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【コラム】焚書はいまだ続く

「今回はよかったですねぇ。だんみつwww やっぱWeb小説は時事ネタ(※2013年当時)が面白いッス……って。鴉野さん?」


 彼の声など鴉野の耳には入らない。

 鴉野は大きく息を吸い、背を伸ばし。生き生きとした瞳で周囲を見回す。


「うわぁぁぁ。史上名高いアレクサンドリア図書館をこの目で見れるとはっ?! 別館も391年、キリスト教徒のアホ共にぶっ壊されているからなぁ」


「キリスト教徒マジで嫌いなんですね」

「貢献も認めているがな」


 進歩史観者共に石を投げる最大の好例だし。


 彼は苦笑いしてみせた。


「図書館好きだったんですか」

「ここ最近行ってないけど、やっぱこの雰囲気は最高だ」


 ちなみにこの図書館は紀元前300年頃、エジプトに建てられた。

 薬草園も併設され、舶来版といってフネに積んでいる本は全部没収して写本だけ返すくらいの偏執的な収集を行ったとされる。



「最古の学術機関のひとつとされる高名な図書館をこの目に収めることが生涯にあるなんてっ!?」

「子供みたいにはしゃいで……転んでも知りませんよ」



 落ち着いた鴉野を連れて彼は建物の隅に。


「そういえば『悠久の風』図書館は彫像や絵画も収集していますね」

「そーだな。意外と絵画って保存難しいし費用もかかる」


「……いつぞやのオバサンの補修のアレっすか」


 乾いた笑いが二人から漏れた。歴史的絵画を落書きで埋められてはたまらない。

(※2012年 エリアス・ガルシア・マルティネス作「この人を見よ」修復事件。改稿に伴い補記)


「魔導はあの世界、邪悪と見る向きもあるから、主人公が帰還するために必要な研究も断罪される可能性がある」


「ああ。異世界から変な化け物とか呼ばれちゃたまりませんよね」


 理解できますと彼。本を片手に、あるいは両手に右に左に動く人々。活気のある図書館だ。



「実際問題、一神教より多神教のほうが図書館は建設しやすいのかもね」


「へ?」

「多神教と呪術はセットなんだ。滅ぼした民族の神々が呪ってきたら対策が必要。よって敵の著作も保存する」

 一神教だと滅ぼした民族の神など恐れるに足りない。前提条件が違うのだ。

「うちの神様は最高神の天照大神ですら機織して仕事している。仕事自体が喜びなんだ。仕事は神から与えられた罰としている一神教とは」

「……また問題発言を」


 某元総理大臣A氏の発言を元にしています。

 しかし、その考えが中東に和平を齎そうとするカギとなった。因果なものだ。


「同じ神様を信仰しているのに殺しあっていて、敵である異教徒に仲裁されるんですか」

「敵だからこそ出来ることもある。敵の敵は味方だ」


 苦笑いする男たちは取りとめも無い話題に。


「神様で思い出した。漫画の神様と今では呼ばれる手塚治虫も著作を焚書されていた時期がある。低俗な漫画を駆逐せよと。思いっきりアカ狩り(レッドバージ)のとばっちりだけどね」



「マジスカ」

「マジだぞ。当時、手塚先生の著作を叩いていた人は、しっかり内容を見たのかねぇ」


「さぁ?」

「御大の変態描写を列記するなら、せめて空気人形が命持ったり性論理が破綻した一族が登場したり、母を子孫が代々レイプして数を維持とか、顔の皮を剥かれた主人公が狼の皮をかぶってケモ×人とか、あとあと」


「すとーぉっぷ! 鴉野さん今は焚書されなくても小説家になろうアカウントを消されるのはあるのです!」


(消すならば 消してしまえ なろうアカ by からすの 2020/05/10追記)


 職員に問われて首を振る鴉野と彼。職員曰く。

「本は持っていないか」

 実は鴉野は最近買ったキンドルファイアHDに本やなろう小説を納めているのだが。


「焚書だけど。実は今でもやってるんだよ。

 ただ、電子書籍化するようになって、データ面では問題なくなったけど」


「いいんじゃねえっすか」


 スタスタ歩く二人。鴉野は脚を止める。



「どしたんですか? 鴉野さん?」


「マイクロフィルムが開発されて、全ての書籍をフィルムにしようと徹底的に燃やされた事例があってね」今でもだけどと鴉野。

「このスクロールを現代に持ち帰ったら、いくらになるかな」


 にこやかに笑う鴉野に首をぶんぶん振る仮想人格の彼。


「洒落になってねぇっすよ。一生遊んで暮らせます」

「でも当時も今でも燃やしているんだぜ? 図書館のパワーユーザーはかさばる雑誌や新聞を読む。この購読費用が洒落にならん。さらに本を維持管理するには膨大な施設費、人件費がかかる。となると電子化して燃やすしかない。図書館の本は他人に寄贈できないし古書として流通させることはできない。歴史的に重要なものでもデータ化するしかない」


 押し黙る彼。モノは無くなる。

 それでも残るものはある。

 それはそれでいいのだろうが。


「思いは貴重だが、人類にとって必要な『モノ』もまたあるね。しかしカネの都合はそれを上回る」


 ためらいがちに彼は尋ねた。



「思いは電子書籍に残りますか」

「残るだろ。でもデータになっていない紙の本にはそれなりのよさがある。コピーや印刷でも手に持っている本は『物理的に一冊しかない』」


 二人は現代に続く道を歩く。本を手に死んだ学者。本を贈られて喜ぶ子供。貸本屋に走る人々。


 電子書籍を手に古典を勉強し、音声朗読機能で失読症を克服する青年。感想欄のレスポンスに一喜一憂する小説投稿サイトの作者や読者達を視界の隅に入れながら。


「ぼくなりに『人間の条件』を考えたんです。『思いを引き継ぐ生き物』です。何百年、何千年前の石ころから人の思いを引き継ぎ、伝える。それは凄いことじゃないですか」


 そーだなと鴉野は苦笑いした。


「でも、図書館はなくならないよ。一冊の本を譲り合うこと。それは人が集まり、人が人を必要とすることなんだから」


 大学も魔導機関も病院も芸術サロンもある種の『図書館』だ。いや、ひとりひとりの人間。これを書いている私や読んでいるキミだって。

 彼らの歩みはまた現代のWebサイトに。

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