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15<内緒話と、願い事>

 私は満面の笑みで、観覧車から降りてきた2人を出迎えた。

「おかえりなさーい」

 合流するや否や、美里は軽く微笑んで、

「ただいま」

 と私の肩に手を回した。その細腕からは想像もできないすごい力だ。笑顔とは裏腹に、彼女の頭には漫画のように立派な怒りマークが見えた。

「……いやん」

「いやんじゃないわよ、心都の馬鹿。人の応援してる暇があったら自分のほうをもっと頑張りなさいよっ。あんな下品な嘘までついて」

 私にしか聞こえない小さな声で美里が言う。想像通りの彼女らしい台詞。私の演技力を駆使した『観覧車2人きり作戦』について、納得しきれていなかったようだ。

「私は心都と七緒くんに2人で乗ってほしかったのに。心都、強引なんだから」

「おっしゃるとおりです……すんません」

 美里は私の顔をじっと見た。

 肩に腕を回されたままなのでかなりの至近距離だ。彼女の長い睫毛が私の頬に触れるような錯覚をおぼえる。

「……わかったんならよろしい」

 美里がすっと腕を放した。

 言葉ほど怒っているわけじゃない、と……思う。多分。

 私は美里の表情を伺い、同じく小声で訊ねた。

「でも田辺、いい奴だよね」

「……まぁね」

 当の田辺は今、いかに観覧車での時間が素晴らしかったかを締まりのない顔で七緒に報告している。

「んもう、観覧車はサイコーだぞ、東っ! 損! 乗らなきゃ損!」

「はぁ」

「綺麗な夕陽! 小さくなる民衆! いい景色! 素敵なムード! 観覧車サイコー!」

 気持ち悪いほどの笑顔と大きな身振り手振りだ。

 せっかく人が誉めてるってのに、何してんだあいつ。

「うるさい奴だけど」

「……うん。すっごくね」

 美里はげんなりとした顔で頷いた。






 出口を目指して歩いている途中、今度は田辺がこっそり話しかけてきた。

「なぁなぁ杉崎。俺びっくりしちゃったんだけど……」

「ん?」

「栗原さ、知ってたんだよ……!」

 信じられないとでも言いたげな表情の田辺。こんなにも驚くべき出来事が、ゴンドラの中であったのか。

「なになに。田辺が絶叫マシーン苦手なこととか?」

「それもだけど、俺が栗原にフォーリンラブだってこと」

「あー、そうなんだ」

「反応薄っ」

 田辺には悪いけど、それはどう考えても想定の範囲内だった。だって彼の態度はバレバレだし、それに加えて美里は勘が鋭い。田辺の思いに気付かない方が不自然だ。

 それよりも、田辺の繰り出すフォーリンラブだのラブチャンスだのという独特の言葉のセンスのほうが、よっぽど(ある意味)目を見張るものがあると思う。

「でも美里に気持ちを知られてた割には、やけににやにやしてるね、田辺」

 そんなに良いことがあったのだろうか。観覧車に乗っているわずか10分ほどの間に。

 相変わらずのにやけきった表情で、田辺が自慢気に言う。

「へへへ、俺たちマブダチになったんだよ」

「え……それって……」

 いわゆる『お友達でいましょう』という、告白の相手を傷つけずに断る常套句ではないだろうか?

 どうしよう、田辺を見る目がついつい「かわいそう」になってしまう。

 そんな私の心中を察してか、田辺は慌てて首を横に振った。

「いやいやいや、ちげーよ失礼だなっ。まず仲良くならないと愛は生まれないってことで、未来あるお友達になるんだよ」

「未来あるお友達……」

「おう。お互いをよーく知って、ゆくゆくはラブラブカップルだぜ」

 田辺の夢見る瞳は、輝かしい未来へと向けられていた。

 ゴンドラ内での出来事は、2人の距離を前向きに縮めたようだ。

「なるほど。良かったじゃん! やったね田辺」

 同盟の仲間として、彼の幸せが素直に嬉しい。

「へへ、サンキューサンキュー。杉崎のほうはどうだったんだよ」

「……うーん」

 私はというと、田辺と正反対の状態だ。

 『好きな人がいる』ことは知られたものの、七緒は私の気持ちに気付くどころか、まったく鈍感な態度を見せ続けているから。しかも笑顔で応援されちゃうし。レスラーの物真似なんか披露しちゃうし。

「……2歩進んで3歩下がるって感じ?」

「なんだよ、マイナスかよ」

 田辺が呆れたように言った。

「まぁ、まだまだこれからだよ。見てて、私の快進撃を!」

「おー、期待してるぜ。頑張れよ!」

「お前もな盟友!」

 次に4人で遊びに来るときは、もうそれぞれラブラブカップルになってるといいな。

 そんな期待を込めて、私たちは固い固い握手を交わした。



 さきほど祈った世界平和には、もちろん田辺と美里の分の願いも秘かに込められている。

 好きな人と隣で笑い合える状態、それはとてつもなく「平和」だと思うのだ。

 こうして考えると世界平和って、なんとまぁ融通のきく願い事だろう。大抵の望みはこれにひっくるめてしまうことができる気がする。

 私は前を行く七緒をちらりと見た。

 呑気そうにゆっくりと歩く後ろ姿は、幼い頃からよく見慣れたものだ。

 こんな欲張りな私の願いは叶うのだろうか?


 それはウサゴリ様のみぞ知る、近くて遠い未来だ。



遊園地に行って云々の話はこれで終わりになります。

読んでくださっている方々には本当にいくらお礼を言っても言い足りません。ありがとうございます! 嬉しいです。

これからもよろしくお願い致します。

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