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激辛グルメ初恋物語〜拾った推しは激辛グルメでホットガイ!〜  作者: 地野千塩


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第2話 激辛グルメでホットガイ!

 かつての推し・黒瀬敦の顔は、想像以上に整っていた。リアルでは初めて見たが、動画越しで見るのと全く違う。


 鼻筋はまっすぐ。輪郭も人形のように綺麗。歯も画像や動画で見たより白い。今はメイクもしていないのに、目もくっきりと大きく、二重のラインも深く、黒目は艶やかだ。その目が黒髪ともよく似合う。今はシャツにジーンズという格好なのに、顔だけは王子様みたい。


 かつて憧れた存在が目の前にいる。当然の理想以上のルックス。昔の葵だったら、鼻血が出ていたかもしれない。


 今は炎上騒ぎを起こした敦に興味はないはずなのに、心臓はぽんぽんと跳ねていた。おそらく本能的な反応だろう。「ファンです!」と駆け寄りたい本能もあるのに、何かがブレーキを押しいる。本能に逆らう何かが。


 やはり、あの炎上事件を思い出してしまう。あろう事か店員にセクハラをし、芸能界から消えた敦。炎上後の対応もぐだぐだだった。何の説明もなかった。ファンからしたら、逃げたようにしか見えない。当時、葵もショックだった。あれだけ憧れていた推しは、王子様ではなかったみたいで。


 しかし、この数年、全く姿を見せなかった。何の目撃情報もなく、事務所のプロフィールやブログ記事、動画チャンネルやファンクラブ限定のサイトも全部削除されていた。


 一般企業で働いたら目立つだろうし、干された後、一体どこへいたんだろうか?


 今、敦が着ているシャツやジーパンも安物だ。アイドル時の私服はブランドもので固めていたのに。ホームレスとは言えないが、服装だけはそれに近い日雇い労働者のような雰囲気。捨てられた子犬みたいにも見える。母性本能がきゅんとしていたが、無理矢理ブレーキをかけた。


「ちょ、あなた。どうしたの? スマホやマイナンバーとかある? 家はどこ?」


 葵はファンである事は隠し、常識的な対応を試みたが、敦は無気力だった。弱く首を振り、目も死んでいる。日雇いの仕事を追い出されたという。


「一体なんで?」


 仮にも人気アイドルだった男が日雇い?


 敦の目元をもう一度覗き込んでみたが、アイドル時代と違い、苦労が滲んでいた。芸能界を干された後、一体何があったのか?


「お金ない。お腹減った。お願い、助けて」


 しかし、この男。自分がイケメンであると自覚はしていた。上目遣いで甘えた声を出す。


 葵とて鬼ではない。敦に失望していたとはいえ、こんな風に甘えられて拒否できる女がいるだろうか!


 しかも敦はコンビニのホットチキンに食べた様子。じっと見つめている。


「わ、わかったから。食べたいんでしょ?」


 袋から取り出し、ホットチキンを敦に指す出した。


「そんなイケメンなんかに興味はないんだからね!」

「ありがとう。君はいい人だね」


 カッと頬に血が上った。こんなセリフを言われて、何も感じない女性がいるだろうか。しかも今は静かな月夜。噴水の前だ。ロケーションとしても最高だ。こういった経験が初めての葵は、モジモジしている。嫌いになったとはいえ、かつての推しがいる。状況だけなら、ボーナスタイムともいえよう。


 一方、敦はもくもくとホットチキンを食べ続けていた。ホットチキンというだけある。衣も真っ赤でスパイスの匂いが漂っていた。それに敦の口元が少し赤くなっている。食べ終わった後は無言だ。よっぽど辛かったのだろう。


 失望した推しとはいえ、黙っている敦は頼りげがない。本当に捨てられた犬みたい。


「辛かった? 水でも飲む?」


 しかし、ずっと無言なのも妙だった。コンビニの袋から炭酸水を取り出そうとした時……。


 それを敦が払いのけた。


「え、は?」


 どさっと音がしたと思ったら、敦に押し倒されているではないか!


 背中にコンクリートの感触がするが、それ以上に敦の身体の重み、吐息がリアル! しかも熱い吐息!


「な、なんなの!?」


 その上、敦の目の色がホットに燃え、シャツもはだけていた。鍛え抜かれた筋肉も見える。それに、比較的色が白い敦なのに、なぜか黒々と日焼けしていた。


 どこからか熱風も感じた。敦に押し倒さてただけなのに、急に背景がインドっぽい異世界に変わった。謎ダンスを躍る美女やインド人も現れ、スパイスの匂いもする。


「な、何この幻覚! っていうか、な、なんで押し倒したの?」

「可愛い、子猫ちゃん」

「は!?」


 敦は人が変わったように甘いセリフを吐き続けていた。吐息が近い!


「俺だけを見ろよ、可愛い子猫ちゃん」

「ど、どういう事!?」

「今宵はホットな夢を見せてあげるよ。激辛天使の愛を教えてあげようか?」


 顔が近い!


 敦の毛穴まで見える!


 なんでホットガイ化しているの!?


 このままだとファーストキスを奪われそうだが、押し倒された状況で、どうしたらいい?


 これって客観的にみて貞操の危機!?


 そう思った時だった。急に幻覚も消え、静かな月夜に戻った。


 すぐに敦も身をよけ、頭を抱えていた。「また、やっちまった……」とうめき、涙目だった。肌の色も元に戻ってる。ホットガイ化は終わった模様だが、これはなんだ?


 あまりにも推しが忘れられずに幻覚でも見たのだろうか。科学的に考えたら、その可能性が高い。推しが忘れられず、自分にとって限りなく都合の良い夢でも見ていたのだろうか。


 葵は頬をつねった。痛い。見上げると月もある。単なる幻覚や夢ではなかったと実感した。確かに何かを見せられた気はするが……?


 葵は起き上がり、敦の側に駆け寄る。敦は身を小さくし、土下座までしていたが、一体どういう事だろう。


「ごめんなさい!」


 ホットガイ化した敦は消えたが、土下座しているという事は、何か事情があるはず。おそらく悪気はない。不可抗力だったのだろうか。


 炎上騒ぎも関係あったのかもしれない。当時、セクハラしていた動画を思い出すが、確かにさっきみたいにホットガイ化していた。


 そのトリガーがなんだろう。炎上騒ぎの舞台はインドカレー屋だった。今回はホットチキンを食べた後だ。


 非科学的だ。荒唐無稽でもあるが、激辛グルメを食べた後になぜかホットガイ化するのだろうか?


「そ、その通りです!」


 涙目で叫ぶ敦だったが、これは事情があるはずだ。


「うちに来る? ご飯あげるから、事情を話してもらっていい?」

「は、はい!」


 ホットガイ化したのが嘘みたいに素直だ。


「しかも私、あなたのファンだったんだよね。本当に事情説明してくれます?」

「も、もちろんです!」


 という事で推しを拾ってみた。捨て犬を拾ったような軽いノリで。


 途中、またコンビニへ行き、下着、シャツ、ハーフパンツ、洗顔や歯磨き粉、髭剃りや歯ブラシも買う。食料品も入手し、しばらく敦と生活するのも問題ないだろうが。


 なぜ、激辛グルメでホットガイ化……?


 葵の冷笑風な日常は終わったらしい。敦の事情は全くわからないが、そのことだけは自覚していた。

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