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激辛グルメ初恋物語〜拾った推しは激辛グルメでホットガイ!〜  作者: 地野千塩


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第13話 夢とビリヤニ

 葵は元々アイドルは好きだった。たぶん、物心がついた時からテレビの中のアイドルに目を奪われていたが、敦は別格だった。


 確かにビジュアルもいい。ダンスも上手く、演技力もある。ファンへの対応も良かったが、それだけじゃない。ダンスにかける情熱やストイックさが好きだった。


「僕の夢はダンスで世界中を笑顔にするエンターティナーになること。そうすれば世界を少しでも楽しくして悲しみを消したいんだ」


 そうインタビュー動画で語る敦は、誰よりもキラキラ輝いて見え、実際ダンスも一瞬で世界に引き込むような魅力があった。おかげで葵も感化され、勉強や部活も頑張っていたものだ。敦が炎上騒ぎを起こす前は、葵も全く冷笑系ではなかったのだ。むしろ、何でも一生懸命に努力しているようなタイプ。


「あっくん! すごい、いいよ!」


 夜の公園で、そんな事を思い出していた。結局、敦はお祭りのダンスコンテストにエントリーし、当日に向けてここで練習中だった。アパートで練習するわけにもいかず、近所の公園で練習するのが一番いいだろう。時間はインドカレー屋の仕事が終わる夜中になってしまうし、音楽もかけられないが、敦にとっては十分練習になっているようだ。


 葵も練習に付き合っていた。軽く手拍子を打ったり、こうやって歓声を送る事しかできないが、目の前で敦が踊ってる。しかも観客は葵一人だ。これ以上の特等席はない。自然と葵の歓声も熱が入り、それに呼応するように敦のダンスにもキレが生まれていた。


 元々、敦はバレエの経験もあるらしく、ダンスに優雅さもある。ピンと伸びた背筋は一層凛とし、軽やか。その世界に引き込まれていく。


 もう無理……。限界……。


 こんな特等席で敦のダンスを見ている葵の語彙は消滅すていたが、なんとか理性を保っていた。口の中をちょっと噛み、どうにか本心を隠しているが、ふと、夜空を見上げると、月があった。


 半分ぐらい欠けている月だったが、その光は敦の横顔も照らしていた。


 こんなダンスを踊る敦は、今までで一番光って見えた。確かにサンジーのインドカレー屋でも敦の居場所はある。他にもホットガイ化して受け入れてくれる場所はあるかもしれないが、このままでいいかわからない。かぐや姫のように月に戻り、本来の生活を送るのが、きっと敦にとって一番いい。


 そう思うと、葵の心がちくんと痛む。こんな特等席で敦のダンスを見ているのに、コンサートの終わる寸前みたいな気持ちになってきた。敦との生活もいつか終わるのかもしれない。というか、必ず終わる。呪いが解けても解けくても、ずっと敦と一緒にいられないし、サンジーのインドカレー屋でお金を稼げている今は、葵と暮らす意味はない。


 もっと胸が痛む。本来なら、敦が自立するのはいい事。呪いが解けるのだっていい事なのに、完全に喜んべない自分に気づいてしまう。心の底では敦と一緒にいたいと思っていたが、こんな本心は決して言えない。再び口の中を噛み、無理矢理笑顔を作った。


「あっくん、素晴らしいダンスだったよ。きっとダンスコンテストで優勝するよ!」


 葵はそう言いながら、タオルとペットボトルの水を渡す。汗を流し、頬が赤くなっている敦は、色々と目に毒だ。ある意味、ホットガイ化している時よりもセクシーで困る。葵はまた口の中を噛みつつ、どうにか理性を保つ。それに敦とともにダンス談義をしていると、頭も冷静になってくるものだ。


「この振りとかどう? 少し大袈裟ではないか?」

「うーん、そこはアイドルっぽく派手に行った方ががあっくんの良さが引き立つと思う!」

「そっか。そうだよね。やっぱりファンだった葵さんの意見は貴重だ」


 そんなダンス談義中だったのに、なぜかここで敦はじっと葵を見つめていた。


「え、何?」


 思わず心臓が跳ねる。ホットガイ化した時は何度も至近距離で見つめられていたはずなのに、素の敦に見つめられるのは初めてだった。


 まだ敦のこめかみには汗が浮いている。目もしっとりと黒々としているのはなぜだろう。


「葵さん、もしダンスコンテストで優勝したら……」

「え、何? 何か言った?」


 夜の風は公園の木々をザワザワとさせ、敦が何を言ったか聞こえない。


 しかも聞き返しても、答えない。無言で葵の目を見つめていた。


「え、何?」


 何この展開?


 もう無理、限界と思った時だった。公園にサンジーがやってきた。差し入れのビリヤニとアイスチャイを持ってきたという。ダンス練習中にもよく差し入れをしてくれていた。今はサンジーが来てくれてホッとする。このまま二人きりだったら、脳はパンクしていたかもしれない。


「あっくん、ダンス頑張ってるー?」


 サンジーの明るい声が響き、ようやく葵も冷静になり、敦も妙な目も辞め、三人でビリヤニをいただく事にした。


 ビリヤニはインドの炊き込みご飯だ。日本の炊き込みご飯と違い、色合いもまばらだが、わざと混ぜないという。


 おかげで味に濃淡が生まれ、飽きずに食べてしまう。スパイスの複雑な辛さも楽しめる。一筋縄ではいかない米料理だ。


 こんなビリヤニ、今の葵の心みたい。表面的には敦の呪いを解くと協力している。一方、本心では敦とずっと一緒にいたいとも思っている。呪いを解くと何度も決心しているくせに。ビリヤニを食べていたら、余計に敦と一緒にいたいと思ってしまうから、上手く笑えない。


 それでも、もう一度アイドル時代の敦のダンスを思い出す。夢を語っていたインタビュー動画も思い出し、今は敦の夢を応援するのが一番だろうと気づく。たぶん、それが敦にとっていいことだから。


 そんな事を考えながらビリヤニを完食した。心はスッキリとしていた。もう敦の夢を応援するだけでいい。そんなシンプルな答えに辿りついたら、葵の表情もスッキリと晴れていく。もう口の中を噛まなくても大丈夫そうだ。


「あれ? ビリヤニも辛いのに、別にホットガイしないようだね」


 一方、敦はその事に気づいていた。実際、このチキンビリヤニでホットガイしなかったが、サンジーは何か知っているような目をしていた。


「実は田舎のねえやにきいたら、あっくんと似たようなケースがあったって。でもその子を保護してみんなで一緒に食事していたら、自然と呪いが解けたってさ。おそらくみんなと食事している時は呪いが効かない?」


 サンジーはねえやからのメール画面も見せてくれたが、日本語でも英語でもなく、何を書いてあるのかわからないが。


 思わず葵と敦は顔を見合わせる。この呪い、自然に治る事もあり得る?


「やっぱり呪いを解く鍵は、愛かい? そう愛だ!」


 サンジーの無邪気な声が響くが、葵は笑えなかった。今までの実験の結果でも、愛がキーワードである事はわかっていたが。


 愛って何だろう?


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