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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第二十二章 天使と猫と『はなみずき』
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結婚! 結婚!

 白い絹と木綿のレースで出来たドレスは鎧を模したデザインである。

実際、銀で出来たブレストプレートを彼女は身につけている。

多種多様な花で出来たブーケを手に彼女はそっとぼくの腕を取る。


「行こうか」「え、ええ」思わずふらつく足。彼女の手が僕の腕を強く引いて転倒を避ける。


 近くでふわふわと花の香り。

彼女の美しい顔立ちが大写しになる。「大丈夫か」「大丈夫じゃない」

「つっ とっととッ 」ぼくも彼女を支える。


 気まずそうな顔をした彼女が呟く。

「今の光景、国民に見られていたら後世の笑いものだったな」「慎重に行きましょう」

ぼくらは数度呼吸を整え直し、ゆっくり、ゆっくり歩幅をそろえて歩き出す。



 ガウルは即答で王になるという選択肢を断った。

曰く「せっかく借金を返して『かんもりのみこ』とラブラブ出来るのに王様なんかまどろっこしいこと出来るかッ 」だそうだ。

その『かんもりのみこ』も「残念だがそういうことらしい」と言うことで神族エルフの女王の誕生は叶わなかった。

「神族と剣士の組み合わせも新王として歓迎されるのだが」「へぇ」


 オルデールだが。

「正式に貴族に取り立ててくれるならそれでいいや」欲が無い。

「普通にモテモテなのにこれ以上変なことしたくねえし、その」ん?

「俺、年上苦手なんだよ。姉君は流石に……」あはは。

爺は論外と言うことで全員の意見は一致した。

「速攻で初夜税とか取りまくりそうだ」「確かに」「そる。ふけつ」「お爺ちゃん汚らわしい」ソル爺は泣いていた。


 竜にとどめを刺した娘はなんとか跡形もなく傷を治したが。

「いまだ未熟なのですべてが終わったら旅に出ようかと」と微笑み、暗に王になる道を断った。

国王の爺からは「もう引退する。ワシの『力』もお前に譲るから後は任せた」とか言われたが意味が解らん。


 結果的に。

「ほら、歩幅をそろえろ。私はスカートなど普段穿かないのだ」「僕だってこんな服は普段着ませんよ」

暗闇の中、光に向かって歩む羽目になっている。

 いや、こんな日を夢想しなかったことが無いとは言わないよ? でも諦めていた道だから。

でも、ぼくらは赤く染められた道をゆっくりと歩いている。

粗末ではあるが。子供たちが塗った急造のものではあるが。確かに赤い道だ。


 この世界では貴重な太陽の光と魔法の光がぼく等を照らす。

脳に響くほど大きな祝福の魔法弾の音と花火の輝き。一斉に鳴りだす温かい拍手。

『つきかげ』と『かげゆり』、フレアが『皇女さまふぁいと』と描かれた古びたタペストリを手に半分泣きながら手を振っているのが見えた。


 「ッ 」一瞬立ち止まった彼女の肩をそっと支える。

凄く汚れていたけど、きれいになったよね。血の跡はまだ残っているけど。

親を失いながらも生き残った子供たちがなけなしの花を抱いて歌う。拙いがそれ故に暖かい。

老人たちは何とか修復した楽器を手に少し音が外れた曲を奏でる。調弦なんてできなかった。

「おい。ハル……」「おい。やっと結婚かよ」「流石俺の息子」思わず振り返る。

一瞬、背後の聖堂の闇の中に親父たちやかつての相棒の春川がいたように見えた。まさかね。


 感極まって歩みを止めてしまったぼくたちに降り注ぐ拍手と祝福の声はとても暖かい。

「こんのリア充め! 」「成り上がりにも程があるぜっ 」「皇女様御綺麗ですッ いつにもましてッ 」「『車輪の王国』に幸あれッ 」車輪の王国……。そっか。『車輪の王国』か。



 ボロボロの乞食の風体の男。旧国王はこの都をたまたま訪問した聖人のふりをしながら、ぼくらの祝福を行う。

儀式は古風に乗っ取り、お互いの誓いを口にする。

「剣士よ。皇族の娘の手を取り、民の為に戦い抜く覚悟はあるか」「はい」

「娘よ。汝は剣士の剣となり、共に生きる覚悟はあるか」「勿論」


「ではお互いの口づけをもって……」

白い化粧をした彼女の頬が朱に染まっているのが解る。

というか、ぼくの心臓。おちつけって。やばいって。耳赤いって。つば飲み込みたいし。

うわ。『はなみずき』。目を閉じるな。緊張する。やばい。いい匂い。これはこれはマジでやばいぞ。

彼女の薄い桜色の唇は艶やかに潤み、赤い口紅が彼女の美しさをひきたてている。

頬にうすく塗った白粉の匂いにあたまがくらくら。脚がふらつきそうだが、ぼくはしっかり彼女を抱き、その小さな唇を……。


「大変ですッ 」


 「今は儀式中なのだが」

『はなみずき』とぼくは嫌そうに彼を見た。

一番盛り上がっているところに水を差された皆も黙っていない。

ぶうぶうと声を荒げるぼく等に彼は告げた。

「封印が緩んでいます。このままでは」


 ぼくらはため息をついた。

「また、邪魔された」「ぼくも流石にキレそう」

そして二人、肩を落とした。

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