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土地神様は薔薇が好き。  作者: WA龍海
競技、退治編

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26話 土地神様と番外競技 その六



「───ぶっはぁ!」



 軍艦巻き状態が解かれたキリさんが盛大に息を吐き、倒れるようにして座り込んだ。相当疲れたようで、息を整えるように大きく深呼吸している。


「だ、大丈夫ですかキリさん」

「はぁ……あぁうん、大丈夫。二人も体調は変じゃない?」

「ダイジョブ! キリチャン、アリガトネ!」

「そっか。良かった」


 僕らが駆け寄ると、キリさんはにへらっとだらしなく微笑んだ。

 おお、いつも通りの土地神様だ。この神様(ひと)、相変わらず真剣な時とのギャップが凄いな。でもやっぱり、こっちの方が安心するね。

 さて、キリさんの無事は確認できたけど、問題はあっちの神様だな。


「……とりあえず、死神さんはこれで大丈夫と考えていいんですか?」


 少し離れた場所でうつ伏せになって倒れ込んでいる死神さんを見ながら訊ねる。

 あくまでも呪いは収束しただけで祓われたわけではない。言うなれば呪いに蝕まれた状態のままなので、迂闊に近寄ることができず放置したままなのだ。

 サラの姿なせいで余計に罪悪感があるけど、仕方がないな。


「いや、それはここからというか……皆に相談があるんよ」

「相談? どんなものな、の?」

「もしかして、さっきMemoに書いたコト?」

「あ、うん。その、なんの勝負をするか決めんといけんくて」


「「……勝負?」」




         〇〇〇




 呪いが止まってから数分後。

 僕は薄暗くなった大講堂の前の廊下で一人、軽い準備運動をしていた。


「まさか誓約の内容が死神さんと勝負することだとは……」


 足を伸ばしながら呟いて、ため息を吐いた。


 キリさんが死神との間に交わした誓約について要約すると、『僕らと勝負をして負けたら強制的に呪いを剥がす』というものだった。

 さっき話を聞いたところによると、誓約によって縛りを設けることで神通力の強制力が増すらしい。本(にん)の意思でどうにも出来ない事であっても、誓約を交わせばなんとかなるとか……説明聞いてもよく分からなかったな。まあとにかく、何かしらの勝負で勝てば死神から呪いを引き剥がせるとのことだ。


 というわけで、明確に決めていなかったらしい勝負内容を決めることになったのだが……。


『ンジャ、Race(レース)でイインじゃナイ? 体育祭だし!』


 そんなサラの能天気な発言によって内容が決定。校舎内での徒競走と相成ったわけである。

 キリさんも『あ、じゃあそれで』なんて乗っかるもんだからトントン拍子に話は進み、細かい内容について決められていった。


 死神さんは一人で走り、こちらは僕とサラが主な走者。呪いの影響を低減させられるキリさんとルリさんは僕らにとってのバトンのような存在として神通力で浮遊したまま並走し、コマチさんはゴールで待つ判定係ということになっている。

 さっき死神のいた西棟四階の端をスタート地点として、対極となっている東棟の端がゴール。レース配分としては前半の担当をサラ、後半は僕となっており、サラが西棟から走って三階の大講堂の前で僕にバトンタッチする形だ。


 そうして色々取り決めたところでそれぞれが配置に移動して、現在は待機している状態なのである。


「……ふぅ」


 ここまでのおさらいと勝負内容について確認したところで、一息。準備運動はこんなところでいいだろう。

 誓約を交わしたといっても、実質的には形だけのようなものだ。当然ながら僕らは負けるつもりはないが、死神さんも負ける気でいるはず。つまりハナから勝敗が決まっているのだ。

 というわけで、僕としては結構リラックスした状態なのである。


 ただし、今現在の僕には連絡手段がない。そのため、開始のタイミングはスタート地点にいるサラ達の一存に任されている状態……つまり、既に走り出していてもおかしくはない頃合だ。

 ということで、勝ち負けがほぼ決まっているとしても今はいつでも走り出せるようにしておかないと──あっ。


「来たか……って、んん? ……んん!?」


 足音が聞こえたのでそちらを見たところで、想定外の光景に自分の目を疑った。

 走るサラと浮遊して追従するキリさんとルリさん、そして死神さんがこちらへ向かってきているのは予定通りだ。しかし──



 ──絶対に負けなければならないはずの死神さんが()()()()()()()

 どういうわけか、黒い靄を大量に撒き散らしながら。



「ちょ、これどういう状……ぶわっ!」


 疑問を口にするも、真横を駆け抜けていく死神さんの靄に包まれてしまった。煙たい。

 蒸気機関車が通過した時ってこんな感じなのかな……いやそうじゃなくて!


「せ、セッチャン交代! ガンバッテ!」

「ごめん、説明は走りながらするけえ、今は急いで!」

「あ、ああ! 了解!」


 混乱しつつも、指示に従って走り出す。

 一体どうなってんだよホントに!




