23話 土地神様と番外競技 その三
フキ視点の説明回。
またちょっとややこしい話ですが基本アホな話してるので内容はふんわり捉えるくらいで多分問題ありません。
~少し時を戻して、フキ視点~
セキとサラの二人が離脱した後。
二人三脚に出るわけではない俺こと柊崎は生徒用テントから離れた場所に座り、休憩がてら水分補給をしていた。
「お疲れ。休憩中?」
「おう、マトイ。まあ我ながら大活躍だったもんでね」
横から話しかけてきた布に巻かれた顔の友人、マトイに返事をしながらさらに手元の水筒を傾ける。
実際、午前中から出られる競技にはほとんど出てたせいで俺の身体はかなりお疲れだったようだ。今更ながらケツに根が生えたように動けん。
「キリさんとルリコマチは?」
「キリは少しその辺歩いてくるとか言ってたな。付喪神共はココ」
「ええ、ここにいる、わ」
マトイが反転して背中を向けると、蝉か何かのようにぴったりとくっついているうちの付喪神達の姿があった。デカい鞄かと思ったわ。
「よくこんな暑い中で引っ付いてられるなお前ら。マトイも暑くねえの?」
「いいえ? 涼しくて快適、よ?」
「オレは寒いのはダメだけど暑いのは大丈夫なタイプなモンでね」
「さいですか。……つかアンタら、ナチュラルに生徒用のスペースに入ってきてんのはいいのか?」
「先生方には許可貰ってンぞ」
顔パスかよ。顔見えねえけど。
「まァそれはともかく……セキサンとサラサンは競技に出てる感じ?」
「ああ。そのはず……ん?」
「どうした?」
「並んでる中にいねえな。なんかあったのか?」
競技トラックの中に並んでいるうちのクラスの列を遠目で確認するが、セキとサラの姿が見当たらない。
一応あいつらも選手のはずなんだが……。
「あら、デカいのが揃って何してんのよ」
「やあどうも。綱引きはまるで国引き神話のような凄まじさだったな」
二人の姿が見えないことを怪訝に思っていると、別の二人が声を掛けてきた。
幼馴染兼腐れ縁のイザと、その後輩である中二病ビューティシルバーな鈴菊嬢だ。
「おうチビ助。セキとサラ見てねえか? 競技場にいないっぽいんだが」
「チビ助言うなデカ男。あの二人なら出場前に揃って怪我したらしいわよ。大した怪我じゃないみたいだけど、残りの競技は出られないってさ」
「マジか」
アイツら、うちのクラスの主戦力だから抜けられると割と困るんだが……まあ大した怪我がないんなら良しとするか。
つーことは今出てるのは補欠出場の奴らってことだな。勝てるように祈るとしよう。
「心配、ね。おみまいへ行った方が、いいかし、ら?」
「そうだな……軽く様子見に行くか。二人は救護テントに?」
「いえ、救護テントはどっかの馬鹿のせいで満杯だったんで、保健室に向かったみたいです」
「酷い話だな。どこのバカだ?」
「今目の前にいる馬鹿よ」
「だとさマトイ……ヴッ」
お茶目に惚けながら隣の不審人物に声を掛けると、イザに脇腹を叩かれた。
全力で責任から逃れようとしただけだというのに酷いじゃねえか。もっと叩いてください。
「……校舎に、あの二人だけで?」
「? はい」
「拙いな」
イザから二人の所在を聞いた途端、マトイが小さく呟いた。
何がマズいんだ、と訊こうとした瞬間……ぞくりと身体中の肌が粟立った。
妙な感覚に驚きつつ、妙な気配のする方向……校舎へと目を向けると、目を疑う光景が視えていた。
「なんだ……っ!?」
「今、何が起き……なんだアレは!?」
「すごい、わ」
