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28話 月下の探索

「……そうそう、こんなふうに、のんびりしてる場合じゃないよね」


 言って、莉沙が白露を見やった。


「白露さんがユズ(にい)暗殺に失敗したことを、敵が既に感づいたかもしれない……だとしたら、詩織さんの命が危険よ。人質を取るような者が、用済みになったからといって彼女を解放するとも思えないもの」


 莉沙の言葉に、白露の顔から血の気が失せた。彼は布団から這い出ると、畳に土下座した。


「どうか……どうか、詩織を救うのに力を貸してはいただけないだろうか……! こんなことを言える立場でないことは重々承知しているが……彼女さえ無事に取り戻せたなら、俺のことは煮るなり焼くなりしてくれて構わない……だから……!」


 白露の震える肩に、譲は、そっと手を置いた。


「言われずとも、そのつもりです。それに、僕は白露さんを恨んでもいませんし、ましてどうこうしようなんて思っていませんよ。どうか、顔を上げてください」


 譲の言葉で顔を上げた白露の頬には、ひとすじの涙が光っていた。


「ハク(にい)、もちろん俺も手伝うぞ」


 絢斗が身を乗り出して言うと、白露は弟の顔を見つめた。

 

「絢斗……あんな酷いことをしたのに、許してくれるのか」

「まぁ、死ぬかと思うくらい痛かったが……死ななかったということは、手加減してくれたのだろう? それより、ハク(にい)のカノジョとやらにも会ってみたいからな」


 屈託ない絢斗の言葉に、白露の口元が僅かに綻んだ。

 

「……ああ、自慢の弟だと紹介するよ」


 微笑み合う兄弟の姿を見た譲も、胸の中が温かくなるような気がした。


「ところで、詩織さんとやらは、どこに囚われているのですか」


 少年の姿に戻っていた綿雪が、口を挟んだ。


「大まかな場所は分かっている……俺の現在の居住地であるN市の外れだ。だが、(あやかし)の力による特殊な結界が張られているというか、俺一人の力では入ることができない空間に、詩織は囚われているのだ」


 白露は、言い終えると悔しげに唇を噛んだ。

 譲は、自室からノートパソコンを持ってきた。


「白露さんの言っていた場所は……この辺りですね。人里から離れた山の中か」


 立ち上げたパソコンのモニターを睨んで、譲は呟いた。N市は風光明媚な観光地と言われる場所だが、それゆえ人の寄り付かない山林も多いのだ。


「すぐに、その場所へ行かないとね、ユズ(にい)


 莉沙が、譲の顔を見上げた。


「君も、行くつもりかい?」


 譲が目を丸くすると、莉沙は()()()と笑った。

 

