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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第二十二章 天使と猫と『はなみずき』
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乱れ咲き

「おい。糞ジジイ。いい加減『桜花』の型教えやがれ」


 夢の中で俺と春川は小学生になっていた。懐かしいな。

しかし今思えば糞生意気な餓鬼だったんだな。俺たち。

俺たちの流派にはいくつかの独自の型がある。


一は『椿花』。耐えて貫く奥義。

二は『桜花』。未来を切り開く破壊の型。

三は『桃花』。流して弾く型。

四は『梅花』。護って慈しむ防御の型。


 具体例を挙げると梅花という奴がこれまた地味で防御技が多い。

まだ椿花のほうがやっていて面白い。組み技や投げ技など空手には珍しい技が豊富だしな。

しかし、師匠に言わせると『梅花』の理解できない俺のような乱暴者にこそ『梅花』を極めるべきとぜ~んぜん相手にしてくれなかった。


「お前に一瞬の輝きを放ち、命を生み出す一撃が放てるか」

ケタケタと笑う彼はかつての俺を軽く〆ながら俺の背に座り茶を飲んでいる。

「どけ~! 重いッ! くっそじじぃ~! 」「ふぉふぉふぉ。最近耳が遠くなったな」


 春川は『桃花』を学んでいた。

「流して冬と共に生き、春を待つ」か。よくわからん。

具体的にどういう型かと言うと手刀受けによる即時反撃や受け流し、投げや反らしが多い。

性格の悪い奴には丁度いい技と言える。

「春川には教えているのに。だいたい梅なんてカッコ悪いぜ。

松竹梅で一番下だろう」俺は悪態をついて師匠の脛をゲシゲシ蹴る。彼は顔色一つ変えないがなんというクソガキだ。昔の俺。


「寒さに耐えて誰より早く春の訪れを教える梅の何処が悪いのだ」

師匠の一言に俺の足が止まる。「そもそも松竹梅と言うのは良い物を指す言葉だ。優劣はない」

もごもごと反論する俺。子供だったんだろう。だが彼は真剣に答えてくれる。


「『椿』を覚えたければ『梅』を極めろ」

冬のクソ冷たい道場で師匠の声が俺の耳朶に流れる。


「まず。手を合わせて全てに祈れ。感謝の心を込めて」守られて守られて冬に咲く椿のように。

「祈りの手を開き、空間を意識しろ。見えない小さな空間が特別な空間となる」見えざる愛しきものを包む掌は梅の花の如し。

「その掌を開き、世界が広がるのを感じろ。自らを広げていけ」春に向けて咲くは桃の如し。

「お前の世界と世界そのものを愛せ。一瞬の輝きを放て。命芽吹く夏に青い葉を伸ばして生きる桜のように」

わかんねぇよ。くそじじい。良いこと言ったと思ってるだろ。俺は師匠に文句を言いながらエアコンつけろだのストーブもってこいだの叫んでいる。


 今の俺は。

小さく拳を握り。ある時は動かずに堪え。

ある時は祈るように手を捧げて大事なものを護り。

受け流し、斬り込んで未来を築く。


「『つきかげ』。帰ろうぜ」「……」


 彫像がビキビキと砕けていく。俺の必殺の蹴りが当たる。

「消えて、壊れて、私も……壊れていい。誰も愛さない。愛せない。愛したくない」

「それは、お前の言葉か『つきかげ』ッ?! このいぬっころッ! 折檻するぞッ 」

彫像が呟く。「いぬじゃない」

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