どうやら銀髪ウルフカットの後輩とマトイの背中にくっついているうちの付喪神達も妙な気配を感じ取ったようで、リアクションに差はあれど、俺と同じように目を開いて驚いている。
無理はない。何故なら……
うちの学校の校舎の色が、浅黒く変容しているのだから。
いや、色だけじゃない。雰囲気というか、身体中を小さな針が刺してくるような気配というか……とにかく嫌な感じが校舎の方からムンムン漂ってきやがる。
だんだんと色濃くなっていく校舎の様子に俺達が言葉を失っていると、その隣でイザは何のことだか分からないといった顔をしていた。
「は? 何かあったの?」
「イザクラ先輩には視えていないのか……?」
「つーことは……」
「あァ、怪異関連だ。キリ! ちょっとこっち来い!」
『あ、はい!』
マトイが声を上げると、離れた場所を歩いていたキリさんの返事が聞こえてきた。
声のした方向を見ると、麦わら帽子にサングラスというUV対策モードのキリさんがぱたぱたと走ってきているのが見える。アレもアレで可愛らしいな。
「保健室の場所は?」
「え? えっと……東棟の一階よ」
「ここから見えてる校舎だな。手前から何番目の部屋?」
「二番目だ。ここから見て手前にデカい教室がある」
「準備室を含めて窓は四、五番目辺りってトコか……よし、ありがとう」
「お、お待たせ! マトイ、私はどうしたらいい――」
よく分からないが、矢継ぎ早な質問に答えているうちにキリさんが到着した。
彼女が言葉を言い切る前に、マトイはその肩に手を置いた。
「キリ、緊急事態だから説明してる時間がねェ。とりあえず認識阻害で周りから見えないようにしろ」
「え? あ、はい」
合流した途端、まくしたてるように指示を飛ばすマトイに対して目を丸くするキリさん。彼女は面くらいながらも神通力を発動すると、一瞬だけ身体を淡く光らせた。
認識阻害……ということは、今この時はキリさんの姿が周りには見えづらくなっているということだろうか。俺らは近くにいるからその変化はよく分からないけどな。
「今からセキサン達のトコにアンタを送り込む。で、悪いがフキザキサン、この付喪神共借りてもいいか?」
「ん? お、おう」
「よし。じゃァキリ、コイツら収納してけ」
「わたしたち、を?」
面食らいながら返事をすると、そのまま何が何だか分からないうちに話が進んでいく。そんな俺達を尻目にマトイは背中に貼り付いていたコマチ達を降ろすと、キリさんに軽く押し付けた。
それからキリさんは両手を前に翳し、神通力で白い光の塊……いや、穴か? そんなものを作り出した。
「あ、うん。ええっと、じゃあコマチさんとルリさんはこの中に入ってもらえるかね? 同じ神じゃけえ大丈夫じゃとは思うけど、一応息は止めといてね」
「ええ、わかった、わ」
コマチは即座に首を縦に振ると、そのまま光の穴に頭から突っ込んで姿を消した。
収納なんてこともできんのか、この神様。いや、前にルリが空間歪めてたりしたし、その応用みたいな感じでできるもんだったりすんのかね。
そんな疑問を口にする暇もなく、淡々と物事は進んでいく。
「それで、ここから私はどうしたらい──」
付喪神達をしまい込んだキリさんが話しながら振り返ると、質問を言い切る前にマトイが彼女の襟首を掴んで持ち上げた。
……なるほど。そういうことか。
「そんじゃ、着地は自分でなんとかしろ」
「え? ……え!? え゛!? ちょちょちょ待っ……」
ここから自分がどうなるのか、キリさんも理解したようだ。
わたわたと手足を動かしてなけなしの抵抗をしているが、マトイは全く気にする様子もなく、そのまま振りかぶって──
「せいッッ!!」(ブンッッ!!!)
