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8<情緒不安定な朝と、再来>

 どうしてこう、頭の中でリピートしちゃうんだろう。つい1日前の、同じシーンの台詞ばかり。


『参加するの結構遅くなっちゃうけど。…それでもいい?』


 ──ええ、いいですとも!何分でも、何時間でも待ちますとも!


『汗くさかったら悪いけど』


 ──そんなの構いませんとも!むしろ貴方の光る汗に私はメロメロズッキュンですとも、うっふふふふふふ。






「キモい」

 朝日が差す明るい教室。その爽やかな空気の中で、美里はあっさりと言った。

「え?」

「朝からそのキモい笑い方やめてよねー。考えてる事まるわかりよ?」

 どうやら私はまた、自分の顔に責任を持てていなかったらしい。

 何とか頬を引き締めようと、必死で頑張ってはみるものの。

 …駄目だ。にやける。

「だって嬉しんだもん」

「まぁ確かに普段の心都から考えると上出来よね。素直に自分の気持ち言って誘うなんて」

「んへへ」

「…だからさ。もうちょっと可愛く笑おうよ」

 目を眇め呆れたように美里。だけど今の私はそんな事気にしていられないくらいに浮かれ気分だ。

 理由はもちろん、昨日七緒と交わしたイヴの約束。部活の後だろうと何だろうと、とにかく来てくれる。一緒にいられる。それだけでもう、頭が爆発するほど嬉しいよ――。

「――ってかホントに爆発させてどーすんのよ」

 そう言って美里が指差すのは、数日前の『可愛くなってやる』の誓いを守っているとは到底思えない、私の超無造作ヘアー。…つまりかなりの寝癖頭。

 もちろんそれを見た彼女が黙っているはずもなく。

「何なのよ今日の髪は!アホ毛炸裂じゃない!ちょっとでも可愛い女の子になれるように努力するんじゃなかったの?」

 こういう事には鬼のように厳しい美里。いつもの澄んだプリチーボイスとは180゜違う、ドスのきいた声色でこっちを睨み付ける。今にも私の髪を引っ掴んでスタイリング剤を振り撒きそうな勢いだ。

「いや、あの、言い訳さして?」

「何よ」

「その…や、私さー昨日の夜七緒が帰った後もう浮かれまくっちゃって。パーティでおいしーいケーキでも作って持ってっちゃおうかなーなんて、急に料理部員魂がメラメラと…」

「つまり夜からケーキ作りの練習始めちゃったわけね。で、夜更かしのしすぎで寝坊して、髪をセットしてくる余裕がなかった、と」

「わぉ、さすが美里サン。一を聞いて十を知るとはまさにこの事だネ☆よっ平成の聖徳太子!」

 あれ、聖徳太子は10人いっぺんに話が聞けるんだったっけ…もうこの際どうでもいい。

「はいはいそういうお世辞いらないから」

 私の間違った誉め言葉(ウィンク付き)をさらりと流し、美里が呆れたように言う。

「でもさすがにその髪はあんまりよ。何か大乱闘後って感じ」

「何それ」

 よくわからないけど、妙に心がそわそわしてきた。そんなにひどいのか、今の私。

 昨日の言葉通り、七緒は朝練があるらしくまだ教室に姿を見せない。

 美里がギラリと光る瞳で私を睨み付ける。

 …目力、強っ。

「…トイレで直してきまス」

「ん、よろしい。ただし朝のHRに遅れないようにね」

 ようやくにっこり笑った美里に背中を押され、私は1人よろけ気味に教室を出た。



「…もう切っちゃおうかなぁ」

 教室前の廊下の窓に映った自分の頭を見て、私は思わず呟いた(何か前にもあったなこんな事)。

 3、4年前から、「せめて外見だけでも女の子っぽく」とささやかな望みを込め肩辺りまでの長さを維持してきた私の髪。『可愛くなってやる』宣言以来、少しはボサボサ具合が落ち着いた(と思う。思いたい)けど、今日みたいに余裕がない朝なんかは我ながら本当に御愁傷様な事になる。

――いや、それ以前に!

 私の髪が落ち着いていたとして、七緒より「可愛い女の子」に見えるのかというと、それは頷けない、絶対に。

「…うぅ……」

 さっきまでとは打って変わって、私のテンションは急激に下がり始めた。

 恋すると情緒不安定になる、とはよく言うけど。最近の私の場合はそれが激しすぎて、このままだと心の変化に体がついていかずあと3ヶ月後くらいにポックリ逝っちゃうんじゃないか?なんて恐ろしい未来予想図まで頭に浮かんだ。

 ………っていうか、もう。

「あいつが可愛すぎんのが悪いんじゃボケ―――!!!」

 開け放した窓へ我を忘れて叫んでしまった14の冬、なのでした。

 

 と、その時。

 数メートル先から、今の私の絶叫なんて可愛いもんだわと思えるくらいの、ものすごい大声が響いてきた。

「あ゛ぁ!?んだとテメェ!!もっかい言ってみろやゴルァ!!」

…あぁ、このヤクザ風味な怒鳴り声。

なんだかものすごぉぉっく聞き覚えがある。




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