「当然よ。綺羅星の民が相手なら、手の内を知っている私がいたほうがいいでしょ?」

「でも、たしか君は、完全に力を取り戻していないって……」

「そうね、体感だと全盛期の半分以下って感じだけど……それでも、ユズ(にい)に正面からかかってこられない連中に負けるほど弱くないと思うな」


 そう言う莉沙の表情は、「明星」の豪胆さを感じさせるものだった。


「分かった。頼りにさせてもらうよ」


 譲が答えると、莉沙は力強く頷いた。


「その程度の距離であれば、私の翼ならひと飛びですが……さすがに全員を背に乗せていくのは難しいですねぇ」


 地図を見ていた綿雪が、眉尻を下げた。


「とはいえ、公共の交通機関は言わずもがな、ここからN市まで高速を使っても二時間以上……更に山に入る時間も加算すると、結構な時間がかかりそうだね」


 最も早く目的地に辿り着く方法は何か、譲は考えを巡らせた。


「白露さん、詩織さんの持ち物とか、手元に何かありませんか?」


 突然、莉沙が白露に問いかけた。


「詩織の持ち物……というか、彼女から貰ったものなら、ここに」


 白露は不思議そうな顔をしながらも、服の襟元から細い鎖のペンダントを取り出した。


「詩織はアクセサリーのデザインや制作を仕事にしていて、これは俺のために彼女が手作りしてくれたものだ」


 そう言って、白露は外したペンダントを莉沙に手渡した。丸くなっている猫を(かたど)った、小ぶりだが繊細なデザインのペンダントヘッドが付いている。


「わぁ、素敵ね。本人の思いが込められたものなら、おあつらえ向きというものね」


 受け取ったペンダントを両手で包み込むように持つと、莉沙は精神を集中するように目を閉じた。

 少しの間を置いて、莉沙が手を開いた。彼女の手の上にあるペンダントから一筋の白い光が放たれ、N市の方向へと伸びている。


「詩織さんのいる場所を掴んだ……みんなの準備ができたら、『門』を開くよ」

「『門』?」


 莉沙の言葉に、絢斗が首を傾げた。


「ここと、目的地を結ぶ道を作るということかい?」

「そういうこと。発動条件は少し面倒だけど、白露さんと詩織さんがラブラブだったのが功を奏した感じね」


 譲の問いに、莉沙が少し得意げに答えた。彼女の言葉に、白露は顔を赤らめている。


「念の為、この家には人払いの結界を張っておこう。黒縁と撫子は戦闘向きではないから、留守番を頼むよ」

「ついて行きたいのは山々ですが、家を空っぽにするのも心配ですよね。留守は、お任せください」

「私も荒事は苦手だしね~。みんな、気をつけてね」

 

 黒縁と撫子が、譲の言葉に頷いた。


「それじゃ、『門』を開くよ」


 現地へ向かうメンバーの準備が整ったところで、莉沙が両手を前方へ差し出した。彼女の手の中に光の粒子が現れ、それらは数を増すと同時に収束し、やがて人一人が通れるほどの光の輪を形作った。


「この『輪』をくぐると、目的地へ着くのか?」


 出現した「光の輪」を覗き込み、絢斗が唾を飲み込んだ。


「そうだよ。じゃあ、私が先に行くから、みんな付いてきて」


 莉沙が事もなげに言うと、光の輪へ飛び込んだ。


「莉沙、待ってくれ」


 譲も、慌てて光る輪をくぐった。

 軽い眩暈に似た感覚ののち、地面に積もった落ち葉を踏みしめる感触に、譲は自身の身体が地面に降り立ったことを悟った。

 既に日は暮れており、先刻まで暖かい室内にいた所為か、外気が一層冷たく感じられる。

 周囲を見回した譲は、ここがどこかの山林であることを認めた。

 光源は月明かりくらいだが、夜目の利く譲にとって、暗さは何ら妨げにはならない。


「どう? 私も結構役に立つでしょ?」


 いつの間にか傍らに立っていた莉沙が、譲の顔を見上げて言った。


「うん、大したものだね」


 譲が率直に褒めると、莉沙は嬉しそうに笑った。その表情に、譲は莉沙の幼い頃を思い出して懐かしさを覚えると共に、彼女の本質は変わっていないのだと安堵した。


「間違いない、ここは詩織が捕えられている辺り……高位の(あやかし)の力とは、凄いものだ」


 「門」から出てきた白露が、そう言って莉沙を見た。


(あやかし)の気配は感じるが、見たところ何もないな……」


 周囲を見回しながら、絢斗が呟いた。


「たしかに、我々以外の(あやかし)(にお)いを感じます。認識阻害の能力でも使っているのでしょう」


 綿雪も、空気の匂いを嗅ぐように上を向いて言った。

 一方、莉沙は()()()と周りを見回したかと思うと、空中に手をかざした。


「ここに、結界があるから破るね」


 譲が口を開く前に、莉沙がかざした手から、夜の闇がひび割れていく。

 腕利きの「闇狩り」である白露が手を出せなかった結界を、莉沙が鮮やかに破る様に、譲は思わず見とれた。


「同じ綺羅星の民、それも自分より格下の相手が作った結界なら、見つけるのも破壊するのも簡単よ」


 譲の視線に気づいたのか、莉沙が片方の口角を上げた。


 ――なるほど、父上が僕の『人払いの結界』をスルーできるのと同じだな。さすがは先代の王の娘といったところか。

 

 覚醒した莉沙の力に、譲は改めて感心した。

 数秒後、目に見えぬ壁が崩壊するような感覚と共に、結界の内側が露わになった。


「詩織!」


 白露が、血を吐くような声で叫んだ。

 人の背丈ほどの高さに浮かんだ、青みがかった巨大な水晶に似た結晶体の中に、詩織と思しき若い女性が封じ込まれている。

 詩織は意識を失っている様子だが、譲は彼女から生命の温もりを感じ取った。


「馬鹿な、我々以外に、この結界を外側から破壊する者が?!」

「見ろ、例の半妖の男だ……ということは、『闇狩り』とやらの人間は、しくじったのか?」


 水晶の傍に立っていた二人の男が、信じられないとでも言いたげな顔で叫んだ。

 和服に似た装束を身に着けた二人の男は、一見すれば人間に似ている。しかし、彼らがまとうのは強烈な(あやかし)の気配だ。


 ――あれが「綺羅星の民」か。本物を見るのは初めてだが、そこいらの(あやかし)よりは強そうだな。


 張り詰める空気の中、譲は油断なく身構えつつ、敵の姿を見据えた。

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