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激辛グルメ初恋物語〜拾った推しは激辛グルメでホットガイ!〜  作者: 地野千塩


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第16話 恋のゆらぎとキムチチゲ

 思い出した。数年前、敦がインドカレー屋でホットガイ化し、炎上した時の事を。


 確かにそうだ。雪絵はあの時、ホットガイ化の敦に抱きつかれた女性だ。


 当時、炎上した際、確かに白石雪絵という名前は一部で有名だった。ブログまで開設し、敦にどれだけ熱くアプローチされたかと語り、炎上にガソリンを注いだ人物だった。葵もよく覚えていた。さらにファンの失望は決定的となり、葵は雪絵のブログを見た翌日、敦のグッズを全部フリマアプリに出品した記憶もあるぐらい。


「ねえ、あっくん。会いたかった。あの時、あれだけ求愛してくれたもの。知ってるわ。あっくんの気持ちは」


 雪絵はわざとらしく、自身の胸に手を置き、ポエムを語っていた。


「この熱い想いは、まるで地獄の炎のよう。あっくんと一緒なら、地獄でも一緒にいたいわぁ」


 見た目は美人だが、思い込みが激しく、ポエマーな性格らしい。いわゆる残念美人だろう。サンジーはこの展開に大笑いし、みんなの為にラッシーを作ると厨房に向かってしまったが。


「ちょ、違うんだよ、雪絵さん。あなたに求愛した訳じゃない。あのホットガイ化は、事情があって……」


 ポエマー雪絵に敦も引いていた。腐ってもアイドルの敦は痛いファンも慣れたものだろう。それでも、こんなに引かせている雪絵は相当なものだ。これは何を言っても聞かないタイプだろうが、雪絵も一応は大人の女性だ。事情を話せばわかるはず。


 葵と敦は目を見合わせ、激辛魔王の事情を語った。ちなみに雪絵は、葵はマネージャーだと勝手に誤解し、ずっと思い込んでいるようだった。


「まあ、そんな呪いがあったの」


 しかしポエマー雪絵は激辛魔王の事情もあっさり受け入れた。


「まあまあ、そんな事もあるのね。まあ、うちの店の元オーナーからもそういった呪いはよくあるって聞いていたから、全く驚かないわ」


 雪絵はメンタルも強いらしい。激辛魔王の事情を聞かされても平然とし、近くのコンビニでホットチキンを買ってくると、敦に食べさせようとしていた!


「おいおい、こんなホットガイ化でもいいの……?」


 これにはサンジーも引いていた。


「ええ。もちろん。私はありのままのあっくんを愛するわ。ホットガイ化しても何をしてもオッケーよ!」


 サンジーのラッシーを飲み、穏やかに微笑んでいる雪絵はかなり強そう。雪絵は美人だが、儚い系ではない。むしろ、まつ毛や眉毛も太く、生命力に溢れてる。


「イケメン無罪だしね。イケメンのホットガイ化なんてむしろ、ケーキのようなご褒美だわ」


 うっとりと目を細めている雪絵に、敦は硬直していた。葵も何も言えない。こんな強い人、初めてだ。残念美人だが、自分軸はしっかりとしている。ブレない強さは葵でも伝わってくる。


 サンジーはこんな雪絵に大笑いし、すぐに親しくなっていた。雪絵も経営しているインドカレー屋のショップカードも配り、笑顔で去っていく程だ。


「ショックだ。まだ雪絵さん、僕のことを忘れていないなんて……」


 翌日、ダンスステージの疲れもあってか、敦は寝込んでいた。それにネットではまだ敦の話題で騒がれている。迂闊に外出できない雰囲気だった。


「私もショックだよ。雪絵さん、あっくんの事を忘れていなかったなんて……。しかもホットガイ化しているあっくんに惚れたとか、どんだけ……」


 一方、葵はレトルトのキムチチゲを作り、器によそると、卵を落として敦に持って行った。


 ぐつぐつに温まったチゲの上に、つるんとした生卵が揺れている。


 そんな生卵を見つめていたら、葵の心も揺れてきた。


 確か雪絵はホットガイ化した敦も受け入れると言っていた。激辛魔王の事情も難なく受け入れていた。その強さを思うと、自分のこころの弱さを自覚してしまった。あそこまで強くなれない。ありのままの敦も受け入れられるかわからない。その点は完全に雪絵に敗北だ。


 恋心を自覚しているくせに、ふらふらと揺れてしまった。それに雪絵は美人だ。ちょっとおかしな部分もあるとはいえ、敦と並んでもお似合い。コンプレックスまで感じてしまい、落ち込む……。


「あれ? 葵さん、どうした? なんか俺よりもショック受けていない?」

「い、いえ、違うから。キムチチゲ食べよう。じ、実験だから!」

「そ、そうだね……」


 二人ともしろどもどろになりながら、微妙な空気でキムチチゲを食べた。レトルトなのに、辛さは全く容赦しない。強い味だ。卵や豆腐、野菜の味にほっとするぐらいだが、スープは灼熱だ。


「可愛い子猫ちゃん。一緒にサランヘヨしようじゃないか」


 そんな微妙な気分で食べたキムチチゲ。案の定、敦はホットガイ化し、変な韓国語も話していた。


「サランヘヨ。葵さんとサランヘヨしよう?」

「変な韓国語言わないでくれません?」


 しかし今回のホットガイ化は、なかなかしつこく、壁ドンまでしてきた。


「葵さん、俺とケンチャナヨしようぜ」

「だから、変な韓国語いうのやめてくれません? っていうかケンチャナヨって名詞だったの!? 本当にホット害だよね!」


 葵が激しくツッコミを入れた瞬間、ようやく敦のホットガイ化が終わり、その場でしゃがみ混んでいた。今回はホットガイ化で変な韓国語を連発したせいか、敦は頭を抱え、うめいているほどだ。確かにこれは恥ずかしい。葵も居た堪れない。


「やっぱり呪いはとこうよ、あっくん」

「そ、そうだね……。雪絵さんが言うように、ありのままでいい訳なかった……」


 敦の声は小さく、余計に居た堪れないが、雪絵インドカレー屋を経営していると言っていた。しかも元オーナーが何か呪いを知っているらしい。


 サンジーにも呪いの情報収集を頼んでいたが、これはもう期待できない。雪絵の方が何か知っている可能性がある。


「雪絵さんに詳しく話聞きに行こう?」

「そ、そうだな。色々と誤解も解いておきたいし」


 敦も同意し、結局、雪絵のインドカレー屋に行く事に決まった。


 かつての炎上の舞台のインドカレー屋だ。炎上にガソリンを注いだ雪絵もいる。ある意味、因縁の場所とも言えるが、呪いを解くヒントはありそうだ。


「やっぱり、呪いを解くー!」

「それこそあっくんだよ! 頑張ろう!」


 希望が出てきた。敦は呪いを受け入れる覚悟はできていたが、それとこれとは別だ。それにおかしな韓国語も聞きたくない。あれはとても恥ずかしいから。

 

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