第14話 お祭りのホット焼きそば
敦のダンスの練習は順調に進み、ダンスコンテストの当日となった。
敦は朝からソワソワとし、サンジーの店へ行ってしまった。お祭りにサンジーの出店も出店し、その仕込み作業がある為、今日一日は忙しそうだった。
一方、葵も夕方まで副業をバリバリとこなし、お祭りに備えた。
すでに夕方の時点で花火も上がり、和太鼓の音も響く。
「うーん、服はどうしよっかな」
クローゼットをあさると浴衣もあった。オシャレして浴衣を着ることも考えた。うっかり敦に「かわいいじゃん」と言ってもらうシーンも妄想してしまう。
「いやいや、ホットガイ化しないあっくんは紳士だから。そんなセクハラ発言はしないから!」
結局、ミントカラーのノースリーブにジーンズを合わせた。メイクも髪もシンプルに動きやすくまとめて、お祭り会場まで歩く。
すでに道は混んでる。家族連れ、カップル、中高生の友達グループが多く、満員電車に近い混みようだ。
なかなか道は進まないものだが、なんとかお祭り会場に入る。すでに陽が落ち、空は暗くなっていたは、中央部のステージだけでなく、さまざまな屋台も並び、とても賑やかだ。
すぐにステージに直行しようかと思ったが、まだ時間がある。屋台をぶらぶらと眺める事に。
チョコバナナ、かき氷、りんご飴、キャラメル焼きなど甘い系の屋台グルメも美味しそう。敦との生活ですっかり激辛グルメ沼にいたが、今日ぐらいは甘いものを食べてもいいだろう。チョコバナナを購入し、食べ歩く。
表面のチョコはパリパリ。カラースプレーが散りばめられた見た目も楽しく、あっという間に完食してしましった。
他にも焼き鳥の炭火のいい匂いも漂い、チョコバナナを食べた後なのに腹が減ってきた。この人混みを歩くだけでカロリーを使っているはずだと言い訳しながら、屋台グルメを見て回る。
「葵さーん!」
「サンジー!」
サンジーのインドカレー屋台も発見した。人気があるらしく、カレー類や片手で食べられるナンドックなど完売中だという。実際、屋台にはほとんど商品が並んでいなかった。
「え、何で?」
確かにサンジーのインドカレーはおいしいが何故だろう。先程まで敦が売り子をしたので、イケメンがいると、ギャル達が買い尽くしていったという。屋台の営業もラッシーを完売したら、今日は撤収予定だと笑っていた。
「いやあ、あっくんはイケメンだね」
「そうだけど、サンジー……」
敦は腐ってもアイドルだった。こんな風に他の女性にモテても不思議じゃないはず。それなのに、なんかモヤっとしてしまった。突然、敦を誰かに取られたような違和感がある。別に敦は誰かのモノではないはずなのに。
「だったら、ラッシーだけでも買える?」
「いいよ!」
サンジーの屋台ではラッシーだけを買い、それを片手に屋台を見て回った。モヤっとしていたいたお陰で、たこ焼き、焼き鳥、お好み焼き、唐揚げなどを見てもピンとこない。しかも浴衣を着たギャルに足を踏まれ、ラッシーもこぼしそうになり、余計に微妙だったが、ふと顔を上げると焼きそばの屋台があった。
しかも普通の焼きそばじゃない。激辛のホット焼きそばだった。
熱々の鉄板の上の焼きそばは、炎のように赤い。店主の男も顔を真っ赤にさせながら作っていたが、気を失うほど辛いらしい。
「本当?」
まさか冗談と思うが、スパイシーな香りにも逆らえず、ホット焼きそばを購入してしまた。おまけに激辛ソーセージも買い、どう見ても一人分の量じゃない。
買った後、我に返ってしまう。これでは誰かと食べ事を前提としているでがないか。しかも頭に敦の顔が浮かぶ。消えてくれない。
「いやいや、私、あっくんの事考えすぎだから……」
自分でも情けなくなってくるほどだが、そろそろ時間だ。お祭りのステージ会場に向かい、敦の出番を見守った。
すでに会場は満席だ。うっかりしていた。地元の素人のダンスコンテストでこんな人気があるとは予想していなかった。仕方なく、すみの方で立って見るが、出場者はレベルが高い。
主に高校生や大学生ぐらいのグリープが主に出場していたが、中には全く素人に見えないグループもある。どう見てもプロレベルのグループもいて歓声もすごい。すでにファンもいるようだった。
「え、あっくん、大丈夫?」
思わず呟いてしまった。敦はグループでの出演じゃない。ソロだ。それだけでも不利に働きそうな気もし、葵は不安になってきた。ぬるくなったラッシーを飲み干すと、余計に不安が襲う。
「葵ちゃん、大丈夫だって」
そこにサンジーも隣にやってきた。二人でステージを見守るが、このダンスコンテスト、敦は勝てるだろうか?
「信じてあげなよ。あれだけ練習したでしょ?」
サンジーの言葉でハッとした。そうだ。ここで不安になる必要はない。敦はプロのアイドルだった。練習も頑張った。敦の実力を信じない方がおかしい。
「そうだね、サンジーのいう通りだ。あ、あっくん!」
ついに敦の番になった。司会者に紹介され、ステージに立つ敦。そこだけがキラキラして見えるのはなぜだろう。
葵とサンジー以外の歓声はない。会場は静かだったが、葵は全く気にしない。
「あっくん!」
大きな声で応援していた。不安になるのも、冷笑系も、コスパもタイパも全部忘れよう。今はただ一生懸命応援するだけ。
「あっくん! 頑張って!」
気を失うほど一生懸命になるのも悪くないはずだ。




