開戦前
本来ならば立体魔導陣を展開するには膨大な魔力と、
高度な魔導回路の構成を得意とするエルフの協力を必須とするが。
「『ひかりふぁいばー』を繋げ」「はいっ 」
「一番から一〇番機。発電開始ッ」「了解しました」
お店にあった光ファイバー工作キットと廃棄車両から生み出された発電機によって魔法の光が町の隅々に走り、迎撃用の魔導陣を構築していく。
「観測気球から映像ッ 」「火竜の兆候ありッ 迎撃の準備をッ 」
のこったありったけの紙を使った気球が空を飛ぶ。
子供たちは空を舞う不思議な物体に歓声を上げた。
「巻き上げ終了。急いで兵隊さんに届けてッ 」自動巻き上げ機と化した廃棄車両に跨った娘たちが巻き上げの終わったクロスボウを外すように指示。
すかさず片足を奪われた青年や老人たちが子供たちにクロスボウを渡し、兵士に向けて届けられる。
「夢も犠牲になる。か」
ぼくはお店の屋根に登り、つぎつぎと空に舞っていく白い気球を眺めがら『つきかげ』と『かげゆり』と共にため息をつく。
「『ききゅう』綺麗だね」『つきかげ』がサンカクの耳を揺らしながらつぶやく。
「ジテンシャが武器になってる」嫌そうにぼやく『かげゆり』を思わず抱きしめる。
「あ。私も」ふわふわのしっぽが僕らに絡み、くしゃみをする『かげゆり』。
なにをするんだ。『つきかげ』。
「不思議」
魔族の少女はつぶやく。
どこかで槌を振るい、武器を作る臭いがする。
どこかで鉄靴を揃え、迎撃の準備をする兵士たちの声がする。
眼下で脅える人々、祈りを捧げる老婆たちが見える。
「ひとが死ぬのも、恨まれるのも。怖くない。
でも、ジテンシャが争いの道具に使われるのは。悲しい」
彼女の瞳が少し潤み、透明な涙が黒い肌を伝って落ちた。
命も。夢も争いの犠牲になって。傷ついて。
それでも人は生きようとする。何か言ってあげたい。この子たちに。
「あのさ。俺の国で、日本では壊れた器を金箔でつなぎ合わせるんだけどな」
「お前たちだって先祖代々受け継がれた命がある。ちょっと傷ついたくらいがなんだよ。黄金色の輝きを持つ拍が付いたって思おうぜ」
ぼく等は傷つき、それ以上に強くなっていく。ならなければいけない。