         〇〇〇




(で、どうなってるんですか、アレ)


 全速力で廊下を駆けながら、頭の中でキリさんへ疑問を飛ばす。

 アレというのは勿論、目の前を走っている……いや、浮遊して高速移動している死神さんのことだ。

 一度収まったはずの黒い靄が身体中から噴出し、その背中を追いかけている僕の顔面にこれでもかと降りかかっている。邪魔で仕方がないなコレ。


「起きてから説明した時は普通だったんじゃけど、走り始めた途端に呪いが出始めて……なんか凄い勢いで移動し始めたんよ。それでサラちゃんも追い抜かれてしもうて。理由は全然分からんのじゃけど……」

(分からんことだらけですね。……先月も思ったけど、もしかしてキリさんって知らないことの方が多いんじゃ──)

「……」

「さ、最近は異常事態が多いだけじゃって!」


 半目の僕と何も言わない(言えない)のに呆れているような雰囲気のルリさんに対し、キリさんは慌てて反論してきた。普段のポンコツ具合を見ていると疑わしく思えてきますぜ土地神様。

 原因の真理はさておき、死神さんは呪いによって暴走していると見ていいだろう。となれば、今動いているのは本神(ほんにん)の意思とは関係ないと考えるのが自然だろうな。

 しかし問題はその辺の理屈ではなく、このままだと僕らは負けてしまうかもしれないということだ。そうなると……ん?


 あれ? そういえば負けてしまうと……どうなるんだろう?


 考えてみると、こちらが敗北した時の条件が分かっていなかった。死神さんが起きたらすぐに始めようってことになったもんだから、その辺の取り決めについて訊く前に大講堂の前まで移動してきちゃったんだよなぁ。


(キリさん。僕らが負けた場合のペナルティはあるんですか?)

「あ、うん。二人の魂と私が呪いに侵されるよ。さっき始める時に決めたんじゃけど」

「滅茶苦茶リスク高いじゃないですか!?」


 思わず声が出たわ。何勝手に人の魂ベットしてくれてんだこの神様!


「ご、ごめんなさいぃ! だってあの呪いをどうにかするにはそれなりの代償を揃えんにゃいけんかったし、私も負けると思ってなくて〰〰〰!!」

「泣きたいのはこっちですよ、もー!」


 半泣きで謝罪するキリさんに対してこっちも負けじと声を荒らげる。

 いやたしかに、元々死神さんは呪いを祓いたいはずの身ということもあって、負けることはないと僕も高を括っていましたけども! これは何がなんでも負けられなくなってしまったなぁ!?


 そんな悲鳴の応酬をしていると、またしても顔面に靄が突っ込んできた。


「げほっ……とりあえず、別ルートで行きます! キリさん達も協力してください!」


 このまま靄が顔面に被さる位置では息継ぎがしづらいし、視界も悪くてまともに走れない。これでは文字通り暴走している呪いWith死神さんには追い付けないだろう。

 であれば、階段を降りて一旦距離を取りつつ、別の階を走ってリードするのが無難なはずだ。


「あ、うん! でも協力ってどうするん?」

「それは……こうするんです、よっと!」


 階段に向けて急旋回し、足をバネにして跳ぶ。

 そしてその勢いのまま……手すりを掴んで、乗り越えた。


「ちょっ、セキさん!?」

「──着地、お願いします!」


 一気に下に降り……いや、落ちながらキリさんとルリさんに雑な指示を飛ばす。

 呪いでおかしくなっているとはいえ、神様と相手しているんだ。生半可な覚悟で勝てるとは思えない。リードを確保するなら、階段を普通に降りてたら間に合わないだろうさ。

 このまま落ちれば当然怪我じゃ済まない可能性があるけど、幸いこっちには神様が二人も付いている。神通力を使って上手く着地できれば、大幅にショートカットできるという算段だ。キリさんは最近練習もしていたし、ルリさんも神通力の強さはキリさんより上と聞いている。きっと上手くやってくれるはずでしょうとも。


(───ん?)


 とまあ、色々と考えを巡らせながら落下していた刹那。

 ほんの一瞬だけ、妙な光景が重なって見えた気がした。




 僕が⬛︎⬛︎を抱きしめている。

 足元には非常階段。しかし壊れかけていて、今にも外へ向かって倒れそうになっている。

 そしてそのまま、抱きしめた⬛︎⬛︎の赤い頭を守るようにして、僕は───




「もう、無茶を……えーいっ!」


 そんな声が聞こえて、意識が元に戻る。

 今のは……もしかして、今のも魂から漏れ出した記憶ってやつなのか?

 いや、そんなことよりも今は競争の最中だ。着地に専念しないと。


 迫る一階の床を睨みつけるように見つめて、集中する。

 それから間もなく、僕の身体が浮遊感に包まれて──



「───ウブォァッ!?」(ゴスゥッッ!!)



 ──身体が真横にスライドして、結構な勢いで階段横の壁に激突した。


「ああっ、ごめんなさい! まだ自分以外を浮かすのは苦手で! あ痛っ、る、ルリさんも力を打ち消してしもうてごめんなさ、あ痛たたた」

「……! っ!」

「い、いえ……大丈夫です、はい」


 壁から身体を引き剝がして強打した顔面を抑えつつ、ルリさんの袖で叩かれているキリさんに言葉を返す。

 無茶ぶりしたのは僕だし、責められはすまい。でも超痛え。顔面陥没してないかな僕。


「い、一応私の力で治療を……」

「ありがとうございま……いえ、移動しながらお願いします」


 目の前がチカチカするけど、今は急がないと。

 キリさんから温かい光を貰い受けながら、僕はどうにかまた走り始めた。




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