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激辛グルメ初恋物語〜拾った推しは激辛グルメでホットガイ!〜  作者: 地野千塩


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第21話 ふたりで食べるホットチキン

 翌日、葵はサンジーのカレー屋にいた。もちろん、バイトの為だったが、営業前の客席に座り、例の敦の動画を見ていた。


 一人では何度も見た動画だったが、わからない。敦の意図や思いもわからず、結局、一緒に動画を見てもらいサンジーの意見を聞くことに。


「これから僕の事情をお話しします」


 敦の動画はそんな言葉から始まった。幼少期の事情、異世界への誘拐、激辛魔王の呪いも全部語っていた。もちろん炎上の理由も。


「文字通りだとファンタジーだけど、あっくんんの目は真剣だ。嘘をついているように見えないね」


 サンジーの意見はもっともだった。動画内の敦の顔は真面目。緊張しているようにも見えた。声も固い。服装も地味だ。話す内容は荒唐無稽なのに、少し聞いただけでも、嘘はついていないことはわかる。実際、動画のコメントでも「謝罪会見?」と言われている程だった。


「でも、こんな呪いを一緒に解いてくれる人がいました。炎上も起こし、無気力になっていた僕に、その人が希望でした。一緒にいると呪いを解きたいと思いました」


 動画からさらに敦の声が響く。


 葵は下を向き、何も言えない。これは自分のことだろう。希望とまで表現していた。本当に、これはどういう……?


「これ告白じゃーん。あっくんから葵さんへの告白!」


 サンジーは冷やかしてきたが、ますます笑えない。そんな都合のいい夢みたいな話はあるのだろうか。思わず頬をつねる。痛い。全く笑えない。


 動画はファンにも嘘をつきたくなかったこと、呪いについて情報提供を呼びかけて終わった。


 てっきり炎上するかと思った。実際、再生回数も伸び、話題づくりだと叩かれてはいたが、不思議と荒唐無稽な呪いの是非は問われていなかった。


 ファンたちは子概ね好意的に受け入れていた。コメント欄にはファンの応援の声で溢れ、批判はかき消される程だった。


 また、陰謀論、スピリチュアル、都市伝説系インフルエンサーにも取り上げてられ、神隠しや呪術も話題になり、一部で呪いを解こうとする動きもみられた。


 一方、ファンの間ではホットガイ化を望む声もあがり、ついにはイベントまで開かれていた。都心部の公園の特設ステージで、ファンと握手&ホットガイ化の壁ドンサービスという前代未聞のイベントだった。


 ついに葵はいてもたってもいられず、このイベント会場まで足を運んでいた。公園につくと、もう大勢のファンで混み合っていた。残念ながら葵は整理券を入手できず、遠くの方からイベントを見守ることしかできない。


「可愛い子猫ちゃん。俺とホットな夢をみようぜ」

「きゃー! あっくん、素敵! これはイケメン無罪!」


 ファンの黄色い声が溢れていた。予想外だったが、ホットガイ化は好評らしい。


 力が抜けそうだった。確かに呪いは解けそうにない。でも、こうして受け入れられる場所はある。たとえ呪いが解けなくても、大丈夫だ。


「もう私の出番はないね……」


 そう呟くと吹っ切れてきた。ステージの上でホットガイ化する敦を見つめる。地上と月ほど遠く離れて見えたが、今はただ、敦が幸せだったら、なんでもいい。それだけが今の葵の願いだった。


「あっくん、さようなら。月でも幸せに……」


 小さな声で呟きと、葵はイベント会場を後にした。ファンたちの黄色い声が、いつまでも響いていた。


 その後、敦のホットガイ化はファン意外にも受け入れられつつあった。とくに発達障害の人や生きにくい人たちにも、敦の呪いを持ちながら、前向きに仕事をしている素顔は、希望を与えたという。ダンスステージやファン向けのイベントはもちろん、最近では福祉関連のイベントやコラム執筆も手掛けているらしい。


 呪いは解ける様子はないが、思わぬ副産物があった。これで良かったのだろう。


 葵は相変わらずだった。そんな敦の情報をファンとしてチェックし、大学に通い、副業をし、サンジーのカレー屋でバイトし、夜に帰るという生活リズムを繰り返していた。


「あー、今日もお客さん、多かった。疲れたぁ」


 サンジーのインドカレー屋を後にすると、もう夜だ。夜空には大きな月が浮かぶ。秋の月明かりが少し眩しいほど。


「げ、ヤンキーがいる」


 しかし帰り道、ヤンキーに絡まれそうになり、迂回して公園に入った。


 静かな公園は誰もいない。中央の噴水あたりもそうだった。


 まるで敦と出会った夜みたいだ。ほんの数ヶ月前のことなのに、何年も前のことのように遠い。


 ふと、月を見上げた。大きな月だ。あの月でかぐや姫も幸せに暮らしているだろうか。


「あっくん……」


 なぜか敦の名前を呼んでしまう。月を見ていたら、どうしても思い出してしまう。


「葵さん!」

「え?」


 月から視線を下ろした時だった。敦の声が響く。幻聴かと思った。敦が恋しく、自分に都合のいい夢を見ているのだと思ったが、目の前に敦がいた。


 別れた時と全く変わらない姿だった。目も何も変わっていない。芸能人らしいサングラスやアクセサリーもつけず、出会った時のようにラフな外見だった。


 それに右手にはコンビニの袋。そこからスパイシーないい匂い。中にはホットチキンがあるようだ。


「葵さん、一緒にホットチキン食べません?」

「え、え?」


 まだ信じられない。敦が目の前にいるのも信じられないが、もっと耳を疑うような言葉を言う。しかも子供みたいな声で。


「葵さんと一緒に食べないと嫌なんだ。誰と食べても呪いが発動するんだよ。それに美味しくない。どんな高級な食事しても美味しくない。葵さんのせいだと思う。葵さん、責任とってよ」

「う、うう……」


 笑顔の敦が近寄り、変な声が出てしまったが、頷く他ない。


「これからもずっと一生、二人で一緒に食べよう?」

「う、うん……」


 それは愛の告白と聞くのは野暮だろう。葵は再び頷き、公園のベンチに座ってホットチキンを食べた。


 想像以上に辛い。喉もピリピリと痛いぐらいだったのに、今は隣に敦がいる。


「葵さん、美味しいね」


 甘い声で囁かれ、口の中も全く辛く感じないほどだった。


「うん、美味しい。二人で食べると美味しいね」

「そうだな。葵さん、一緒に食べてくれてありがとう! これからもそうしようね」


 敦の笑顔に、葵は一ミリも逆らえず、同じように笑ってしまった。この時間が永遠に続けばいいと思うほど。気づくと二人はホットチキンも食べ終え、熱く見つめあっていた。ホットチガイ化した時は何度も至近距離で見つめられたのに、今は炎のように心臓が燃え、葵は一瞬たりとも目が逸らせなかった。


「呪いは解けなくても、俺は葵さんと一緒だったらいい……」


 月だけが静かに輝き、ずっと二人を照らしていた。

ご覧いただきありがとうございます。完結です。久々のグルメラブコメでした。


作者はハングルも習っていたんですが、本当に語学って難しかったです。作中の敦のカタコト韓国語描写は作者の失敗談を元にして書きました。変な韓国語や英語を話して現地の方によく引かれましたね……。


他もいろいろ連載しています。かなりマイペースな更新ですが、よろしくお願いします。


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