善の探求
改稿に伴い追加したオリジナルエピソードです。
「どういうつもりだガウル」
ぼくらは身を寄せ合って猟師の裏切りに抗議する。
「ともだちだよね」
魔族の『かげゆり』の持つ『魅了の眼』が通じないガウルたちだが娘二人、『つきかげ』『かげゆり』のうるんだ瞳にはさすがにひるんだ。
「友達……というか元々ツケがたまっているだけだし」
「お前たちとは敵対したくないが、旧知の者からの要請でな。申し訳ないのだが宝はあきらめてほしい」
神族にとっての身分証でもある『銀の短剣』を向けて『かんもりのみこ』はぼくらに告げる。
「なぜ!」
「ガチなんだよ。その宝は。持つというならば死ぬ」
あ、なるほどね。
『俺』とオルデールは娘二人をそれぞれ押し倒す形で矢の雨から守った。
なお、ガウルたちには人間の放つ矢など全く当たらない。『かんもりのみこ』操る風精霊の加護らしい。
「貴様らが求める宝は我々がもらおう」
絵に描いたような黒装束に黒い鎧。毒の塗られた黒い刃。その動きから精鋭部隊とわかる奴らに舌打ちするぼくら。
「ガウル。お前未熟だぞ。つけられていただろ」
「いやぁ悪い悪い。だって俺ら二人じゃ流石に手にあまるじゃないか!」
「確信犯かよ?! ガウル兄ちゃんのばっきゃろー!」
オルデールが杖を取り出した。彼の地団駄で踏みつけられた草が汁の匂いを放つ。
『ククク……痛がっている。草が。花が。痛がっている。血の匂いと予感……快感……すてき。はぅ』
厨弐病に罹患している『かげゆり』はさておき、オルデールやしっぽをあげて威嚇している『つきかげ』は既に激おこぷんぷん丸だがぼくも同意見。
カカカと笑う猟師は大弓を番えてほほ笑む。
その強弓からかっとんだ矢は易々と謎の集団のリーダーと思しき輩に飛んでいく。その様子にエルフの乙女がなんかタピオカミルクティでもトモダチと飲みにいくかのように声をかけた。
「リーダーを殺したら交渉にならないだろう。貴様」
時既に時間切れ。下段ガードを固めた敵に隙はにぃ。
下段ガードは関係ないが、破壊力ばつ牛ンの弓をはじき、バックステッポでかわした敵は間違いなく強敵である。これで交渉の余地はなくなった。
「黄金の鉄の塊である我々の鎧を貫けると思うか」
「真っ黒だろ!」
とりあえず春川から譲られた鉄木製の木刀を抜くぼく。どこにそんなもの持っていたとツッコむオルデールだがそんなもの背中に隠していたに決まっている。
「魔導強化された金は薄くて軽く、さらに強固で衝撃吸収に優れている。また色合いも自在なんだよ兄ちゃん! 上から来るぞ気を付けろ!」
オルデールが『眠りの雲』を開幕ぶっ放す。乱戦前の多人数相手には有効な戦法で、魔力はさておき室内でも開幕『火球爆裂』かます奴(※ワイズマン)よりはよっぽど実戦的かつ考え抜いた魔法を選ぶセンスを感じる。ただ、その効果は悲しいほどない。
「げ、全然きいていない」
「貴様の未熟な魔導が効くか!」
飛来する矢の嵐にお互いをかばいあうぼくら。
もうだめだと思ったら矢はすとんとぼくらの前で落ちる。『かんもりのみこ』の魔法がぼくらを守ったようだ。これはありがたい。
「とりあえず今は休戦しようぜ。店主」
「おまえ、後で奴らともどもハイスラでボコるわ……」
ぼくのインターネットスラングはさすがに異世界人どもには通じなかった。
「それどころじゃないだろう。それよりこの状況はワクワクしね? 久しぶりに強い奴とやれるぞ」
その台詞に肩をすくめるエルフ。ぼくも同意である。
「概ね同意だが、子供たちがいるのでね! ちょっとおねむになってからでお願いしたいところだよ!」
ぼくは族時代に春川からもらった伝説の木刀、『朱闘羅怒』(※ストラドと読む)を抜いて前に出る。
ガウルの強弓がまとめてうなるなか、ぼくは走り最初の輩に切りかかってそのまま体当たりし滅多打ちして転ばせて関節技にするところ、体当たりは外され盾で逆に動きを逸らされ、その先には毒の塗られた黒い刃。やっべぇ!
