6<放物線と、母は強し>
私は、思わずまじまじと見つめてしまう。
その綺麗な目を。
「何見てんの」
「んー、まつ毛長いなぁと思って」
「長いか?ふつーじゃん?」
「長いよ」
「……包丁握り締めたまま顔見つめられると怖いんだけど」
「あらごめんあそばせ」
そんなたわいのない(?)会話の最中。
「こンのエロガキ――!!」
バシッめきょズシャ。凄まじい音と共に七緒が吹っ飛んだ。指でなぞりたくなるような、美しい放物線を描いて。よく飛ぶなーここ室内なのに。
「…っ何すんだいきなり!」
と、頭を擦りながら七緒が怒鳴った相手はもちろん、たった今自分の息子に強烈すぎる鉄拳をかましたその女性。
「学校帰りに女の子の家に上がり込んで新婚気分inキッチンってか。あたしはそんなふしだらな子に育てた覚えはないよ七!」
「はぁ!?意味わかんな…」
「エロガキのうえに女装趣味か!こりゃアイタタだな。七、お母さんは悲しい」
七緒は苦悶の表情で、自分が身に付けているエプロンを見た。
「こ、これは事情が……っ」
…えっと、とりあえず。
「こんばんは明美さん」
「あぁ心都、しばらく見ないうちに垢抜けて!あんた大丈夫?あのエロガキに何かされなかった?」
背中まである赤茶の髪をなびかせ、東明美さん――つまり七緒のお母さん――は私を抱き締めた。
「ごめんなーうちのエロ息子が!」
「大丈夫だよ何もされてないし」
昔からこういうノリの明美さんが相手だからこそ、こんな話題でもいちいち赤面したり慌てふためく事なく笑って反応できる。――少なくとも、私は。
「さっきから人の事エロガキだのエロ息子って、その呼び方やめろっつーの!!」
あらぬ誤解をかけられてしまった七緒は、そう簡単に冷静にはなれないようだ。
「だいたい何で杉崎家にいるんだよ!」
「うふふ。お買い物の途中で会ったのよ〜」
そう言って長身の明美さんの後ろからひょっこり現れたのは、上から下までピンクハ●スばりの派手な服装でキメた私のお母さん。
「せっかくだからうちで一緒にお夕飯食べましょうって事になって今2人で帰ってきたの。ねーっ」
「なーっ」
母親2人は顔を見合わせにっこりと笑った。
ふりふり命でピンク大好き、鳥肌が立つほど少女趣味な私のお母さんと、へそピアスが眩しく性格も限りなく男前な明美さん――格好が年令不相応(ぶっちゃけ若造り)という部分以外は全く正反対なこの2人が、高校時代どういう経緯で無二の親友になったのか。昔から疑問に思っていた。
何回か訊ねてみた事もあったけど、「うふふ若い頃は色々あったのよー」または「あたしもあの頃は青かったからさー」で片付けられてしまった。最近は私も諦めて、訊ねるのをやめた。
「きゃあ七ちゃん可愛い!とっっても似合ってるわ〜」
お母さんがエプロン姿の七緒を見て瞳を輝かせる。
「七ちゃんみたいな可愛い子に着てもらえればそのエプロンも幸せねぇ」
「……う、嬉しくないデス」
七緒は、素直だ。