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2<目からウロコと、相棒誕生>

 きっかり9時10分前。待ち合わせ場所に着くと、そこには既に1人、先客がいた。

「おーっす杉崎!」

 年中お祭り男・田辺は案の定朝からハイテンションでぶんぶん手を振っている。

「おはよー……」

 私もあくび混じりで挨拶を返す。

 情けない事だけど、昨日の夜はほんのり緊張してしまい、なかなか眠れなかった。これも美里がケーキ屋で余計なプレッシャーをかけたせいだ。まったく小悪魔美少女の言葉には妙に重みがあって困る。

「なんだよ元気ねぇなー。しょっぱなあくびとか、テンション下がるだろ! もっとこう、今日はわくわくするね! みたいなさー……」

「田辺は朝から元気だね」

「あったりめーじゃん! 見ろよオイ、この澄み切った青空、程よい冷気! 絶好の遊園地日和じゃんかワハハハハハハハハハ!」

 ――ごめん、美里。クリスマスパーティーのあの日、田辺と2人きりにさせられてしまった貴女の苦しみが今ならよくわかるよ。

 この人マジでやっかましいわ。

「そうだよねー、そりゃ嬉しいよね。私と七緒のおまけ付きとはいえ、憧れの美里と初めてのデートだもんねー」

「そうそう今日は俺と栗原の記念すべき初デー…………って、はぁー!? な、なな何言ってんだい、お、お前さん!」

 うわー、明らかな動揺。『お前さん』って……今更キャラ変更ですか。

 私は呆れて田辺の顔を眺めた。

「な、何だよその目はっ。別に俺は、栗原の事が、その、すすす好きとかそんなんじゃねーぞ」

 と、赤黒い顔の田辺。うわ。この人、普段からあれだけあからさまな態度をとっておいて、自分の気持ちが周りにバレていないと思い込んでいるらしい。

「田辺、そんな隠さなくても……ていうか今更隠されても。あんたの気持ちなんて多分、美里以外全員知ってると思うよ?」

 ……いや。可哀想だから言わないでおくけど、もしかして美里だって知っているかもしれない。

 焦った表情の田辺は冬だというのに汗だくだ。

「えぇ!? な、何言ってんだよっ。俺そんな態度は1回も…………っていうか、その言葉そのまま杉崎に返すわ!」

「……へ?」

 やばい。一気に攻守交替か?

 私の動揺を見逃さなかった田辺は、にやりと笑う。

「そっちこそ、杉崎の気持ちなんて周りから見りゃバレバレだぜー? まぁ当の東は鈍感だから気付いてないみたいだけどさ」

「な、ぬっ、な……っ」

 もう言葉にならない。私は酸素を求める金魚状態。

「杉崎、もしかして誰にも気付かれてないつもりだった? いっつもあんな顔で東の事見つめといて」

「あ、あんな顔って……?」

 今度は私が異常な量の冷や汗をかく番だ。

「そーだな……例えるなら『美少女を狙う変態』。」

 こりゃ我ながら上手い表現だ、と満足そうに頷く田辺。

 私は思わず膝をついた。前にもどこかで聞いた事あるぞ、その例え。

「まぁそう落ち込むなよ」

「落ち込むよ!」

 単純だと思っていた田辺ごときに恋心を見抜かれていて、しかもその原因が七緒を見つめる変態顔だなんて。落ち込まない方が無理だ。

 ……ふん。華ちゃんは、恋する女の子の顔だって言ってくれたもん。華ちゃんの言う事の方が絶対正しいもん。だって華ちゃんは誰よりも純粋な子だもん。

 とりあえず強引に自分自身を励まし、折れそうな気持ちを立て直した。

 そんな私を見て、田辺がふと言った。

「じゃあ今日は俺たち、お互い好きな相手に接近する大チャンスってわけだな」

「……そーいう事になるね」

 田辺はしばらく宙を眺めて何か考えていたけど、やがてポンッと良い音で手を鳴らした。

「じゃあ俺たちが手を組んで協力し合ったら最強じゃね?」

「え」

「お互いの好きな相手とはマブダチなわけだしさっ! なんか上手いことラブチャンス作れそうじゃん!」

 マブダチだのラブチャンスだの、恐らく普段聞いたら若干恥ずかしさを覚えるであろう単語を並べ熱く語る田辺。

 が、幸いな事に(?)私たちはもはや正常ではない。

 自分の目からウロコが落ちる音を聞いた気がした。

「……っ確かに! うちらが組んだら最強コンビだよ田辺!」

「だよなぁ! やべっ我ながら超名案!」

「田辺天才! 最高! よっ男前!」

「照れんじゃん、そんなに誉めんなよーハハハ!」

 ひととおりテンションを上げきった私たちは、顔をしっかりと見合わせる。

 お互い、その目にあるのは、好きな人への真っすぐな想いだけ。

「よっしゃー! 今日はよろしくな相棒!」

「おうよ!」

 私たちはガシッと握手を交わす。


「わりー、待たせ……」

 と、後ろから聞き慣れた声。

 振り返ると、七緒と美里が目をぱちくりさせて立っていた。

「よっ東、栗原! タイミングいいな!」

「いや、さっきそこで偶然会って一緒に来たんだけど……2人、なんで握手してんの?」

「ふふふ、友情の証ってやつかな。ね、田辺」

「おう!」

 不思議そうに首を傾げる七緒と美里をよそに、笑顔で頷き合う私たち。



 ここに、田辺悠斗と私杉崎心都による『いっちょラブチャンス作っちゃおうじゃん同盟(田辺命名)』が結成されたのだった。


 ――うん。

 ラブチャンスとやら、掴んでやろうじゃないですか。







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