【コラム】今日こそ古典を見つめる日
「グタグタと思いきや、綺麗にまとまりましたね。
『車輪の王国』って本当の名称は『悠久の風』国だったんですね」
後の世では『車輪の王国』で定着するけど、この時代はそう。『悠久の風』国は『車輪の王国』の前身になる。
「本編もこれくらい綺麗にまとまっていたらいいのに」
く。あれは毎日更新を第一是にし、第二是として試験したい試みや、嫌でも更新する技術を鍛える泥縄連載だからな。
「言い訳しても読者さんはついてきてくれません。本編もちゃんと書くべきです」
ずんばぜん。鴉野は話題を変えた。
「ハンムラビ法典ってのがある」
「目には目を。埴輪ハオ! ですねっ」違う。
読めばわかるけど、序文、本文、末尾を駆使して論の根拠と是、民衆への誓約と制約。民衆が守るべき義務をしっかり明記しつつ、当時の世情を考えた最大限の人道主義や平等性、弱者保護を謳っているんだ。
そして、最後もしっかり締めている。
「イメージちがうっすね。復讐法って言われているのに」
実態は復讐のし過ぎで被害が拡大するのを防いでいる。参考までに言うと人間が『決闘』の弊害を克服するまで二〇世紀を待たなければいけないし、今でも決闘法を採用している国家はある。
「なんで決闘がだめなんですか?」
「『図説決闘全書』を読め」
そこまで解説面倒だし。
簡単に解説すると、戦争するより決闘で自国民が死ぬ数のほうが多かった。
「ああ。戦争はさておき、決闘はしょっちゅう起きますよね」
「うん。成文法に限らないけど、どうして著者はそう思うか、その思いの根拠を示し、その思いに従った文ばよい文章と言って良い。そしてその法律によって起きる結果が気に入らなければ何時でも各地にある碑文を確認できる。皆の基本方針をちゃんと決めているんだ」
加えて、碑文の内容は識字率を跳ね上げた。なんせ文字ってのは個人ごとに違う。
「ああ。鴉野さんのようにトンでもなく字が汚い人に文字を習ったらゴチャゴチャで識字率落ちますね」
「でも理想的な基準文字をハッキリ書き取れるように全員に示すのは文字を教えるとき絶対条件なんだ」
「まぁ、顔文字とアルファベットを明朝体で覚えた子供と、ゆる文字で覚えた子供は意思疎通に苦労しそうです」
ギャグ抜きでエジプトの文字も漢字も覚え切れなくて勝手に作った文字が増えまくった時期がある。
「太安万侶(古事記書いた人)なんかまだ平仮名発明前だから、漢文で書いたら日本語が死ぬし、漢字をどうやって日本語で読むかの法則性を必死で考えている」
ここでは紹介しないけど、ハンムラビ法典はほぼ全文が現在でも残っている法典としては世界で二番目に古いとされているんだ。
どんな混沌とした世界でも、正義を信じた人間は一定数いるし、信じ切れなかった人も必ずいる。
「鴉野さん。人の善意はある人にとっては悪意で弊害です。ならば善意は正義と言い切れるでしょうか。悪意は悪と言い切れるでしょうか。人を守るための法が正義なのですか。正義が法になるのですか。
法は悪用して人を貶めることにも使えます」
悪用して人を貶めるのは、自分も少なからず覚えがあるからなぁ。
「きっとそれを見出すために、人は生まれてくるんだよ。……『神の石』でね」
「意思でしょ」
「そうかもね」
「最後にカッコつけようとして誤字脱字はよくないです」
「うっさい」