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24<禄朗捜しと、約束>

「いなくなっちゃったって……どういう事?禄朗、今日はちゃんと学校来てたの?」

 華ちゃんは泣きだしそうな瞳をこっちに向けた。

「はい。学校には来てて……でもそれ以来家に帰ってきてないみたいなんです。禄ちゃんと同じクラスの子に聞いたら、禄ちゃん今日終業式の後にまた橋本先生と喧嘩して、教室出てっちゃったらしくて」

「え……じゃ、橋本と喧嘩して学校飛び出して、それ以来行方不明って事?」

 こくり、と頷く華ちゃん。

「あの超大馬鹿野郎……」

 思わず呟いてから気が付いた。よく見れば華ちゃん、制服姿だ。

「華ちゃんもしかして、学校終わってから今までずーっと捜し回ってたの?」

 えっ、と小さく声をあげ、華ちゃんは辺りをきょろきょろ見回した。

「あ、あれ?もうこんなに真っ暗……。私、全然時間の感覚とかなくなってました……。なんか、夢中で走ってて何も考えられなくて……――わぁ、初めて塾サボっちゃいました……」

 そう言って、やっと少し笑った。泣きだしそうな笑顔だったけど、とにかく、笑った。

「おとといお見舞いに行った時はどうだった?」

「具合悪くて休んでたわけじゃなさそうなんですけど……なんか元気なくて、ちょっと怒ってるような感じで、もう来るなって言われちゃいました」

「……そっか」

「あ、でも……っ禄ちゃん約束してくれたんです」

 僅かに、華ちゃんの表情が明るくなる。

「クリスマスパーティ、来てくれるって。最初、私も行くって言ったらやっぱり不機嫌な顔されちゃったんですけど……来てねって100回くらい言ったら最後は渋々頷いてくれました」

「ひゃ、100回?」

 普段の華ちゃんからは考えられないくらいの押しの強さだ。自分の言葉通り、華ちゃんは頑張って『ぶつかった』んだ。

「――だけど、どこ捜してもいないんです……禄ちゃん」

 誰に言うでもなく華ちゃんは小さく呟く。


「私との約束なんか、忘れちゃったのかなぁ……」


「忘れてないよ」

 考えるより先に、私は華ちゃんの目を見つめきっぱり言っていた。

「え……」

「華ちゃんとの約束、忘れてないと思うよ。忘れてないけど、きっと禄朗なりに色々あるんだろうね。私も手伝うから、捜そう?」

 華ちゃんが頷く。その瞳は潤んでいたけど、涙をこぼす事はなかった。強い子なんだ、と思う。







 華ちゃんと一度別れ、それぞれ逆方向を捜す事にした。見つかっても見つからなくても、1時間後にはまた栗原家の前で会う約束だ。

「ろくろ――!!」

 走りながら大声を張り上げる。この辺りは静かな住宅街だ。どこの家でもクリスマスイヴの団欒中なんだろう、外を歩いている人はほとんどいない。

「ろくろぉ――!どこ行ったんだよ馬鹿――!!」

 確実にご近所迷惑だろうけど、まぁしょうがない。

 しばらく走り回ったところで、美里と田辺にも協力を頼めばよかった、と気付き後悔した。電話しようにも、七緒を待って外にいた状態のまま来てしまったので鞄も携帯電話も持っていない。栗原家に戻るのも時間がもったいない気がして、とりあえず走って捜し続けた。

 ――もし見つからなかったら、どうしよう。

 嫌な考えが頭をかすめて、それを振り払うように更に走った。

 見つからなかったら、は考えない事にしよう。

 絶対見つかる。うん。

 絶対、絶対、あと少ししたらひょっこり出てくるって。

「ろくろ――!!出てこ―――いッ!!」

 その時。

 すぐ傍の角からヌッと不気味な人影が。

「ぎゃぁぁあ!!」

「ぅお!?」

 あまりの驚きに、頭を抱えてへたりこんでしまう。

 痴漢・変態・誘拐犯……色々な良くない単語が瞬時に浮かび上がる。

 が、しかし。

「――……心都?」

 頭上から聞こえる声は、あまりにも聞き覚えがありすぎて、愛しい。

 ゆっくりと顔をあげる。

「七緒……」

 ジャージにぐしゃぐしゃの髪の毛、いかにも部活直後な格好の幼馴染みが、そこにいた。

 うわ。なんか……どうしよう。見慣れたはずの姿が、切ないくらい懐かしい。

「ど、どうしたの七緒……」

 声が震える。駄目だ、私、かなり間抜け。

「悪りぃ、部活の時間延びちゃってさ。これでもダッシュで来たんだ。今ちょうど栗原ン家向かうとこ」

 温かい想いが少しずつ胸に広がる。

 ──来てくれた。

 七緒、やっぱり約束守ってくれたね。

 一瞬でも疑って、ごめん。

 そして。

「……ありがとうございます」

「え?何が」

「いやいや独り言」

「老化現象じゃん?」

「……うるさいよ」

 喧嘩して絶交中のはずなのに、突然の私の出現に驚いたのか、七緒はいつもと変わらない口調だ。それが嬉しすぎて、辺りを照らすしょぼい外灯がまるでスポットライトみたいに思えてきた。……やっぱり私は病気です。

「心都はこんなとこで何ランニングしてんだよ。今パーティ中じゃないの?」

 そこでハッと気付く。

 ――そうだ、浸っている場合じゃない。

「ろ、禄朗が行方不明なの……!」

「え?」

 七緒は驚いて目を見開いた。

「家にいないしパーティにもまだ来てなくて……今華ちゃんと捜してるんだけど」

「つか華ちゃんて誰?」

 そういえば七緒と華ちゃん、まだご対面していないんだった。華ちゃんと出会った事を伝える暇もないまま、大喧嘩になってしまったから。

「吉澤華ちゃんっていう禄朗の幼馴染みの子。華ちゃんも今日のパーティ参加メンバーだよ」

「そーなんだ」

「私も最近知り合ったんだけどさー、すっごい良い子なの。控えめで優しくて可愛くてね、ホント妹にしたいって感じで…………ってこんなのほほんと喋ってる場合じゃなくてっ!だから、とにかく禄朗探さなきゃ!」

「うわノリツッコミか」

「あぁもう、そんな事どーでもいいじゃん!七緒も手伝ってよ!」

 ごめん、禄朗。今、一瞬あんたが行方不明って事を忘れていた。

 だって、なんだか普通に七緒と会話できているのが信じられなくて――こんな状況なのに、すごく嬉しかったんだ(私、最悪)。

 とりあえずいまいち事態を掴みきれていない七緒を巻き込み、イヴの夜の禄朗大捜索は再開された。



 何があったか知らないけど。禄朗。

 出てこなかったら本当に怒るからね。

 あんた馬鹿で狂暴だけど、約束は守るじゃない。

 信じてくれた子を悲しませちゃ、駄目だよ。






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