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ファンタジー世界de『貸し自転車屋さん』始めました  作者: 鴉野 兄貴
第二十二章 天使と猫と『はなみずき』
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こうなるのは目に見えていた

「『はなみずき』様。結婚してください」


 突如店に現れたのは髭がダンディなイケメンである。年齢にして50前くらいか。

と言ってもこの世界の貴族って老化半減能力を持っている為、身体的や容姿面はあまり変化しない。見た目三十路でも五〇前の格好をしているだけだ。

具体的に言うとわざわざロマンスグレイに少し染めたり渋い服にしたりするのが布地の貴重なこの世界においてはオシャレな証拠になる。

年齢がほとんど変化しないというのは服装がそのまま動かないということで金持ちの着道楽やオシャレ的に良くないらしい。


 「私には」

さっきまでカチャカチャと修理をしていた皇女の手はあたりまえだが油まみれの泥まみれ。服に至っては相変わらずダサダサのうちの作業着である。


 「お願いします。『はなみずき』様。あなたのように地位も美貌もある方が」イケメンは躊躇なく、少し鼻の下を伸ばしながら『はなみずき』より胸が大きく、『はなみずき』より腰が細く、『はなみずき』より背が低く、『はなみずき』より耳が長く、『はなみずき』より肌の色が黒い魔族の娘の手を取った。


「……」「やだ」


 『かげゆり』は躊躇なくイケメンを振った。

余談だが魔族の香りは嗅ぐだけで性欲を喚起され、

その瞳を見るだけで魅了される。体型は淫魔とされるにふさわしいソレである。

目が合うと常人はこうなってしまうので彼らの胸元や容姿を見てはいけない。よそ見厳禁である。

「ほんとうに。すきなひといるひとには効かない」以前小声で『かげゆり』が呟いた言葉を忘れられないぼくは過保護なんだろうか。


「貴様と婚約者だということにしていたお蔭で、

権力狙いのうっとおしい連中が消えたと思ったら」


 早々にお帰り願った(しつこいので『つきかげ』に噛まれただけともいう)イケメンさんの後姿を視線で追いながら『はなみずき』は珈琲を口に運ぶ。

久々に嗅ぐ香りに僕まで微笑んでしまう。

なんとか残りのカフィの実が確保できたらしい。


「三国とも滅びて、生き残りは姉君と『はなみずき』、君だけだからね」「『夢の国』の都市型魔導陣を狙って早くも周辺の領主共が動いている」そうなるよね。当然だね。


 この世界の王権は絶対ではない。一番喧嘩が強い領主が王を名乗っているようなもので、各領主が王に税金を納める場合に攻撃を遠慮しているだけだ。

勿論王が変に領主に喧嘩を売れば手痛い反撃を喰らう。


 「現在は私と姉君しか独身の皇族がいないということになる」「だね」姉上は不幸にも夫も子も失ってしまったし。

「領主共は私や姉上、『夢の国』を手に入れるためなら何でもするだろうな」アイツら、竜退治には全く手を貸さなかったくせにこっちの兵が弱っているときは調子こきやがって。

「皇族など権威しかない」「あなたが言っちゃおしまいでしょう」

その権威と人望を慕ってわずかな人々は君の元に集っているのは間違いないのだから。


 よし。考えた。ぼくの頭の上でぴこーんと名アイディアをひらめいた。

「アレです。都市型立体魔導陣を使って『焼き払えッ 』もしくは『ウハハ。敵がゴミのようだ』をやりましょう」「なんだそれは」目を見開き、彼女は不思議そうにつぶやく。


 む。さすがに通じないか。

「じゃ、最近のネタで『ソロモンの墓所から我々が発掘したのだッ』とか、あるいは『世界中の魔力を君に託すわ』を」「もういい。黙れ」

空に浮いていた都があるんだからそういうネタもあると思いました。ごめんね。


 かちゃかちゃ。工具を動かしながら思案にふける彼女。こういう時は機嫌が悪い。

ぼくも大人しく帳簿の帳尻を合わせていく。

「世界中の魔力」「うん? 」


 ふと手を止め、湯気のたなびくカップを揺らす『はなみずき』。

「いや、今少し気になることを言わなかったか? 世界中の魔力を集めるだのなんだのと言う妄言だが」「言いましたよ」

「具体的にはどうすればいい? 」「魔法の無い世界の人間に聞かないでください。ぼくの国の創作物語では魔力を集積して塔に集めて、一度に兵器としてブッ放したり額の水晶に供給して全員が強力な魔力を得るという使い方をしていましたが」「ふむ」


 しばし湯気を揺らしながら考えている彼女。唐突に声がかかる。

「『ゲキリン』の話もそうだが、お前たちの世界の空想と私たちの世界の事実が一致するのは偶然なのだろうか」あれ。そういえば。


 「さぁ……偶然だと思いますが」偶然にしては出来過ぎている。しかし僕たちはあの竜に勝った。

「宇宙すら書き換える。あの上位巨人はそのようなことを言っていたが」そういえば。

「このカードは実は、我々が思っている以上に恐ろしいモノなのだろうな」「かも、しれません」

金色の輝きを放つ薄いカードはふわふわとした3Dコードを輝かせていた。

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