「ああああぁぁぁ───」
──そのまま校舎の方向へと凄まじい勢いで投げ飛ばした。
困惑と驚愕、そして恐怖の入り混じった悲鳴を轟かせながら、キリさんは天へと旅立っていったのだった。
うーむ、見事な遠投だ。一瞬のうちに土地神様の姿が見えなくなってしまった。
あまりに見事なもんだから、他の二人が固まっちまってんじゃねえか。
「よし、じゃァオレも色々やるから、後は皆サン各々で体育祭を楽しんで──」
「待て待て待て待て」
「説明をしなさいよ説明を」
白い弾丸ことキリさんを見送ってからそそくさとどこかへ行こうとするマトイの服をイザと一緒になって引っ張って止めた。
見送ったはいいが、正直言って状況がまったく分からん。というか、色々とインパクトの強い光景を見せられたせいで余計に混乱させられている。んな状況で体育祭を楽しめるわけねえだろ。
「時間が無いンだけど……まァ軽く説明するくらいはいけるか。前に校内に危険な神がいるって話はしたよな。ソイツが暴走状態に陥ってる。つーワケでセキサンとサラサンが危険ってコト」
「は? ……どういうことだ!?」
たしかに前にマトイが学校に来た時、セキ達の記憶異常に関わっている怪異……神とやらが関わっているという話は聞いている。だが、そいつに関して解決するのは体育祭が終わってからという話だったはずだ。それがなぜ、今このタイミングで動き出してんだよ。
「悪い、コレについては完全にオレの想定ミスだ。正直もう少し持つと思ってたンだが……先月の一件で気脈の流れがおかしくなったコトもあって抑えが利かなくなったみたいだな」
「先月の一件?」
「コマチとルリのコト。アンタの家の蔵で暴走した分と家ン中を滅茶苦茶にした件だよ」
コマチとルリ、それと気脈……ああ、そういやあの時も中国なんかで言う『気』が関係してるとか言ってたな。
よく分からんが、今回起きていることはあの件のしわ寄せってことか。しかし、まさかこんな時に来るなんて……。
「一応、他にも原因と思われるモンはあるが……ソコは一旦どうでもいいから置いとくぞ。とにかく、その神が校舎内にあの二人だけになるタイミングを狙って接触を図ったみたいだな。そのタイミングで変になった気が噴出して、変なコトになってるのが現状サ。校舎が黒くなって見えンのは呪いに汚染された神通力による結界が張られた影響だよ」
「結界って……前にキリさんが呪いを祓った時に張ってたやつよね。今回は結界そのものが呪いの影響を受けてるってこと?」
「ううむ、たしかに以前と違って妙な気配を感じるが……先々月のボクらのものより恐ろしい印象が見受けられるぞ?」
「知ってンなら話が早い。あの結界の効果は色々あるが、主な特性は『人払い』……校舎に人が入れなくなるってコトだな。少し正確に言うと、呪いに汚染されてるのは神通力じゃなくて神そのもので、ソイツが結界を張ったから……」
「理屈はいい。アイツらは無事なのか?」
どうやらイザ達は既に体験したことがあるらしいが、今はその辺の話よりもセキとサラだ。
とりあえずあの二人が危険な状況なのは明白。安否確認は必要だろう。
「結界が張られたままってコトはまだ大丈夫だ。呪われてる神の方も別に危害を加える気はないだろうしな」
「……? ちょっと待て。そいつが二人を狙ってるって話じゃなかったのか?」
前に聞いた話では、たしかその危険な神が魂の一部を刈り取ったと言っていたはずだ。人払いの結界を張っているのも、二人を狙っているからこそじゃないのか?
「二人を狙う? ……あァそうか、そう解釈したのか。危険ってのは神の身体に封じ込まれてる呪いの方で、ソイツ自体は悪い神ってワケじゃないよ」
「魂を刈り取ったとか言ってたのは?」
「その辺の事情は知らん。が、人間にとって害のある存在なら既にもっと被害が出てたハズだ。今まで他に被害者がいなかったのは違和感があるし、事故的なモンかもね」
淡々と説明する布頭に対し、思わず眉間に皺が寄る。
それ、もっと早く言えよ。ややこしい言い方しやがってこの疑似ミイラ。
「狙う? 魂? ……何の話だ?」
「こっちの話だ、気にすんな。つか、そいつが悪い奴じゃねえならもっと早く対応できなかったのか?」
「色々手順踏まないと暴走する可能性があったンだよ。……まァ、結局間に合わなかったけどね」
「そうか……八つ当たりして、すまん」
冷静になり、頭を下げる。
既に進行している事態に文句を言うのはナンセンスだ。今この覆面を責めても状況が好転することはないしな。
「心配になる気持ちは分かるし、いいサ。キリも守り切れるか分からないワケだし」
「……そんなに危険なの?」
「触れたら即死とかじゃねえだろうな……?」