甲冑相手にはチェスト体当たりがセオリーだが、態勢が崩れるとそのまま死ぬ。敵が多い場合ならば猶更だ。この戦法は味方の数も重要である。もちろんこちらには。
……蹄の音が聞こえる。
退魔の力を持つ魔導強化銀馬蹄が鳴る音。
「情報通りだな! すまんガウル! 到着が遅れた」
その先陣を切る白馬の女騎士は青銅鎧に大きな盾、そして青銅の剣をもって戦場に立つ。
「きた! メインナイト来た! これで勝つる!」
「何言っているんだ店主」
あきれるガウルと『かんもりのみこ』。
都合よく出現、騎兵隊こと『はなみずき』率いる『悠久の風』郵便騎士団は魔物や山賊に支配された辺境にまで郵便業務を行う王国最精鋭部隊である。
……普段はうちの店でサボっているが。
「実はあいつらTueeな」
ガウルもビビる戦闘能力。
石投げ弓をガンガン打ちながら矢除けのマントを膨らませ大盾構えてランスチャージ。崩れたところを翻して剣でフルボッコ。理想的かつ王道の集団騎兵戦術である。
「まぁあいつら魔物や山賊、越境してきた隣国兵とか国境警備隊と一緒にほとんど毎日ボコっているし」
「そういえばポプラとか優男なのにクソ強かったな」
ところで『はなみずき』率いる郵便騎士団が趨勢を決めたのは事実だが、個人で強かったのはガウルである。なにあいつ。ゴリラかよ。
弓を番えずなんかめちゃ殴っている。
弓が壊れるやめなさい。『つきかげ』がもったいないと嘆いているレベルで弓をぶん回し、バットで飛ばすボールのようにぶんぶん敵をホームラン。さらに『かんもりのみこ』に至っては竜巻を呼び出してぶっ飛ばす。ここまでくると敵が哀れなのだが。
「お前ら。ここは俺たちのシマだぜ」
突如乱入してきた山賊と思しき一団が追い打ちに加わり、瞬く間に敵精鋭部隊をせん滅捕縛していく。
見た目は山賊だがその練度は高い。何者だろうか。
「秘宝は貴様らに渡さん。たとえ貴様らが国家であってもな」
その中央で嘯く男はガウルに匹敵するデカブツだった。
アレ、熊かな。
「人間だ」
「あ、聞こえたの。さーせん」
熊改め男たちのリーダーはカカカと笑って見せると血の付いた刃を捨てて笑う。
「『五色の魔竜』所属、エース様とは俺のことよ」
そして両の拳を打ち鳴らし、まだ戦っていた黒装束どものリーダーに殴りかかっていく。
「タイマンだ!」
「あっずるい」
「おいエース! そりゃないぜ!?」
「こら! 私の獲物だぞ!」
ぼく、ガウル、『はなみずき』がそれぞれ叫ぶ中、彼は拳に付けたナックルのみで黒装束のリーダーを殴り倒して無力化させてみせた。
強い。強い。ものすごく強い。
エース率いる『五色の魔竜』と『郵便騎士団』はなし崩しに戦闘開始。当初互角に見えたが『はなみずき』たち『郵便騎士団』が押されだしている。
なにか様子がおかしい。
なぜだろう。
「貴様、殺す気がないのか」
『はなみずき』たちが焦りのような声を上げる。
「おう。俺らは全員生け捕りが信条だからな」
マジか。網とこん棒と捕物道具だけで『はなみずき』たちと互角に渡り合う奴らがいると思わなかったぞ。
そもそも『はなみずき』は実の所すごく強い。
ついこないだまで小娘だったのだがその剣の冴えは年齢を思わせないし、逆に若い頭で放つ剣は多彩にして柔軟。老獪にして自由。
それでもエースは余裕をもってブラスナックルだけで渡り合っている。空手の使い手として『闘ってみたい』奴に久々に会えた気がする。
「おい! 『はなみずき』! そいつ寄越せ!」
ぼくは嬉々として殴りかかっていくところを『かげゆり』に足を引っかけられた。
「いまのうちに宝をもらえばいいじゃん。兄ちゃん」
オルデールはまるで役立たないが、こういうところはしっかりしていた。
なるほど。『はなみずき』的には黒装束を拘束できれば山賊どもはどうでもいい。
互角に打ち合っているのはそういうことか。
ぼくらは騎士団を手玉にとっているつもりの山賊どもと手玉にとられているつもりの騎士団からこっそり後ずさりして宝を手に入れた。
そうして在処から出てきたら。
「|ω・`」ノ ヤァ」
「持ってきたのか。愚図にもほどがある」
騎士団と山賊に囲まれていた。
お前ら戦いの中で友情築くのは漫画だけにしてくれませんかねぇ……。(マジビビった)