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30<未来と、2人の約束>

「……食わず嫌い克服かも」

「マジで? そりゃよかった」

 なんとも可愛らしい顔で七緒が笑う。

 さっきまで1人で寒い寒いと騒いでいたのが嘘みたいに、私はあったかい気持ちでいっぱいだった。

「あ、そうだ。心都、俺だしまき玉子は完璧だから」

 と、数秒前の笑顔とはうって変わって、今度はやたら真剣な表情で七緒が言う。

 とてつもなく真面目な顔だけれど、言っているのはただの料理自慢だ。しかもだしまき玉子。なんという家庭的っぷりだろう。

「は? だしまき?」

「ほら喧嘩中は料理教室どころじゃなかったじゃん。だから俺一応独学で頑張ったんだぜー?」

 あぁ……そういえば料理教室なんてやってたなー。ほんの数日前の事なのに、大分昔のように感じる。

「張り切って昨日の部活にも色々持ってったんだけど……。でも、やっぱり心都に教わったレモンの砂糖漬けが1番評判いいわ」

「……あら。あらららー本当?」

 ちょっと鼻高々。

「うん。あまりの美味しさに感動した後輩が『東先輩うちに嫁にきてくださいよ』なんてふざけて言っててさーアハハ」

 ……それって、その後輩ふざけてるわけじゃなかったんじゃないの? という際どい疑問は心にそっとしまっておく事にする。だってあんなに笑顔が可愛い七ちゃんだもの。冗談でしょーと言い切れないのがほんのり怖い。

「……じゃ、しょうがないから冬休み中もたまに料理教室やってあげましょかね。そんなに評判良いんじゃあ仕方ない」

 ちょっと偉そうに言ってみると、七緒は意外と真剣に頭を下げた。

「お願いします。やっぱり料理っていつ役に立つかわかんないし」

「七緒……将来一人暮らしとかするの?」

「わかんないけどさ、いつかそういう事になるかもしんねーじゃん」

「ふーん」

 私は、自分の手にある食べかけの大福を見つめた。なんだか急に現実に引き戻された気分だ。

 ──そうだよ。将来なんて、どうなるかわからない。

 同じ高校に進まないかもしれないし、いつまでも近所に住んでいられるかだってわからない。

 わからない事だらけなんだ。未来なんて。

「来年の今頃とか、何してんだろうな」

 足元に降り積もった雪を眺めながら、七緒が言う。

「受験の事で頭いっぱいなんじゃない? ……わかんないけど」

「だよなー」

 その頃には、私の想いは七緒に伝わっているんだろうか。それとも今と変わらず、こうしてくだらない事で悲しんだり喜んだりキレたり鼻血出したりニヤついたりしているんだろうか。……あ、なんか、すごい嫌だなー1年後もそんな自分。

「――でもさ。クリスマスくらいはこうやって外に出て、雪見て、大福食べたりしたいよな」

「……え」

 思わず、大福を持つ手に力が入る(でろ〜。と、あんこがあまり上品でない出方をしたので慌てて力をゆるめた)。

 だって、クリスマスにわざわざ大福買って一緒に食べる相手なんて――他にいないよ、七緒。

 この間も言ったけど、恋する乙女は皆、自意識過剰の妄想族なんだよ。つまり私はまた、その言葉を自分に都合の良い方向に受け取っちゃうからね? あまつさえ激しく心ときめかせちゃうからね?

「……じゃあ、七緒」

「ん?」

「来年の12月24日も、一緒に……私と一緒に、大福食べてくれる?」

 幼馴染みは面白そうに笑った。

「いーよ。クリスマスに公園で大福ね。このシチュエーション、俺けっこー好き」

 その日1日休む分も勉強頑張っとかなきゃなーと屈託なく言う七緒。その横で私は幸せを抑えきれずに、1人満面の笑みを浮かべてしまっていた。


 私、少なくとも来年のイヴまでは、七緒の隣に居られるみたいです。


 再来年、そのまた次の年の今日も一緒に過ごせるか。


 ──それは、これからの自分次第。













 数分後、にこにこした華ちゃんと、相変わらず鋭い表情を作りながらもどこかさっぱりした様子の禄朗が帰ってきた。

 詳しくは聞かなかったけど、仲直り出来たらしい。

「欝陶しくない程度だったら仲良くしてもいいって、オレも周りに対して荒れたりしないようにするって、禄ちゃん言ってくれたんです」

 と、こっそり華ちゃんが教えてくれた。その笑顔は今まで見た中で1番幸せそうだった。

「とりあえず一件落着だね」

 ホッと溜め息を吐きながら、私はベンチの背もたれに寄り掛かった。

「あ。そういえば心都」

「ん?」

「田辺と栗原は?」

「……あ。」



























「杉崎どこ行っちゃったんだろーなー……東もなかなか来ないし……」

「さぁね。案外2人で楽しく過ごしてるんじゃない?」

「そうかな……。あー! もしかして俺たちに気ぃ利かしていなくなってくれたとか? うわっあいつら何を勘違いして粋な計らいしてんだか困るなぁもうアハハハー!」

「それはないわね。もしそうだとしたら私、心都と絶交だから」

「え? 何か言った?」

「ううん何も」

「あ、そうそう栗原、これ俺からクリスマスプレゼント」

「あら、ありがとう。何?」

「へっへ。じゃじゃ〜ん! ドリームランドのチケット〜♪(ドラ●もん風に)」

「チケット?」

「これペアチケットなんだけど〜、よかったら俺と一緒に」

「ごめんね田辺君、その日は従兄弟の結婚式があるの」

「え……あのー……まだ日にち言ってないんですけど」

「とにかく結婚式なの。結婚式ってすごく大事よね。本当にごめんね(にっこり)。あれ田辺君泣いてる?」

「…………い、いや……いいんだ……男は引き際が肝心なんだ……。このペアチケットもう1枚あるから、東と杉崎誘って4人で行くのも面白そうだと思ったけど……でも栗原が行けないならいいや……」

「4人で行くって事は、乗り物乗ったりする時は必然的に心都と七緒君がペアになるわけよね?」

「そうだな。で、必然的に栗原は俺と一緒に乗」

「田辺君。たった今結婚式なくなったわ。4人で行きましょう」

「ほ、本当に!? 一緒に行ってくれんの!?」

「うん。誘ってくれてありがとう(最上級のにっこり)」







 ――Merry Christmas!!








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