕方三時に閉めることが出来る。この世界、いや、この国は緯度が日本とは異なるらしい。おかげで滅茶苦茶寒い。


「石鹸。もうひとつほしい。王国金貨百枚でどうだ」

「もうない」



 彼女はぷうと頬を膨らませた。欲しいのはぼくのほうだ。このような不潔な世界。石鹸は貴重だ。


「あれを使うと美人になる」

「もともと『はなみずき』さんは美人です」


 子供だけど。言外の言葉は彼女に伝わらない。

 思いのほか機嫌を良くした彼女の相手は嫌いじゃない。白い肌に薔薇色の頬はとても可愛らしい。


「そうか。私は美人か」

「頬が赤いですが、風邪ならばまだマスクが」


 そう告げると彼女の口元が歪む。


「あの変なまじないの布か」

「そうです。効果的面でしょ。正確には人に移さない、よって人からもらわない。治るって理屈ですが」


 魔法で治せる。彼女は嫌そうに呟く。


「でも、すぐ再発したでしょ」


「悔しいがその通りだ」

 抵抗力を高める魔法とか無いのかなぁ。あったらいいのに。

「あの布はあと二十箱しかないらしいが」

「買いこんでいたから二十箱もあります」



「足りないな。民に配るには足りない」

「布ぐらい」


 ここでぼくは口を閉じた。この世界では布が貴重だという事実に。


「おまえに、いい奴隷をくれてやると言ったではないか」

「前にもお伝えしましたがぼくの国には奴隷などと呼ぶ存在はいません。それどころか身分制度も」


 ほんと、しつこい子だ。


「いらっしゃいませ。はじめてですか」

「おい。皇女がバイトの真似するな」


 呆れるぼくの目の前で、ニコニコ笑いながら自転車の整備を始める彼女にぼくは驚愕。ぼくより器用だ。


「貴様の『魔法』学ばせてもらったぞ」


 見よう見まねでそれか。

 こまった女の子だ。ぼくは頭を抱えてみせると彼女は笑ってみせた。

 皇女がアルバイトなんかして良いのか。


「一か月、王国大金貨10枚でどうだ」

「皇女様。自重してください」



 ぼくが頭を抱えていると、彼女は油のついた手で口元をぬぐって微笑んでみせる。


「皇女様。髭がついていますが」


 この世界では珍しい大きなガラス鏡をみせてやる。


「なああっ?! 『浄水』の杖を持てっ?!」


 ふふふ。ふはははっ?!


 朝霧のこる街中に、御転婆皇女とぼくの笑い声が響いた。


「いらっしゃいませ。はじめてですか」

「ありがとうございます。またのご利用をお待ちしております」


 可愛いバイトの娘が、この日ひとり入った。



 後日、『はなみずき』嬢から珍妙なものを渡された。参考の為見せてもらう約束だったものだ。


「これがギルドカード」


 うーん。金に似ているが可也頑丈で薄い。

 ピン。ピン。おお。これは弾力もなかなか。



「魔導強化した純金で作る。魔導強化した際、形状や延性弾性硬度もある程度調整出来る。わが王国発行の正式な身分証明になる。受け取れ」

「へぇへぇ」


「血を垂らせよ」


 そんな不潔なナイフもってくるな。化膿する。

 ぼくは胸元の名札の安全ピンで指を軽く刺して、そのカードに押し付けてみた。


「ふむ」


 ひとしきり感心してみせる『はなみずき』に眉を顰めた。この子は可愛いけれどお姫様だか皇女だか知らない身分だしな。距離感がつかめない。一応従業員だけど。


「体力D 魔力Aだな」

「意味解らん。ゲームじゃあるまいに」


 ぼくの疑問を彼女は無視した。たぶん、ぼくが疑問に思うことそのものが疑問なのだろう。


「これで、晴れて貴君は我が王国の民だ。尽くせ」

「断る。ぼくは日本人だ。二重国籍は問題になる」


「二重国籍とは如何なものだ。私の知識にない言語だ」



 この子、皇女の癖にそういうこと知らんのか。


「世界を揺るがす戦いを何度かうちの世界は経験しているのだが」

「我が世界も経験しているぞ」


「先の大戦だけならぼくの国だけで六十万近く死んでいる」


 押し黙ってしまう彼女。この世界の武器は剣が主流でぼくが知る限り銃器は存在しない。


「その戦いの大きな理由の一つに、別国籍のヤツが別国籍のまま国の中枢部を取ったことがあってね」


「実力があるなら当然だろう」

「もっと言うと、昨今は世界大戦にはならないシステムが確立されているけれども、国の中枢を握った外国人が大国に戦争を挑んだ事例がある」


「ふむ」

「ぼくは日本人だから、多分この国のためには尽くせないだろうね」


 商売としては貢献するけどそれは別問題。ぼくが告げると『はなみずき』が何故か残念そうにしている。


「結婚できないではないか」



 何をいっているのやら。


「妻を残して元の世界に戻る気はない。ぼくは異世界から来た人間だ」


「戻らないほうがいいぞ」

「やなこった」


 ひとしきり揉めた後、『はなみずき』は告げた。


「魔力はある。問題は魔の導きか」


 疑問が顔に出ていたのか、「身分は魔力の有無で決まる。きみは王家の保障があるのみならず『公爵』を名乗れる」と告げる彼女。「ちょうど『公爵』に空きが出来ているから対外的にちょうど良い」と謎の台詞。いりませんと告げるぼく。


 ここでぼくたちの会話は一旦ストップ。


「いらっしゃいませ」

「またのご利用をお待ちしております。ありがとうございました」


 構内の整理は意外と忙しい。前はこんなことなかった。


「柵がなくなったからな」



「柵?」


「身分や職業にあわせて治安維持のための柵を設けていた」

「結果、どうなったのですか。

 正直自分が提案したことなので不安だったのです」


 整理しながら整備もする。接客もだ。

 皇女様の仕事じゃないよな。ホントに。


「治安は悪化したかにみえたが貴君の考え通り確かに街は活気付いたな」

 ぼくはニヤリと笑ってみせる。

「あと、飯が旨くなっただろう」


「差し入れは、確かに豊富になったな」

「各階層の食っているものそのものは不味くても、あっちこっちから食材が入り組めば美味しくする工夫か生まれるからね」

 何事か考え込む彼女に微笑むぼく。

「この『魔法』は抜群に効く」


「しかし、ギルドカードは要らないというのが」

「『身分証明したくない人』の都合もあるんだよ」


 ぼくはニヤリと笑ってみせた。


 だから、『割符』なのさ。

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