【コラム】大災害の後に
「朱鷺田祐介氏は著書『RPGゲームマスターになる本2【実践編】でRPGシナリオキャンペーンのあり方として『大災害シナリオ』の作り方を提示している」「へぇ」「ふぅん」
鴉野と彼と少女の三人はてくてくと日本の山林を歩く。
「風が気持ちいい」少女が呟くと。「ですね」彼は何処からか冷たいコーラを取り出してゴクゴクと呑む。
「俺もビール欲しいな」「カラスノ。酒は悪魔の飲み物」ちぇ。
「テーマは『多くの物を失った後の生き方』になるね」
大災害は人の生死を分け、都市を破壊し、国家や国際社会すら揺るがす。
その変化を乗り越えて人々が自らの生き方を確立するまでの物語を描くわけだ。
「『人類は滅亡しやがりました。』なんてそうじゃないすか? 」「アレは沙玖夜さんがいるからなぁ。断然ぬるい」
朱鷺田氏が提唱する構成例として。
災害前シナリオ1『災害前の生活描写』これは以前から書いているね。
「というか、今回妖怪お気に入り外しさん大活躍じゃないですか」「いくらなんでもこれまでの路線壊し過ぎだよねぇ」すいません。
「ましてややっと和平を成して『花咲く都』の脅威を退けた国三つとも滅ぶとか」返す言葉もありません。
災害前シナリオ2『災害以前 災害の前兆』
「書いてすらいないじゃないですかっ?! 」「そーだそーだ! 読者さんが納得すると思うなっ! 」まぁ竜だし。理不尽極まりないけど。
災害前シナリオ3『災害以前 災害対策を流布する』
「流布する前に三国が滅びました」「だね……」
この世界の竜って圧倒的すぎるんだよなぁ。
「竜大公様はアレじゃないですか」「先代と先先代と違ってアレはほとんど人間体しか取れないしなぁ」
むしろ具現化できてもあの性格のままだからなぁ。何処で間違ったのだか。
「一応あの人、光竜なんだけどなぁ」「最強でも中身がダメダメですよね」
でも歴代で一番人間に好かれていると思う。
災害前シナリオ4『反災害派との対立』
現実世界で言うと民主党の仕訳問題だな。
思いっきり埋蔵金としてばらまきまくってしまったし。
「東日本大震災で亡くなった多くの皆様に心よりお悔やみ申し上げます」
あの日はマジで凄かったからなぁ。TV見ただけでショックで動けなくなって電車遅れたという人が店に来てた。
災害シナリオ1『災害の発生』
「圧倒的でしたね」「ファンタジーの世界に核兵器撃ち込まれたようなもんだもんなぁ」
チーアも言ってたけど『ちょっと飛んできただけで国が滅ぶ』は伊達ではない。
災害シナリオ2『災害の被害から逃れる』
「三国の都は壊滅し、『滅びの町』こと『夢の国』にわずかな生き残りが移動しましたね」
どっちにせよ、災害で三国は滅ぶ。その生き残り達が建てた国が『車輪の王国』だからね。
災害シナリオ3『災害の影響を確認する』
「鴉野さん。ちゃんと描きましょうよ」「すいません」
しかし、この世界の竜が暴れた後って普通に悲惨だぞ。娯楽小説として書ける範囲じゃない。
災害シナリオ4『災害地から安全な地域への脱出』
「これは。娯楽小説としてどうなんですか。洒落になりません」「まぁね……」
三国の生き残りはあれほど領有権を争った『夢の国』に身を寄せることで皮肉にも生き残ることになる。
災害後シナリオ1『災害の影響を描く』
「普通に三国滅びましたからね。『花咲く都』大喜びですね」
どっこい、あっちも戦後処理ボロボロでこっちに手がほとんど回せない。
そして『車輪の王国』はこれから伸びるんだよ。
『滅びの町』は優良な港も防御施設も整理された都市構造に加えて上下水道が完備されているからね。
災害後シナリオ2『災害後に残されたものは? 』
「フレアさん。こんな形で出て来るとは」「あの娘、あれで苦労しているんだな」本編ではあの性格。どうしてああなった。
災害後シナリオ3『災害後の生活を選び取る』
「もう三国は滅びましたし、『夢の国』で暮らすしかないのですね」「一部の人は滅んだ旧都に戻っていくよ」そこで新たな都を復興させていく。
「復興するにはカネがいるし、人がいるし、治安も維持しないといけないし」「ですね」
結局世の中カネともいうが、それでも。
「ところで、この森はなんですか」「復興支援金を流用でアホな連中が整備した森」でもまぁ、歩く分には良い。
「これって被災者に役に立っているんですか? 」
まったく。でも雇用は生んでいるね。
「なんだかんだ理由をつけちゃ被災者支援と関係ない金を地方自治体使いまくりを見て、『ネタと漢のロマンで作ったTHBFのほうがよっぽどマシってどーなの現実世界の日本政府』と思った件」
「アレ、地味に東北の企業や大学の雇用や研究の助成になっていますもんねぇ……」実は試作品が……いやナンデモナイ。
でもまぁ。よきもわるきも人の営みの中には災害も含まれているからねぇ。
湿気を帯びた腐葉土を踏みしめて歩く鴉野と彼の袖を引く手。
二人が振り返ると少女が頬を染めてつぶやいた。
「そういえばだけど。……この間助けてくれてありがとう」「今更か」
「あはは。いいじゃないですか仲良くなれてッ 」「どうせだったらもっと大人の美女が」「失礼ねッ?! 」
程よい湿気を含む森に三人の笑い声が響いた。