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2<七緒の快挙と、ハイタッチ>

「つまりねぇ、色気と可愛気。これが心都には足りないと思うのよ」

「はぁ……」

 制服に着替えて教室へ戻った瞬間、美里のお説教が始まった。

「ただでさえあんな美少女顔の七緒君が相手なんだからさぁ、それを越えるくらいの魅力でアピールしなきゃっ」

「七緒を越えるぅ? ……って、無理無理!ぜーったい無理! だってあの七緒だよ!?」

 私は顔の前で拳を握り締め、ここぞとばかりに普段の不満を吐き出した。

「あいつ、男のくせにあんなにまつ毛長くてあんなに肌綺麗であんなに髪さらさらで……!」

 しかもその髪も日の光に優しく茶色に透けたりして(私は今まで何度も思わず無意識に触りたくなってそのたび壁に頭を打ち付けて自分を保ってきた)、目だって女子なら誰もが羨むような綺麗な二重で真ん丸きゅるんで(じっと見つめるとそのまますいこまれてしまいそうな錯覚に)!

 一見ボーイッシュ風で可憐な美少女だから、男にナンパされること4回! でもって性格はさっぱりしていて良い感じなもんだから、普通に女の子にもモテてしまうというこの完璧っぷり! 漫画かよ。

 あぁムカつく。あぁ悔しい。幼馴染みが私は憎い。

 私は身悶えした。

「……心都、本当に七緒君の事好きなのねぇ」

 と、半ば呆れたように美里。

「へ?」

 七緒の文句を言ったつもりなのに、どうしてそうなるのか。


 でも美里の言葉はもちろん間違ってはいないわけで。

「……そりゃー……好きだけど」

「ん、素直素直」

 美里の白い腕が、私の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 小首を少し傾けながら小悪魔的な笑顔を浮かべる美里は、女の私から見ても文句ナシで可愛い。

 そんな彼女の性格は、一言で言うと「恋多き乙女」。ついこの間まで「1組の武藤君かっこいー」とか言ってたかと思うと数日後には「相田先輩ステキー」になっている。あ、そういえば昨日は「1年の藤森君サイコー」に変わってたっけ。何せこの顔だから、今までに泣かせた男の数知れず。七緒とは違ったジャンルでこれまたおモテになられていらっしゃるのだ。……もしかしてこういうのを、いわゆる魔性の女っていうのかな。いや、基本はいい子なんだけどね。

 少しでいいから、そのフェロモンを分けてほしいものだわ。



「あ、本人登場」

 美里の声に振り返ると、朝練を終えた七緒が教室に戻ってきた。

 冬だってのに、光る汗が眩しい。七緒の動きにあわせて髪がさらさら揺れて、それがあまりにも綺麗だったもんで、私は思わず自分の寝癖部分をぎゅっと掴んだ。

 やっぱり遅刻してでも直してくるんだった。

 七緒は部活上がりなので今はジャージ姿だ。さっき着替えなきゃお揃いだったのになぁ、とほんの少し悔しい。

「あっちー」

 担いでた鞄と共に七緒が自分の机に放り出したのは、使い古した柔道着。

 七緒は外見に似合わず、小さい頃から習ってる柔道を今でも結構真面目にやっている。実は私も、小4くらいまでは一緒に習ったりしてたんだけど。あんまり楽しくなくてやめてしまった。

「お疲れー」

 私がひらっと手を振ると七緒は、

「おー」

 と言って白い歯を見せて笑った。ご機嫌。本当に心の底から、「楽しかった!」みたいな笑い方。

 いつもの事ながら、七緒がどれだけ柔道が好きなのかを実感させられる瞬間だ。

「聞いてくれよ心都!」

 七緒がきらきらした瞳で言った。

「何?」

「俺、今日練習中に初めて主将を投げれたんだ! 今までずっと投げられっぱなしだったから嬉しくてさっ」

「本当!? 柔道部の主将ってあのでっかい先輩でしょ? すごー!! ちょっと七緒やるじゃん!」

「だろー?」

 屈託ない笑顔。

 私は思わず立ち上がってハイタッチで喜んだ。ぱちん、とキレのいい音。

 恋愛対象として見てもらえない分、こういう時だけは幼馴染みの関係に感謝。

 立ち上がった時に、大して身長差のない七緒の顔が近くにあってドキドキしてしまった事はもちろん秘密だ。


 今はそれよりも、七緒のプチ快挙の方が嬉しいから。




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