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土地神様は薔薇が好き。  作者: WA龍海
競技、退治編

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32話 怪人と僕らの後夜祭 その三



 階段脇でサラと話した後、僕は彼女を連れて屋上へと戻ってきた。

 そして皆のいるテントへと向かった……のはよかったんだけど──



 ──なぜかテントの中央にて、白いモフモフとした巨体……サモエド犬が鎮座していた。

 犬特有の息遣いと、幸せそうな顔で。



「White Dogだ!!」


 白い獣を目にした途端、サラは即座に飛び込んでモフり倒し始めた。さっきまでの陰気な姿はどこへやら、サモエドスマイルと並んで良い笑顔をしてらっしゃる。

 とりあえずまあ、元気が出たみたいで何よりだ。ところでどこの子ですかこのワンちゃん。


「おう、二人とも戻ったか」

「ただいま。で、どこから来たんだあのモフモフビースト」

屋外スペース(した)にいる誰かのペット。校舎内に逃げてそのまま屋上まで迷い込んできたみたいでな。今は飼い主が回収しに来るまでここに置いてるところだ」

「なるほど。大人しくて良い子だね」

「だな。元々落ち着いてるが、特にマトイの言うことに従うみたいでさ。アイツに言われて素直に待ってんの。利口だよな」


 利口なのはいいけど、普通に校内への侵入を許しているのは如何なものか。校風が自由とはいえ、セキュリティが緩すぎるのはマジでどうにかした方がいいと思いますよ先生方。

 というか、マトイさんの言うことは聞くって……そういや校舎での通信の時もサモエドがどうとか言ってたな。まさかその時の犬か?


「あれ? そういえばそのマトイさんは? というか、他の皆もいないし……」

「イザとマトイと付喪神ズは飲み物取りに行ってる。キリさんは現在進行形で犬の下敷きだ」

「たすけてぇ……」

「うわホントだ」


 赤毛の人間が白毛の犬を撫でまわしている光景を俯瞰してよく見ると、白毛の神様が犬と床の間で呻き声と共に挟まれているのが確認できた。保護色みたいになってて全然気が付かなかった。


「犬に負ける土地神様って字面、興奮するよな。あ、文字列だけじゃなくて現在進行形で興奮してるから安心してくれ」

「安心する要素が何一つねえわ」


 神様に対して色々と冒涜的すぎる発言は不安しかない。あとウインクすんな気色悪い。

 せっかく戻ってきて肉にありつこうとしていたのに、隣の馬鹿の顔による食欲減衰効果が激しいったらないぜ。

 隠すことなく僕が顔を歪ませていると、横から缶ジュースが差し出された。


「はいどーぞ。……何変な顔してんの?」

「あ、おかえりイザ。隣の馬鹿の顔見てみろ」

「おう。俺のイケメンフェイスを御覧じろ」(パッチン☆)

「「うっわ……」」

「二人してそんな顔すんなよ。余計興奮するだろ」


 勝手にしてろドM筋肉。

 イザと一緒になって吐き気を催しつつ、逃げるように視線を逸らしてホワイトワンちゃん達を見るとマトイさんと付喪神さん達も戻ってきているのが確認できた。あ、キリさんサモエドの下から引きずり出され……もとい、救出されてる。


「あ、ありがとうマトイ……もう駄目かと思った……」

「土地神サマが何してンだか。とりあえずコレ使ってその毛取れ。飯に入ったらマズイ」

「あ、はい」


 雑にゴミ取り用の手持ちローラーを渡され、身体中をコロコロしているキリさんの姿はとても切なく見える。威厳の欠片もなくてなんかこっちが涙出そうなんですけど土地神様。

 そんなちょっと胸が苦しくなる光景の隣で、犬から離れたサラがこちらに戻ってきた。どうやら犬のモフり役をコマチさん達と交代したらしい。


「イヤー楽しんだゼ……あ、イザもオカエリ!」

「はいただいま。アンタも飲み物いる?」

「ウン、アリガト……む? イザ、目が赤いヨ? ダイジョブ?」


 缶ジュースを受け取ったところで、サラがイザの顔を覗き込んだ。

 あれ、ホントだ。よく見たらちょっとだけ目が赤くなってるというか、泣き腫らした後のようにも見える。まあサラも同じようなものなんだけど……こっちでも何かあったんだろうか。


「ああ、さっきマトイとキリさんに軽くお前らの状態について聞いたもんだからコイツが泣き出したってだけグハァ!」

「な、何でもないわ。ちょっと目元を巨大オオグソクムシに襲われただけよ」


 よく分からないが、なぜか突然フキが床に沈んだ。

 いや今はそんな見慣れた光景よりも……。


「このBBQにそんな恐ろしい虫の混入が……!?」

「異物混入ってヤツだナ! マトチャン、グソクムシ……ってCookingできる?」

「ココでやンなら唐揚げか蒸し焼きでイケるかもね」

「ごめん冗談だから。つーか調理する方向で考えないで」


 なんだ冗談か。すっかり騙されてしまった。


「オオグソクムシの食感や味がカニとかエビに似てるっつー話は置いておくとして、マトイ。面子も揃ったわけだし、そろそろこの前の件についてちゃんと説明してもらってもいいか?」


