破壊の女神
「これまでかな」「姉上殿は巧く逃げられたのでしょうかねぇ」
ぼくの言葉に「さぁな」と返す『はなみずき』。
願わくばこの世が滅ばなければよいのだがと彼女は続ける。
「古に二柱の創造神あり。
一は慈愛の女神。慈愛と混沌を愛する豊穣の女神。
二は破壊の女神。秩序と創造を司り安寧に導く優しき妹神」
古い異端の伝説だが、事実だったらしいなと彼女。
この世界は姉神を殺してしまった妹神がはきだす呪いの歌が響く世界。らしい。
「自らを責める思いは冬の寒さとなって世界を切り刻み、呪いの思いは災厄となって世界を覆い尽くしている」
その悪夢を知ってか知らずか人間たちは書き換えてきた。らしい。
「おそらくはじめはただの記憶媒体でしかなかったのだろう。
徐々に世界そのものに記録するようになり、やがて神々の記憶や夢にまで知らず知らずに抵触していき、最後は自らを管理、変換し、神の代行者になろうとしたのではないだろうか」
で。反動で更に災厄に襲われる世界になった。厄介ですねえ。
俺たちはお互いため息をつくと彼女が苦しそうに悶えた。肺をやられているようだ。
「すまない」背中をさすってやることしかできないぼくに彼女はつぶやく。
「もう、終わりらしい」はぁ。君はそんな弱音を吐く子じゃ。
そういいかけて、ぼく等の隠れる石の建物が蛆におおわれ、その蛆が瞬時に腐り、悶えて死に、石は砂になり、チリになっていくのを僕らは呆然と眺めていた。
「みぃつけたぁ♪ 」
石の像が微笑んだような気がした。
「ねね。おみせをあけよう。ごしゅじんさま」
「ゆりー。ゆりー。どこにいるの~。カギはどこ~」
苦しげにつぶやく『はなみずき』。
「アレは、過去の記録を音声として再生しているだけだ。惑わされるな」ええ。無理ですけど。
『俺』は拳を握り直し、『はなみずき』を護って立ち上がる。
「『つきかげ』。折檻されたくなければ正気を取り戻せ」
息吹と共に『俺』は。『ぼく』は再び、『石像』に挑む。