表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
激辛グルメ初恋物語〜拾った推しは激辛グルメでホットガイ!〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

第1話 はじまりのホットチキン

 いつも動画は早送りで見る。その音はネズミの鳴き声みたいだ。もはや雑音と化しているが、見たような気分だけは味わえる。


「ふーん、どうせ、ご都合主義展開でしょ。はいはい」


 氷川葵、二十歳。大学生だったが、かなり冷めた性格だった。今日も一人暮らしのアパートで動画を倍速で見ながら、ツッコミを入れていた。


 動画は最近、話題になっている恋愛映画だが、中盤以降、偶然が多発し、ご都合主義展開に興醒めだった。


「やっぱり王道展開だし、先も読めるからねー。どこかで見たことある感じ」


 動画にツッコミを入れる葵。ポテトチップスもパリパリと食べていたが、その目は限りなく冷めている。


 二年前のことだ。葵が高校生の時だった。その時はこんな冷めた性格ではなかった。むしろスイーツ、可愛いキャラクター、ファッションにもキャーキャー騒ぐミーハーな性格だったし、部活や勉強も頑張っていた。


 アイドルが好きだった。王子様キャラの黒瀬敦というアイドルの推し活もしていた。せっせとバイトでコンサート代や遠征費を稼ぎ、雑誌や動画に一喜一憂しながら、「あぁ、尊い……」と呟く日々。あの頃は純粋に推しが好きだった。そんな世界がずっと続くと思っていたが、裏切られた。


 敦が炎上騒ぎを起こしたのだ。炎上の舞台は食レポで訪れたインドカレー屋だった。店員の女性に壁ドンや頭ポンポンなどをした上、抱きついた。セクハラにしか見えない行為だった。仮にもアイドルがする事ではない。葵たちファンの失望も大きいものだ。熱愛とは全く違う裏切られ方だった。


 結果、敦は芸能界から干され、現在どこにいるのかも不明だったが、葵の心に影を落とした。あんなに好きだったのに。王子様ではなく、単なるスケベ男だと思うと、裏切られた気分だ。推し活にかけた時間やお金も返して欲しい。


 葵は学んでしまった。どんなに愛しても裏切られる事があるのだと。一生懸命さや努力も無駄になってしまうのだと。


 以降、葵は頑張って努力をしたり、真剣に何かを愛したりするのをを辞めた。


 全部損得勘定で考える。コスパやタイパを頭の中で計算する。頼れるのはお金だけ。副業を研究し、月二十万円以上を稼ぎ、恋愛映画も早送りで視聴し、冷笑しながらもツッコミをいれる日々。


「あー、つまんない映画だった。二番煎じ過ぎた。ツッコミどころも満載!」


 こうして動画も三十分で見終えた。お供にしていたポテトチップスも胃の中に消えたが、どうもお腹が減る。お菓子はやっぱり満足感がない。


 時計を見たら夜の九時過ぎだ。深夜でもないし、今の季節は夏だ。今から出かけても問題ないだろう。近所のコンビニでも行って腹ごしらえしよう。


 適当なシャツとハーフパンツに着替え、髪もゆるくまとめると、一人暮らしのアパートの外を出た。


 駅にも近く、築五年の三階建てのアパートだったが、事故物件の噂もあった。とはいえ、家賃もやすく、諸々の損得勘定をした結果、大学入学後から住んでいる。今のところ、心霊現象もなく、快適な一人暮らしだったが。


「葵ちゃーん! こんばんは!」


 アパートの入り口で隣人に会った。隣人はインド人のサンジーだった。日本に二十年以上住んでる謎インド人だ。顔立ちも髭も濃いめ。くるっとした天然パーマがチャームポイントで目立つ。声も高めで、可愛らしい雰囲気もあるキャラだ。仕事では優秀らしく、経営しているインドカレー屋は人気だ。


「どう? 葵ちゃーん、元気ですかー?」


 しかし、こんな風に絡まれるのは苦手。敦の一件以来、人懐っこいキャラや陽気なキャラは苦手になってしまった。サンジーは典型的な陽キャといえよう。


「葵ちゃん、うちの店来てよ。絶品の激辛インドカレーをご馳走するよ!」

「ああ、そう」

「なんだよ、葵ちゃんは冷めてるね」

「いいでしょ」

「そっかぁ。まあ、今月は一時帰国するから、アパートの平和を守ってね!」


 サンジーの日本語はペラペラだ。メンタルもあんまり日本人と大差ないように見える。本当は礼儀正しい性格である事も知っていた。ゴミも綺麗に出しているし、騒音も絶対たてない。挨拶もこうしてしてくれるが、今はあんまり会話したくない。快適な一人暮らしだったが、この隣人だけはちょっと苦手だったりする。


 葵は足早にアパートを後にし、近所のコンビニへ。


 温暖化している日本だ。夜なのに、風はむっと熱く、ちょっと歩いただけで汗が滲む。夜空には月が輝き、そこだけは少し涼しげだった。もし、今の時代のかぐや姫がいたら、懐かしくて泣いてしまうかも。


 コンビニに入店すると、冷房がきいていた。夏休みのせいか、高校生らしき客も多かったが、とりあえず無糖の炭酸水やおにぎりなどもカゴに入れた。おにぎりは割引きシールがついていた。これはお得だ。料理が苦手で自炊キャンセル中の葵にとっては、コンビニの食べ物は多少割高だが、全体的にタイパはいい。


「ただ今、激辛ホットチキンが揚げたてでーす!」


 その時、店員の声が響いた。


「サククサでやみつきになる味です! いかがですかー」


 そんな事を言われて誘惑されてしまった。レジ横には真っ赤に燃えるホットチキン。目が合ってしまって離れられない。


 値段はお高めだったが、葵だって全部コスパやタイパで割り切っていない。結局、衝動的にホットチキンを購入し、エコバッグに入れてもらった。


「ありがとうございました。またのご来店を」


 コンビニを後にし、まっすぐに家に帰るつもりだった。エコバッグからはホットチキンのスパイシーな匂いも漂い、ちょっと恥ずかしい。


 しかし、その途中、近所のヤンキーが道を塞いでいた。数人でだらしなく座り、タバコ臭い。


「げー」


 嫌なタイプだ。前にも絡まれた。ブスとか言われて不愉快になった。このヤンキーを避ける為、迂回し、公園の中に入る。


 夜は人気のない公園だった。近所では幽霊が出るという噂もあった。


「そんなの気にしない。幽霊なんて幻覚だから」


 自分に言い聞かせて、ずんずんと公園の中を進んだ時、中央部の噴水の近くで誰か倒れているのに気づく。


「誰?」


 スマホのライトをつけて確認したが、驚いた。声も出ない。


「うそ、あ、あっくん……。なぜここに……」


 そこにはかつての推しがいた。葵を今の性格にさせた元凶・黒瀬敦が。


 思わず当時のニックネームで呼んでしまったが、そこには反応しない。なぜか葵のエコバッグにしがみつき、犬のようにクンクンと鼻をならしていた。


「は?」


 かつての推しが倒れていたのも謎だが、これって一体何?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