 僕らがイザによる功名な冗談に振り回されていると、立ち上がったフキの言葉でマトイさんに視線が集まった。

 この前の件、というのはやはり……一昨日の校舎でのことだろう。


「えー、飯食ってる時に面倒な話はしたくねェンだけどなァ」

「いや話しとこうや。たしかに色々と面倒なことになっとるし、話せることは少ないけど……」

「少ない、ですか?」


 僕らの魂だったり、死神だったり呪いだったり……たしかに面倒くさい話ではあったけど、『話せることが少ない』というのはどういうことだろう。


「流石に今回のは今までと違って別格な案件でサ。言えない話が多くてね」

「ベッカク?」

「あんまし人間に教えるのは()くない範囲の出来事だったって話よ。神々にとっての機密事項というか……」

「……踏み込みすぎると後戻りできない的な話ってことか?」

「「そうそう」」


 フキの言葉を肯定するように、キリさんとマトイさんは同時に頷いた。

 そんな様子を見て、『そうだったんだ』なんてどこか他人事のような感想が頭に浮かぶ。


 ……体育祭が終わった後、マトイさんと死神さんは揃って姿を消していた。

 残っていたキリさんと付喪神さん達に訊ねると、後処理の為に先に帰ったと聞かされたのだ。事情をキリさんに訊いても「今回のことはあんまり話せることがないんよ」と申し訳なさそうに言われてしまい、深掘りすることが出来なかったんだけど……そういう事情だったんだな。


「あァ、アンタらが当事者として関わったコトに関しては気にしなくていいよ。キリも死神もすぐに神共に向けて報告上げてたし、オレも早めに対応はしといた。特に悪いコトにはならんだろうサ」

「ええっと……よく分からないけど、分かりました。あ、それで死神さんは?」

宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)に引き渡した。あの死神も色々あって周りから睨まれるヤツみたいだからな。ウカのトコなら反省と保護が同時にできるモンでね」


 反省……そういえばキリさんが誓約を交わす時、罪がどうとか言ってたっけ。

 多分、今の話の流れ的に『罪』っていうのは今回の騒動とは別のこと……なのだろうか。


「その、死神……は何をしたのよ? 悪いことをしそうな性格じゃなかったって二人は言ってたけど」

「うん。というか、呪いから僕らを守ってくれてたんですよね?」


 イザの言う通り、呪いの影響でほとんど話すことはできなかったけど、あの神様自体は何か悪いことをしそうな雰囲気ではなかった。今回の件だって、問題だったのは死神さんではなく呪いの方だし、そもそもそんな危険な呪いを封じ込めていたのは死神さんという話だったはずだ。

 罪があるどころか、土地神様に代わって人を守っていた。賞賛されそうなものなのに、どうして責められることになっているのだろう。


「そりゃアレが死神としての責務を放っぽり投げてたからだ。長いコト人間の魂を管理しなくなって、キリや他の神に押し付けてたようなモンだからな。そら他の神の怒りも買うって話サね」

「そういえば、まつろわぬ神ってやつになってたとか言ってましたね。それって呪いを封じてた件とは別なんですか?」

「うん。元々は違う目的のために責務を手放して、その後に呪いを封じとったんじゃって」


 なるほど。そういう経緯だったのか。

 言い方からして、マトイさんもキリさんもあの後で死神さんに直接訊いたのかな。たしかに色々面倒でややこしい話である。


「ンなワケで周囲をそれなりに納得させる言い分が立つ上、(みそぎ)のために拘留させられる場所として最適だったのがウカのところってコトだ。まァ人助けもしてた辺りは情状酌量の余地ありって判定にゃなるだろうから、暫くは小間使いとして働かされて元の役割に戻すってのが落としどころじゃねェかな」

「それで、死神が責務を放ってまでやりたかった目的ってのは……」

「ソレについては本人の希望でオレから言うのは無しだ。悪いね」


 フキの質問に対して、マトイさんは手でバツを作った。まあその辺りはプライベートな事なのかもしれないし、追求しても仕方がないか。

 しかし、そういうことならもう簡単に会うことができないところに行ってしまったんだな。元より神様なんてそういう存在だろうけど……せめて、もう少し話くらいはしておきたかったな。


「気になるンならいつか直接話してみるといい。そのうち休暇取って謝りにくるだろうからな」

「え、休暇とかあるんですか?」

「前にウカはまともな神だって話したでしょ。まともっつーか基本的に甘いンだが……まァ今頃オレが送った蕎麦でも茹でて食ってンだろ」


 高位の神様に蕎麦送ってんのかこの人。ホントに仲良いんだな。

 というか死神さんの処遇、勝手に刑務所に収容されたようなイメージをしてたけど、聞く限りだと福利厚生がしっかりした部署への異動のようなものにも思えてきた。ホワイト反省室じゃん。


