いつからこの物語はバトルになった?!
光の柱が次々と都市の彼方此方からのぼり、邪龍の赤い身体に一斉に降り注いだ。
あらゆる命を奪い去る邪悪な『声』を放つ赤竜は苦悶の呪いを放つが、都市の持つ対神呪詛吸収結界によって梵字やルーン文字のような『文字』に変換、吸収されていく。
ゆっくりと、ゆっくりと邪龍は天から舞い降り、俺たちの前に立った。
命を奪う声を封じられてなお、圧倒的な威圧感を放つ声と共に。
人の焼ける臭いと硫黄のにおいを放ち、炎のように燃える緑の瞳をもって僕を睨む。
「……」
ぼくは左手を振り、『呪い』を弾く。
昼の空が一気に暗くなり、雲が晴れたかと思うとキュキュと言う細い音と共に輝きが竜を貫く。ソル爺の『隕石雨』だ。
その一撃は赤竜の鱗のいくつかを吹き飛ばし、奴の毒の血を噴きださせた。
血が弾け飛び、都市の家々の屋根を焼き、また炎を噴きあがらせるが、
オルデールの用意した防火魔導陣や消火訓練を受けた主婦たちが敢然と立ち向かっていく。
ぼくは拳を握り、皇女の隣に立つ。
彼女は悠然と『ゆうたまぐさ』を抜く。定規の姿をしていてなんとも締まらない外見であるが立派な魔剣だ。
「民の仇、父の仇。夢の仇。今こそ討たせてもらう」彼女は大きく上段に構え、気合と共に走る。
空気を焦がして舞い落ちてきた。
そう感知できたのは後になってからだ。ぼくは危険を感じて彼女をかばって走る。
邪龍の爪が穿った路面の石が砕け、ぼく等のあばらを砕く。
「どけっ! 旦那ッ 」
光と共にガウルの弓が放たれ、邪龍の息吹を反らす。
鼻先に傷を入れられた邪龍はガウルに狙いを定め直す。
「させるか」大地を砕き、大人の胴一〇人分の太さを持つ樹が生え、邪龍を縛り上げようとするが、ブチブチと音を立てて邪龍はくびきから逃れようとする。
「奴に弱点はないのかっ 」悲痛な声を上げる皇女。
街の彼方此方から攻城用クロスボウが魔導補助つきで奴に降り注ぐが、幸運にも砕けた鱗の部分に突き刺さるものはわずかだ。
奴の口元が光り、またぼくの背後以外が沸騰、蒸発していく。
「くそったれ。アンジェラさんはまだか」「もう少し」
ぼくの悪態に『かげゆり』の『風の声』で『つきかげ』が応える。
彼女は改造した自転車で人々を誘導、避難させている。
「『逆鱗』。です。皇女さま」「ゲキリン? 」
「竜の弱点は、ゲキリンだと聞きました。伝説ですが」「……」
「皆の者。『ゲキリン』を探せッ そして討てッ 」
次々と矢が降りかかり、あるいは貧相な刃を付けた棒をもって駆け寄った人だったものが赤い何かとなって沸騰していく中、彼女は『ゆうたまぐさ』を振るい、竜の炎の前に敢然と立ち向かう。
「『ゆうたまぐさ』。正義の剣。平等の刃。私を、皆を護ってくれ」
竜の炎を二つに断ち切り、彼女は走る。
轟音と共にガウルの弓が赤竜の瞳を射抜き、炎を反らす。
光と共に舞い降りた魔導士が天空から聖なる雷を呼び、邪龍を攻撃する。
支援魔法を唱え、皇女と共に短剣を手に駆ける少年は卑猥な冗談を叫び、注意を呼ぶ。
「こっちだ。赤チン野郎ッ 」
竜の意識を呼び、誘導する。
防御施設を破壊し、防火戦を砕き、迫る竜の顎から逃れ、彼は嘯く。
「アンジェラさん。今ですッ 」そして飛ぶ。
白く輝く『ザンマ』が塹壕から伸び、竜の喉元の逆鱗に突き刺さった。
白黒の猫が睦まじく戯れる盾を構えた娘は斬馬刀を手放し、今なお沸騰する地面の中央で転がる。
はるか遠くの郊外の森のほうで、奴の落下音が轟いた。