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3<再会と、予感>

 約5年ぶりに会った山上は、豪快な笑顔で私の肩をバシバシと叩いた。

「やっと思い出したな。忘れられたかと思った!」

「う、うん。最初は全然わかんなかったよ。なんかすごい大きいから同い年に見えないし」

「ははは、俺、今177センチあるからな」

「へぇ、すごいね」

 昔は何かと私に突っかかってくることが多かった山上。はっきり言って嫌な奴で、私は大嫌いだった。

 ところが現在の彼はとても気さくで朗らかで、昔のような嫌悪感は全く感じさせない。やはり人間、年月が経てば精神的にも大人になるものだ。

 私は人知れず感動していた。

 しかしそんな中、未だにその場の再会ムードについていけない人物が1人。

「山上……やまがみ……?」

 七緒は難しい顔で首をひねった。

 あぁ。こいつ、5年前に取っ組み合いまでした山上のことを完全に忘れている。

 呆れた私は七緒の首根っこを掴み、小声で言った。

「同じとこで柔道習ってた山上だよ。ほら、掃除当番のときに派手に喧嘩して、私がバケツの水ぶっかけて2人ともびしょ濡れになったじゃん」

 ここまで説明されてようやく、七緒は「あぁ」と手を打った。

「あの山上か。ほんと久しぶりだなー」

「思い出したか、東」

「確か山上、小5のときに外国に引っ越したんだよな」

「あぁ。4年間アメリカにいて、こないだこの町に帰ってきたばっかりなんだ」

 10歳当時の取っ組み合い事件のことなど微塵も感じさせない、和やかな2人のやり取り。

 私はまたしても時の流れを噛み締め、感動した。

「やっぱり4年離れてると色々変わるよなぁ」

「でも、今後はもうずっとこっちにいるんでしょ? その制服、西有坂中のだよね」

 私たちが通う有坂中学校の隣の学区、歩いて15分程のところにあるのが西有坂中学校だ。

 私の問いに、山上はこっくり頷いた。

「今月から西有坂中に通うことになったんだ。今日は転入初日」

 ふと、七緒が何か考え込むような表情になった。

「西有坂っていえば、再来週の練習試合の相手校だな……。山上、まだ柔道は続けてる?」

「おう、アメリカでもずっとやってたからな。まだ入部届け出してないけど、すぐにでも柔道部に入るつもり」

「じゃあ再来週また会うかも。会場も西有坂中の体育館だし」

 それを聞いた山上は、嬉しそうに瞳を輝かせた。

「ってことは、東も柔道続けてるんだな?」

「うん」

「おおぉぉ! そうか!」

 山上は七緒の手を取り、ブンブンと振り回した。たいそう強烈な握手だったが、七緒も嫌そうではなかった。

 やっぱりかつての道場メイトが今も頑張っているというのは、お互いに嬉しいことなのだろう。

 ふと山上が、私と七緒を交互に見つめた。

「それにしても、相変わらずつるんでるんだな。東と杉崎」

「別につるんでるわけじゃ……」

「だって一緒に帰って仲良さそうじゃん。何、ひょっとして付き合ってるとか?」

「いやいやいや……」

 と、私と七緒のゆるい反論の声がハモった。右手を軽く振る動作まで一緒だ。

 ……「ゆるい」だとか「軽い」だとか。これが好きな人との仲を冷やかされた女子の反応に付く形容詞だなんて、我ながら間違っていると思う。しかし、この質問に対する慣れや緊張感のなさ、そして何より隣の七緒が全く照れたり動揺したりする姿を見せない(これは毎回ちょっとムカつくのだが)ということで、結局私はこうなってしまうのだ。

「そうなんだ。でもまぁアレだな、東は相変わらず男にモテそうな顔だな!」

 そう言う山上は悪気など少しもない様子だけど、やはり七緒の眉がピクリと動くのを私は見逃さなかった。

「全く、全然、微塵もモテねーよ」

 嘘だ。

「ははは!」

 山上の大きな笑い声が響く。

 言いたいことはズバズバ言う、スキンシップ多め、そして明るく豪快に笑う──これがアメリカナイズというやつなのだろうか?いっそ山上の笑い声をHAHAHAと表記したいくらいだ。

「──おっと、俺そろそろ帰るな。引っ越してきたばっかりだから色々やることがあるんだ」

 山上は「東、また再来週。杉崎も」と手を振り、大股歩きで去っていった。

 その後ろ姿が見えなくなるまで見送った後、私は呟いた。

「……山上、変わったねー」

「そう? もとから体デカかったじゃん」

「見た目じゃなくて、性格の話だよ。昔はもっといじめっ子っぽかったのに、すっかり陽気な良い奴だね」

 勝手ながら、私は今の山上とならかなり良いお友達になれそうな予感がしていた。やっぱり時の流れって素晴らしい。

 うーん、と七緒がしっくり来ていなさそうに首を傾げた。

「山上って昔そんなんだったっけ?」

「私、結構いじわるされた記憶があるんだけど」

「それって心都に対してだけじゃねぇの?」

 失礼な。どれほど嫌われていたんだ私。

「えー……。七緒だって取っ組み合いの喧嘩したじゃん」

「だって、そりゃお前あのときはさ」

 ここまで言って七緒は、苦虫を噛み潰したような顔で宙を睨んだ。そして、

「……まぁ、いーや。帰ろ帰ろ」

 勝手に自己完結して、さっさと歩き出した。

「……」

 あのときの取っ組み合いの原因を、その場にいたにも関わらず、私は知らない。

 なんとなく聞く機会を逃したまま5年間が過ぎてしまった──というか、よくよく考えてみればあれ以来、七緒とこの件について話をしたことがなかった。今の彼の反応を見ても、喧嘩のきっかけを特に語るつもりがないのは明らかだ。

「……なんか歯切れ悪いなぁ」

 その言葉を無視して歩く七緒の背中は普段と少し違って見えて、これも制服効果なのかしらと私はぼんやり考えた。
















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