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『かげゆり』

【前書き】


『地味すぎて何時から登場しているのかわからない』


 との読者様からのご指摘を受けて、今章では『かげゆり』を主役として彼女から見た主人公たち(主にガウル&『かんもりのみこ』コンビ)を画きます。


「なろうのお約束SIDE使い&読者が喜ばない長文前書き後書きとはッ?!」

「ついでに作者と仮想人格が作中でしゃべるウザい前書き後書きで大体お約束はクリアかなあ」



【本文】


 空の黒い雲。すき。

 海のざわめきと死の香り。好き。

 風が皮膚を切り裂く。すき。

 炎が人を焼く煙の味。すき。


 黒い雲は太陽ソルのきらめきをうばう。

「今日も曇ってやがる」呪いの声。たまらなくうれしい。


 海のざわめきは『死出に向かう海の神』の声。

 波の上に木切れで作った『フネ』に乗るニンゲンが次々と魚の餌になっていく。



 魚たちは喰い合い、殺し合い、海の神は歓喜する。たまにくる津波もたまらない。

 特にすべてが終わったと見えたあとのあの火事が良い。

 風のざわめきが世界中から人々の声を届けてくれる。


 恨み、憎しみ、呪いに悲嘆。それらを聞いていると身体の奥から気持ちよくなってくる。


 道を歩けば炎が罪人とがびととニンゲンが呼ぶニンゲンを焼くのが見える。

 この悲鳴と、鼻から喉を突き抜ける香りと舌ざわり。私の身体が大人になっていればもっと楽しめるのに。


 ああ。はやく大人になりたいな。


 パン一つを『盗んで、そのため殺した』くらいでヒトがヒトを殺す。

 ニンゲンは面白い。そしてタノシイ。



「おーい。『かげゆり』。『つきかげ』を呼んできてくれ。珈琲にするぞ」

「……わかった」


 喉がなる。

 不思議だ。私は私の身体が制御できない。恥ずかしくも耳が動いているのだろう。たぶん。



「……いぬ。珈琲」


「狼だよ」


『いぬ』の耳が下がり、しっぽがしぼんだ。

 この犬(みんなは『つきかげ』とよぶ)は私が物心ついたときには隣にいた。いろいろうっとおしいけど。ころす気にはならないし、そんな力も私にはない。はやく大人になりたいなぁ。


