大神
「フレア」
彼女はもうあの枯れ、燃え尽きた森から動くことはない。
永い永い眠りについた彼女は、森と共に再び夢を見る。
自らが竜だという記憶すら、彼女にはない。
「父上」「ガウル。『かんもりのみこ』」
国王は愚かな領主たちを諌め。戦い。ぼく等の前から消え去った。
ガウルと『かんもりのみこ』。オルデールとアンジェラさんはソル爺と『妖精の騎士』の力を手に入れて『アレ』に立ち向かった。
「『邪悪を打ち砕くは妖精の騎士のみ』か」伝説など、信じなければと彼女は嘆く。
ガウル。『かんもりのみこ』たちは。破れたのだ。
「そして、ぼく等も」「情けないな」
生き残った騎士たちに撤退命令をだし、
ぼくと『はなみずき』はお互いつぶやく。
生き残った騎士や領主たちはぼく等に詰め寄る。
死にたくない。生きたい。邪神の手にかかりたくないと。
その邪神を呼び覚ましたのは誰だったんだろうか。もうこの場にはいない。
「こうじょさま…… ごじゅじんさま……」
何処からかぼくらを呼ぶ声が聞こえる。
その声を聴いた騎士たちや領主たちは耳を押さえてのたうつ。
死にたいと叫びだす老婆や少女、子供たちを押さえる。
「どこ…… どこ…… 『かげゆり』。どこなの……」
この世界に、狼と人間の合いの子にあたる生き物はいない。
よく似た症状としてライカンスロープ、狼男などが挙げられるがあれは病気の一種だ。
狼。大神。
「ねぇ。さみしいよ……みんな。どこ……」
小さな狼の子に、無垢なる邪神の魂を内包した存在。
世界を滅ぼさんとする女神の魂を取り戻し、されど元の記憶を引きずり、さまよう石の像。
その涙を流す石像は、『つきかげ』に酷似していた。