【コラム】橋の上で踊るよ踊るよ
「……最後のオチなんすか」
「なろうでは主人公は最強なのが普通らしいぞ」
「いや、今回は経済系最強でほのぼのなのが作品全体で良いところなのであって、暴力でも最強ってどうかと思います」
「正直、すまんかった」
大きな橋の上。張り出したテラスの上のベンチに座り、ベーグルを切ったサンドイッチを広げる男たち。
冬場の澄んだ風がタンブラーに入った紅茶の柔らかい香りを運ぶ。口にベーグルサンドを運ぶ。歯ごたえと旨みに男たちの胃袋が動く。
「旨いな」
「ですね」
橋の下では水鳥が戯れ、男たちの隣を競技用自転車が通過していく。
「橋は意外と重要でな。古来から橋税の問題は多い。維持費がバカ高いからね」
「そうなんですか? 橋にお金ってへんなの」
今は税金でやっていて不透明だからな。
今でも関西空港に向かう橋などは橋税を徴収している。
「昔は現世救済のために僧侶が建設を主導したり、金持ちが出資したりしてたみたい。
山賊が近場のオンボロ橋の通行税を勝手に取っていたら、橋が壊れたら偉い目にあうことに気付く→結局維持管理しないといけなくなる→山賊がやがて領主の真似事をする羽目になる……なんてシナリオも面白いかもね」
「思いっきりトロールさんじゃないですか。今はトレーティングカードゲームの話題ばかりグーグル検索で引っかかりますよね」(※連載時2012年頃)
ギャグ抜きで橋税の問題は橋の上のトロールを生み出した。
ギャザラー共自重。
「戦略拠点として何度も破壊しようとしたり、防衛しようとしたり、渡ろうとしたり架けようとしたりで戦争モノでもネタに尽きないね」
「確かカンボジアの『日本橋』がNHKのドキュメンタリーでも」
「ああ。昔破壊されて再建されたらしいな。母が本で持っていた」
「タイトルにもなっているのはフランスのアビニヨン橋ですね」
「歌としてはロンドン橋も有名だな」
石の橋は頑丈なので上に邸宅を立てて、家賃収入を橋の維持費に回したりした。
「橋の上の邸宅ってカッコイイですもんね」
いざと言う水害のときはやばいけどな。
橋は代表的な公共事業だね。ないと皆困る。日本で有名なのは国内では珍しい水道橋である『通潤橋』だな。
「つうじゅ……」
「今は知らんが古い教科書には載っている。
水のない地域に水を引くために橋で水を引こうとする男たちのお話だ。あれは名作だ」
どうしても立地条件から高低差がクリアできない問題から、逆流する獅子脅しを見ての発想の転換、サイフォンの原理を利用しての大逆転、ひらめきを実行してしまうためのプレゼンテーション。
失敗したら腹を切ると覚悟するなど学ぶことは多い。
「ローマでは征服した土地に真っ先に水道を通した。インフラとして作った水道橋が今でも残っている」
「中世ではその技術が失われて、悪魔が作ったとか言われるようになるんでしたっけ」
うん。
「そうそう。最後に。橋はその町のシンボルになりやすい。だから大きなテラスを作ったり優雅な家を建てたり、デザインを尊重するのも大事なんだ」
「そういえばカンボジアの『日本橋』が再建されたとき、テラスが絶対必要って言われたそうですね」
「今でも恋人たちのスポットになっているらしい」
橋をかけ、カンボジアの妻と結ばれた日本人の子供は自衛隊員となって祖国に戻り、地獄だった街に再びテラスのある橋がかかり、対岸を越えて恋人たちが出逢い、口付けをかわす。
渇きに喘ぐ農民を救うため命をかけ、高低差を乗り越え、知恵と勇気と覚悟をもって一人の男が水を運ぶ。
今日も誰かが橋の上を通り、唄い、踊る。
「橋っていいですよね」