ごめんなさい。生き残りました
「これだけか」「これだけよ。『はなみずき』」
避難民を見て呆然とする『はなみずき』。
『夢の国』にある食料や資材をもって三国難民を受け入れる体制を整える僕らに、
なんとか少ない自転車で逃げてくることに成功した人々の数はあまりにも少なかった。
『艶月の雪』王妃である『はなみずき』の姉は冷淡に告げた。
「あの竜はお父様を殺したあと、腹いせに私たちの国を滅ぼしていったわ」
「余計なことをッ 」『はなみずき』につかみかかる彼女。『俺』は初めて彼女の涙を見たかもしれない。
「炎竜は天災だ。どうしようもない」
爺さん曰く。
この世界の竜はとんでもなく強いらしい。
ピュ! と飛んだだけで国が吹っ飛ぶ。
よしんば生き残っても雄たけびをあげりゃみんな心臓麻痺を起こして死ぬ。
火を噴けば岩が吹っ飛ぶ。というか山が砕ける。
シェイハ! とポージングしただけで英雄が死ぬ。
猫みたいに爪とぎをしただけで城が吹っ飛ぶ。
あ! 鳥だっ! と叫んでいる間に国から国に移動する。今回は三国が一日で滅んだ。
その耳と目は異世界にすら通じていると言われ、古今東西ありとあらゆる知識と情報を持つ。
魔法を使わせればどんな魔導士も適わず、竜語魔法なる独自の魔法体系をも持つ。
多くは四大精霊。稀に光や闇。とにかくなんらかの精霊の力を吸収していて、その精霊の力は無効である。
竜は固体を持って国と同等の機能を持つ。
自由と破壊。破滅と絶望の象徴。最も神に近いとされる一族。それが竜族だ。
「冗談だろ? 」「冗談でこんな被害が出るか」
取り乱し、暴れる上の姉は騎士団のみんなが引きはがしてくれたが、『はなみずき』の頬には酷い痣が出来ている。
「備えはあったのだ。それなのに」全く機能しないほど、天災は人間の備えを上回る。
例え未然に被害を最小限にしたとしても失われた命は帰ってこない。
「どうして。こうなったのだ」
気丈な彼女は必死で唇を噛みしめ、涙をこらえていた。
ぼくらはこれから、怒りに燃える竜を迎え撃たねばならない。