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1<お誘いと、葛藤>

 私の1番の友達である栗原美里は、

 校内きっての美少女で、

 小悪魔で、

 たまにキツくて、

 でも結構優しくて、

 楽しい事が大好きで、

 そしてちょっと謎めいている。

 そんな子だ。










「へぇ、じゃあ次のクリスマスの約束も出来ちゃったんだー。やるじゃない心都」

 と、アイスティーのストローをくわえながら美里。

「えへへ。でしょ?」

「偉い偉ーい。でもそのにやぁっとした笑いはやめなさいね」

 にっこり笑って、彼女は私をたしなめた。

 年が明けて4日目。今日は女2人でプチ新年会(?)ということで、ちょっと豪華にケーキ屋でティータイムだ。

 町で評判のこのお店のケーキは確かにすごくおいしかったけど、私は1番小さなケーキ1個で涙涙の我慢をしておいた。実は正月、お餅のせいで少し体重が増えたのだ。

「なーんだ、私と田辺君ほったらかしてる間、結構うまいこといってたのね。心配して損したー」

 と、可愛いピンクの唇を突きだして美里が言った。だけど私はにやけ笑いが止まらない。

「えへ、ごめんごめんー。別にほったらかしてたわけじゃないんだけど……。美里はその間どうだったの?」

 私が尋ねると、美里は笑顔で答えた。

「田辺君てなんであんなにやっかましいのかしらね」

 うん、目が笑っていません。あんなややこしい奴と2人きりにしやがって疲れんだよ畜生、というオーラがむんむんに漂っている。

 たまらなくなった私はもう一度「……すいませんでした」と頭を下げた。

「あぁ、そうそう。心都に言おうと思ってたんだ。クリスマスパーティーの時に田辺君が遊園地誘ってくれたんだけど、私と、心都と、七緒君と、田辺君の4人で行かない?」

 突然の美里の提案に、私はしばし固まった。

 ──七緒と遊園地かぁ……。小さい頃はよくお母さん達に連れていってもらったけど、最近はそんな機会全くなかった。そういえば小学生の頃は私も七緒も遊園地が大好きだったな。私は「大人になったらここに住むんだもん!」なんて言って、変な時に余計な現実的さを発揮する七緒から「……さすがに住むのは無理じゃねぇ?」と突っ込まれて。最終的には大喧嘩になったっけ。ふ、昔は結構可愛かったじゃん私。

「何にやにやしてんのよ。行くの? 行かないの?」

 幼い頃の思い出から我に返ると、半眼の美里が私を見ていた。

 私は慌てて返事をする。

「うんっ行きたい行きたい! すごい行きたい!」

 意気込んで身を乗り出す私を見て、美里が両手を合わせた。

「よし、じゃあ明日の朝9時に改札ね」

「オッケー。……って明日? 急すぎじゃない?」

「なんか七緒君の部活のオフ日がもう明日しかないらしいのよ。田辺君が言ってた」

「へぇー……」

 そうなのか……大変だな、柔道部。それじゃあ急でも仕方ないか。

「ん、わかった。どうせ私はいつでも暇だしね。じゃあ明日って事で。楽しみだね!」

「楽しみね。心都、頑張ってよ」

「へ?」

 またもや美里が小悪魔的な笑みを見せた。

「遊園地なんてデートの定番じゃない。良い雰囲気になれる機会満載よ。これをチャンスと言わないで何をチャンスと言うのよー?」

「で、でえと?」

 声が裏返ってしまった。

 だってさっきも言ったように、七緒と遊園地なんて過去に腐るほど行っている。そりゃまた一緒に行けて嬉しいに決まっているけど、そんな今更特別に気合い入れるほどの場所でもない気が…………あれ、もしかして私、恋する乙女失格?

 うじうじと葛藤を続ける私の心中を読み取ったかのように、美里が目をすがめた。

「なぁに、まさか心都、また変に悩んでるわけ?」

「……う、いや、えっと」

「七緒君と遊園地に行けるって事に対して、何か闘志みたいなものはないわけ?」

「いや……その……。あ、どきどきはしてるよ? 内蔵ひっくり返るくらい恐い絶叫マシーン乗りたいなあ、ぎゃぎゃー叫びたいなあ、とか考えるとこう胸の高鳴りが」

「あんた失格! 大失格!」

 びしっ、と効果音が聞こえてきそうなほど鋭く、美里が私に人差し指を突き付ける。

「だ、だいしっかく……」

 容赦ないその言葉にかなりのダメージを受け、私は思わずクラッときてしまった。

 椅子から転げ落ちそうになりながらもなんとか持ちこたえた。

「だ、だってさぁ美里、頑張るって言っても、七緒と遊園地なんて何回だって行ってるし……そりゃあ何か進展したらいいなとは思うけど、今更って感じだしー……」

 ――ぐさっ。

 明らかに強すぎる力で、美里が手にしたフォークをチーズケーキに思い切り突き刺した。

「……っ」

 ひぃ、と声にならない悲鳴が私の喉からもれる。

 そういえば彼女は、デリカシーのない人間ややかましい人間に並んで、優柔不断な人間が大嫌いなんだった。

「余計な事ばっかり気にしちゃ駄目よ?」

「は、はい」

 美里は微笑みながら言う。

「七緒君の事、本当に、大好きなんでしょ?」

「……はい」

「誰かを心から好きになれるってすっごく素敵な事でしょ? だから、その気持ちは大事にしなきゃ。うじうじ悩んでちゃもったいないじゃない」

 ――これも小悪魔美少女の為せる業だろうか。なんだか美里の言葉には重みがある。

 もったいない、か。……うん、本当だ。

 私は素直に頷けた。

 確かに遊園地なんて、恋人同士のパラダイスじゃないか。

 七緒とジェットコースターで叫んだり、メリーゴーラウンドで優雅に回ったり、あわよくば観覧車で良い雰囲気に…………と、考えだしたら止まらない妄想をなんとかストップさせ、頭を正常に戻す。

 ――明日、いっちょ頑張ってみようかな。

 にっこり笑顔の美里に見守られながら、そんな気持ちが芽生えた、ケーキ屋の昼下がりだった。








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