第10話 嫉妬と妨害
同時演算の一件から、空気が変わった。
――明確に、だ。
ギルドに入った瞬間、
視線が刺さる。
好奇心だけじゃない。
警戒。
猜疑。
そして――嫉妬。
「……居心地、悪いね」
ミルフィが、尻尾を下げて小声で言った。
「注目されすぎよ」
アイリスも、周囲を警戒している。
セレナは平然としていたが、
その視線は一段と鋭くなっていた。
(想定より、早い)
《アーカイヴ・ロジック》が、
人の動線と視線の重なりを解析する。
――意図的な接触率、上昇
――敵意反応、複数
「……今日は、簡単な依頼だけにしよう」
俺が言うと、
アイリスが頷いた。
「賛成。
深追いする必要はないわ」
だが。
その“簡単な依頼”すら、
罠は仕込まれていた。
依頼は《街道沿いの魔物駆除》。
危険度は低。
報酬も並。
にもかかわらず、
現地に着いた瞬間、違和感が走った。
「……数、多くない?」
ミルフィが、耳を立てる。
「依頼書の想定より、
二倍以上いるわ」
アイリスが、剣を抜いた。
《アーカイヴ・ロジック》が警告を出す。
――魔物配置:意図的
――誘導痕:あり
(……誰かが、手を加えたな)
「下がれ」
俺は、即座に指示を出す。
「陣形を変える。
前に出るな」
その瞬間。
後方で、
“カチリ”と音がした。
(――罠)
だが、反応が遅れた。
感情が、乱れたからだ。
(……狙われてる)
世界が、ほんの一瞬だけ揺らぐ。
《アーカイヴ・ロジック》の数式が、
乱れる。
「レオン!」
アイリスの声。
爆発。
土と炎が、舞い上がる。
衝撃で、体が弾かれた。
「……っ!」
頭が、割れるように痛い。
視界に、ノイズ。
――演算精度低下
――警告:感情干渉
(まずい……)
「レオン、下がって!」
ミルフィが、俺の腕を掴む。
アイリスが、前に出た。
「光よ――!」
剣が輝き、
魔物を押し返す。
セレナが、歯噛みする。
「……誰かが、依頼を改竄してる」
「分かってる」
だが、
“分かっていても”
今は対応が遅れる。
頭痛で、
思考が鈍る。
(……これが、代償か)
俺は、必死に呼吸を整えた。
――感情を切り離せ。
――今は、計算に集中しろ。
数式が、徐々に戻る。
「……アイリス」
「なに!?」
「右、二歩。
次の突進、0.7秒後」
「了解!」
剣が、正確に振るわれる。
魔物が倒れる。
ミルフィが、
背後から急所を突く。
セレナの魔法が、
範囲を制圧する。
連携は、まだ生きている。
だが――
俺の手は、震えていた。
討伐後。
依頼主に戻ると、
ギルド職員が顔色を変えた。
「……この依頼、
提出者が不明です」
「不明?」
「依頼書の記録が、
途中で書き換えられている」
(やっぱりな)
「つまり……
誰かが、
私たちを試した?」
セレナの声が、低い。
「それだけじゃないわ」
アイリスが、拳を握る。
「殺す気だった」
ミルフィが、俺を見る。
「……レオン、
大丈夫?」
俺は、苦笑した。
「……完全じゃない」
頭痛が、まだ残っている。
「ごめん」
その一言が、
思った以上に重かった。
アイリスが、はっきりと言った。
「謝る必要はない」
「でも」
「あなたが倒れたら、
私たちが前に出る」
その言葉に、
胸の奥が、少し熱くなった。
セレナも、静かに続ける。
「一人で背負うのは、
合理的じゃない」
ミルフィが、笑う。
「そうそう!
パーティなんだから!」
……そうだな。
《アーカイヴ・ロジック》は、
一人用のスキルだ。
だが――
戦うのは、
俺一人じゃない。
(感情が、演算を乱す)
それは弱点だ。
でも同時に――
仲間がいれば、補える。
ギルドの奥で、
誰かがこちらを見ていた。
顔は分からない。
だが、確かに。
(次は、もっと露骨に来る)
俺は、静かに決めた。
――無双は、隠しきれない。
なら、
壊れないように、使う。
この世界で生き残るために。
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