 小さな銅の鍋もどきを火であぶる『ごしゅじんさま』。すごくたくさんの『良い精霊』にかこまれ、祝福されていてまぶしい。


 カフの実が悲鳴を上げて死に、墨になっていく香りを思う存分吸い込む。

 私の臓腑がなり、舌と口の中があの味と香りを求めている。

 なにも食べていない胃にあの苦くてさわやかな香りを入れるのがたまらなくすき。


「今日は俺が炒っちまったが、いいよな」


 くびを縦にふる。『ウソ』だらけのニンゲンの言葉、苦手。精霊や悪霊の言葉のほうが好き。


 でも、『ごしゅじんさま』はちょっと違う。笑顔という魔法で良い精霊を集める。魔法も使えないのに。



「ああ。『かげゆり』は可愛い」

「私もッ 私もッ」


 私の頭の上をこする『ごしゅじんさま』。実のところこれは嫌いじゃない。

 ただ、いぬ「おおかみ」や、あの皇女にされるとなにもかも壊したくなる。


 このいぬ「おおかみ」わたしが額や唇やまだ出来ていない所を使っていないのに「ゆりっ。おおかみだってば!」と思わないと見抜く。賢い。


「おおかみだもん……いぬじゃないもん……」


 しっぽを丸めて、しゃがみこみ、サンカクでふわふわな耳を垂れて嘆くいぬ。

 なくな。いぬ。骨をあげるから。

 私がこの間拾った骨を渡すと彼女は「人間の骨はいや」と言った。どうも最近は『ごしゅじんさま』の味を想像してしまうらしい。

『いぬ』も油断できない。いぬより早くおとなになりたいなぁ。


 はやくおとなになりたいなぁ。

 精霊に愛されるごしゅじんさまの身体を引き裂いて悪霊に捧げて。

 精霊に罵られて笑いながら『ごしゅじんさま』をすすってみたい。



 皇女は、はらがたつけどあれで私を可愛がってくれるから殺さないであげる。

 犯して眷族にすればいいし。

 いぬは。しかたない。しぬまで飼ってあげよう。……かわいい。


 はやくおとなになりたいなぁ。



 刑務所の飯がまずいのは便所と部屋がセットだから『臭い飯』なんだ。


 知らないことばにごしゅじんさまの説明。

 ことばがせかいをていぎするなら、ことばが生まれるまでその概念は曖昧だったのだろう。あるいはうまれていない。


「ムショがないからなぁ。この世界」


『ごしゅじんさま』が何か言っている。ガウルという猟師(この男はものすごく私を可愛がってくれるので殺さずにして、ごしゅじんさま共々胤をもらうことにしている)は嫌そうに首を振った。面白い。

 ケームショというのはごしゅじんさまの世界にある施設で、犯罪者と人間が呼ぶものたちを集めて色々勉強させたり働かせるための家らしい。

(ごしゅじんさまは異世界から来たと魔導士のソルお爺ちゃんが言っていた)



 へんなの。

 手足切り取ってほうりだせば勝手に死ぬのに、ご飯食べさせてあげるなんて。

 でもごしゅじんさまの世界では国がそれをやっているらしい。へんなの。『儲かる』のかなぁ。


『儲かる』というのはおかねいっぱいになることで、魔族の私でもお金一杯なら奴隷にならずに済むらしい。私は産まれたときから奴隷だったからわからないけど。『ごしゅじんさま』がくれたお金は、皇女に預かってもらっている。


 あの皇女なら酔狂にも持っていてくれるだろう。おカネは要るとき以外はじゃま。


「ガウル。悪いけど『炎の岬』の魔物倒してきてくれよ。『かんもりのみこ』と一緒に」

「マジか」


「ツケの解消と思えば安い安い」

「お前絶対悪魔だろ……」


 ガウルはこういうとき『魔族』って言わない。

 といっても『あくま』っているのかな。『魔神』ならいるけど。あくまって言うのは伝説の魔物で、すごく強いらしいけど私と同じ一族だと思う。ガウルが『魔族』といわないのは、私が傷つくだろうと思っているから。らしい。『イイヒト』なのだ。彼は。



「……」


 彼のすそを引っ張る。きっと今の私は耳が垂れ下がっているのだろう。

 私は寂しい。恐れる。彼がいなくなったら。……私がおとなになったとき、精が啜れない。


「心配するな。嬢ちゃん。俺は強いからな」


 力瘤ちからこぶをつくって誇るガウル。その様子を、わたしたちをエルフの女が眺めている。


 私の両の頬に両手を当ててこすって笑うガウルを顔色一つ変えずに眺めているが。


 絶対この『女』は敵だ。エルフの癖にちゃんと『女』の身体になっている。このエルフは『恋』を知っている。


 変化があまりないわたしたちとちがい、にんげんはコロコロコロコロきまりや気持ちを変えてせわしない。最近、『謡う石』という書き取りのみほんができた。その中身をにんげんはまもらなくてはいけない。変なの。


『三回盗みをしたものは指を一本落とす。暴力を伴う盗みを三回行った者は腕を落とす』

『他者の命を救うためにやむ得ず行った場合などは温情を与える』



 皇女たちが決めて『謳う石』に刻んだ言葉である。


 どっちが正しいのかわからないとニンゲンは悩んでいる。どっちでもいいとおもう。


「いや、この子はパンを俺のところから盗んだだけだから」


 ごしゅじんさまが物乞いの子をかばっている。ごしゅじんさまは『ヤサシイ』のだ。私やいぬ「おおかみ」……隣でふわふわの三角形の耳を垂らしていじけるいぬは無視。

 私やいぬを『おかねのため』開放してくれてちゃんとお給料をくれるし、彼曰く『不当な体罰で周囲に怯えた対処を行うことを覚えた』私にはすごく優しい。そして可愛がってくれる。


