エピローグ 君の名前は
すべてが『情報』と夢の中に存在する世界にて、その小さな存在は震え、涙を流し、弱弱しく鳴く。
その身体からはいのちのきらめきが抜けていき、その魂は弱く切なく震えて。
……ただ滅びを待つだけだった。滅びを望んでいた。
「妖精の世界に獣が舞い込むとは」
『時々』あるが。その存在は告げる。
「犬か。愛らしい」
その言葉を聞いた小さな存在は消えゆく命を尻目に猛然と牙をむく。
「こら。噛むな。せっかく助けてやろうとしているのに」
どこからか何者かが近づいてくる。
もっともこの世界において『近づく』とは概念上の話であるが。
「どうした? 『ほしをおうむすめ』」「犬を拾った」
またその獣は彼女を噛もうと抗いだす。
「これは狼だ。娘よ」「そうなのか? 獣には疎い」
呆れる『父』に彼女は悪びれもなく告げる。飼っても良いかと。
「どうでもよいが犬ではない。狼だ。この世界ではそういった間違いは許されないことを覚えておけ娘よ」「理解している。犬だな」
また獣は激しく怒りの表情を浮かべ、まだ少女の面影を持つその神族に噛みつかんとする。
「そうだ。飼うならば名前がいるな。……む。名乗る名もない? そうか」
思案し、『ほしをおうむすめ』は狼の赤子に告げる。
「『ディーヌスレイト』だ。貴様の名前は今日より『ディーヌスレイト』で決まりだ。よき名であろう。感謝しろ」
光り輝く人々は去り、物語はまた紡がれていく。
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