「とりあえず、今回の件でオレやキリから話せンのはこの辺りまでだな。ご清聴ありがとうございました」

「あ、ありがとうございました!」


 キリさん達が軽く頭を下げたところで今回の死神騒動の話は終了となり、あらためて肉と料理で舌鼓を打つことになった。


 話せることは少ないと言われたけれど、聞きたいことは大体聞けたから問題ない。つーかそれより飯食いたい。

 恐らく皆も同じような考えなのだろう。それ以上はこの件について特に話すこともなく、食事を楽しむことになったのだった。





「……ところで、誰かお酒が置いてあるところ知らん? 探したんじゃけど見当たらんのんよ」

「あるわけねェだろ高校だぞココ」




         〇〇〇




「悪いね、手伝ってもらって」


 校舎裏のゴミ捨て場で、荷を下ろしたマトイさんがそう言ってきた。


 時間は過ぎて、午後二時頃。

 食事会は無事に終わりを迎え、片付けをすることになったのだが……マトイさんは一人で大量のゴミ袋を捨てに行こうとしていた。

 誰が見ても明らかな多量積載を見て、偶然手の空いていた僕は手伝いを申し出た結果、二人きりのゴミ捨て隊となってここまでやってきたわけである。


「いやいや、むしろお礼を言わないといけないのはこっちの方ですよ。ご馳走様でした」

「お粗末様でした。満足してもらえたならよかったよ」

「はい。……ところで、マトイさんって普段はどういう仕事してるんですか? これだけの規模の食事会って相当お金かかってると思うんですけど……」

「その辺はまァ、秘密ってコトで」

「……クリーンなお金ですよね?」

「オレのコト何だと思ってンの?」


 どうあっても顔を見せない怪しい大人だと思ってます……と正直に言うのはやめておこう。自覚はあるっぽいしな。

 ううむ、頼りにはなるし信頼もしてるけど、胡散臭い印象なのは初対面の時から据え置きなんだよなこの人。顔が見えないのが主な理由だけど。


「ま、素性を明かさない輩に対してその反応は正常だわな」

「いやあの、失礼な事言った僕が言うのもなんですけど、少しは文句言ってもいいと思いますよ……?」

「や、それよりも安心が勝つというかね。ホラ、変なコトに巻き込まれてると認知が歪むからサ」


 肩をすくめるマトイさんの言葉に少しハッとした。

 たしかに最近、怪異なんかに関わりすぎて自分の中の認識が変化している自覚はある。

 無意識下での認知の歪み。言われてみれば、僕自身その状況に陥っている気がするな。


「さっきも少し言ったけど、あまり踏み込み過ぎると碌な事にならねェからな。今更な気はするけど、怪異だの神だのと人間の手に余るモンに深く関わるとあんまし良いコトなんざねェ。興味を持つのはいいが、行き過ぎないようにしとくのを勧めるよ」


 マトイさんの声は真剣なもので、思わず背が伸びてしまう。

 ……って言われても、本当に今更な話だ。もうキリさんだったりノロイさんだったり、付喪神なんかにも関わってるし。というか……


「そう言う割には訊いたら色々教えてくれますよね。それにマトイさん自身も人のことは言えないんじゃ……」

「そら訊かれたら答えられる範囲で答えるサ。ただ、オレはもう関わりすぎて戻れないからなァ。ンでもって色々あった身だし……キミらには普通でいてほしいっつー老婆心ってだけサね」

「……そうですか」


 遠くを見つめるような呟きに、これ以上の質問はできなかった。


 きっと良い人なのは間違いない。だけど、やっぱりこの人に対しての疑問はあまりにも多い。

 なんでそんなに色々知ってて、キリさんでも手こずる存在を簡単に打倒せたりするのか。顔を隠しているのはどんな理由があるのか。そもそも、マトイさんは一体何者なのか……。


 ……訊きたいことは山ほどあるし、訊けばそれなりに答えてくれるのかもしれない。だけど、どこか踏み込んではいけないような……そんな無意識のうちに感じていた雰囲気を今は全面に出しているような、そんな気がした。


 そんな話をしていると、校舎の方から足音や話し声がにわかに聞こえてきた。

 他の場所で食べていた人達も片付けにきたみたいだな。


「人が増えそうだな。邪魔になったらよくないし、サッサと退散するか」

「そうですね」


 ゴミ捨てが済んだのにこの場に残って話し込むのもおかしな話だもんな。

 ということで、僕らはその場を後にしたのだった。




「あ、そうだ」


 ゴミ捨て場からの帰り道……と言うにはさほど時間が経っていないけど、校舎内に入ったところで、前を行くマトイさんがふと呟いた。


「何かありました?」

「いや、大した話じゃないから適当に聞き流してくれてもいいンだけどサ。さっき話した関わらない方がいいってヤツの続きというか、補足をしとこうかと思って」


 話を続けるマトイさんは背中を向けたまま、いたって普通の声をしている。

 そんないつもと変わらないテンションで──




「───オレのコトも、あんまり信用し過ぎないでもらえると助かる。……ま、コレも今更な話だけどサ」




 ──そんな言葉を残して、また歩き始めたのだった。




サモエドくんはセキとサラが話していた場所とは別の階段から屋上に辿り着いています。人通りの少ないところを進んでいる辺り結構したたかなお犬様である。


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