 私はごしゅじんさまの妹じゃないけど、それでもうれしい。

 最近夜泣きはしないのだけど、いまだ続くフリをしている。朝方色々我慢しているごしゅじんさまを見ると早く大人になりたいなぁとか思う。


「だいたい、こいつは腹を減らした兄弟のためにパンを盗んだんだ。指を落とすのはまずい。それなら俺がパン一個分の仕事をやるよ」


 まただ。ごしゅじんさまはいつもこう。だから好き。



「この世界ッ モラル低すぎッ?! 日本に帰りたいッ」


 そういいながら『謳う石』の碑文を布で移したものを教材に私といぬ「おおかみ」……は文字を勉強。

 気がついたらさっきの子達もいる。なんでもみんなこの店でなんらかの盗みだのなんだのをしてごしゅじんさまの『罰』を受けているらしい。


「いいか。王国暦百年に起きた隣国との戦争だが」


 いっしょに『ついでだから』と皇女が色々教えてくれる。ニンゲンの『歴史』ってウソばっかりなんだけど、どうしてなのかなぁ。

 あ。いぬが寝ている。「おおかみ」寝言まで。


 わたしたちには誤差だけど、人間は月が十二回満ち欠けすることを大事にする。農業に大事だかららしい。人間曰く、月日が流れるのは早い。



「いい加減にしろっ?! うちは貸し自転車屋であって刑務所や育児所や奴隷監督じゃないぞっ?!」


 だから気がついたら子供で一杯。なんでもちょっと悪戯すれば勉強させられる反面、タダでご飯食べさせてくれると思われているらしい。親たちも「あの店からなんか盗んできてくれ」といっているらしい。



「しかし貴様の寛大な措置や『再犯』の概念は画期的でな。治安維持に極めて貢献しているのを認めざるを得ない……特にこの……教鞭をとるのはなかなか楽しいな」


 皇女は新たな趣味に目覚めた。めいわくだけど。さらにわたしたちの本来の仕事、どろぼうを捕まえるたびに生徒が増えるのでめんどうだ。すとらいきをしたいけどやっていいのかな。


 ご主人様が言うには、歴史は政治の一形態。だそうだ。


 ぺちぺち。かるくいぬを叩く。「おおかみ……」寝てる。

 つんつん。「もみゅ~」たのしい。


「介助犬がいればなぁ。更に色々できるのに」


 そうやってみんなでいぬをつついてあそんでいると「おおかみ」しかることなくごしゅじんさまがなにか言い出した。


「前に言っていた盲人や傷痍者を補助する犬か? ノウハウが無いから不可能だとか言っていたではないか」


 ??

 いぬ。いぬ。よばれている。「おおかみ」うっさい。



「ん? どった? 『かげゆり』」


 振り返り、私を撫でてくれるご主人様になんとか笑顔を見せることに成功した私は告げる。


「……いぬ。言葉わかる」


 いじけるいぬ。骨あげるから黙れ。


「??」

「……いぬ、犬の言葉。わかる」

「おおかみ」


 人間たちに通じなかったらしい。


「……命令を犬に伝えたりも……できるとか?」

「犬、いぬの言葉に従う」


 皇女の手を取って喜びだす『ごしゅじんさま』。どうしたのだろう。


「よかったッ! これでプリズンドックがやれるっ?!」

「本当に狂犬病を防げるのかッ!? 王国の軍事力を増強できるのかっ!!」


 よくわからないけど。だまっていたほうがよかったのかな。


『かげゆり』は小さくとも魔族ダークエルフです。

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