「いや、封じ込めてるヤツが呪いの濾過装置みたいな役割をしてるっぽいから、多少体調は崩すだろうが命に係わるコトはそうそうない。ただ、ある意味死ぬより危険というかね」
「それは一体、どのような──」
「呪いに侵された人間の内心が周りに筒抜けになる。今考えてるコトから隠してるコトまで丸裸ってヤツよ」
「「「それは危険だ……」」」
たしかに最初に説明された時から『危険だ』と何度も警告されちゃいたが、そういう意味かよ。
いや、命に別状はないのなら安心っちゃ安心なんだが、それはそれでかなり危ないわな。主にセキ達の尊厳的な意味で。
「まァ緊急措置で付喪神共も付けておいたし、最悪の事態は避けられると思いたいがね。とにかく、ざっくり結論だけ言うと、校舎ン中の神が身体に封じてる呪いを祓えば一旦全部解決ってコトだな。幸い、校舎にいるのは協力的なヤツみたいだから問題は呪いだけのハズだし」
「じゃあ、マトイさんが校舎に行ってその呪いをどうこうすればいい話じゃないの?」
「たしかにオレが協力して祓った方が早いのは事実だ。が、グラウンドの方が人が多い。全員を確実に守ンなら、こっちに残ンのはオレの方が最適でしょーよ」
なるほど。たしかに話を聞く限り、呪いの力は尋常じゃない。キリさんでも対応できるか微妙なレベルとなると、単純にキリさんよりも強いマトイが残った方が多く助けられるってことか。
複雑な気分にはなるが、合理的な判断と言わざるを得ない。……本当になんで神様より強いんだろうな、コイツ。
「グラウンドの安全を十分に確保してからじゃないとオレは離れられないし、校舎に向かうのはしばらく後になる。一応、ここからでも打てる手段は打つつもりだが……今のキリがどうにかできるかはまさに神のみぞ知るってトコだろうよ」
「……そりゃまた笑えねえ冗談だな」
「アタシ達にできることはないんですか?」
イザの言う通り、何かできることがあるなら俺達も行動すべきだろう。
正直もう体育祭どころの話じゃなくなってきてる気がするからな。最悪、俺達も競技を辞退してでも……。
「アンタらに今できるのは二つ。絶対に校舎に近付かないコトと、体育祭を全力で頑張るコト──待て待て、ふざけてるワケじゃねェからンな顔すんな」
俺とイザが思わず訝し気な表情で見ていると、やんわりと窘められてしまった。
いかんいかん、思いっきり表情に出してしまった。一旦落ち着いて話を聞くとしよう。
「見た感じ、今回の呪いは人間に向かっていく性質だ。磁石に群がる砂鉄みてェなモンだな。校舎内が一番危険なのは勿論だが、人間の多いグラウンドも例外じゃない」
「それと体育祭を頑張るってのがどう繋がるのよ?」
「人間に向かっていくと同時に、活気があるトコには近づかなくなる性質も持ってる。……丁度良く呪いが漏れてきてンな。アレ見てみろ」
マトイが顎で示した方を見ると、薄らとした黒い靄が触手のように校舎からゆっくりと伸びてきているのが見えた。
靄は二股に別れ、片方は教師用テントへ、もう片方は生徒用テントの方へ伸びている。そして、教師側はゆっくりと近づきつつあるのに対して、生徒側の方は躊躇うように伸びたり引き下がったりしていた。
二つのテントの違いは……なるほど、たしかに教師共は落ち着いて座って談笑しているだけなのに対して、生徒達は立ち上がって応援している奴も多い。
「古来より陰キャは陽キャには近づきづらい。しかしどこか憧れを持っている。ソレに近い特性を持ってるってコトサね」
「あらゆるところに喧嘩売りそうな例えだな。つーか放っといて大丈夫なのか、アレ」
「問題ないサね。ほいっと」
俺の心配を払拭するように、マトイが左手を軽く振ると……伸びていた二股の靄が同時に爆散して消滅した。
うん、まあ……心配無さそうだな。
「……あーとにかく、体育祭が盛り上がればその分グラウンドは守られるってわけか」
「そういうコト。キミらが頑張って体育祭を盛り上げれば、呪いの動きが鈍る。動きが鈍ればオレが対策する時間を大いに稼げるし、早く校舎に向かえるようになる」
「グラウンドの皆を守りつつ、セキ達を助けるための手伝いにもなるってことね」
「ふむ。しかし、盛り上げるというのはどうすればいいのか……」
「普通に優勝目指して頑張ってくれりゃいいサ。キミらが全力を出せば周りも感化されて熱くなンのはここまで見てきて分かるって」
「たしかに、先輩方のクラスが暴れ……競う姿を見て、前半よりも皆活気に溢れているのは事実だな」
「うちの学校の奴ら、単純だからな」
「アンタも含めてね」
照れるじゃないの。
……俺達はただの人間。キリさんのような神通力もなければ、マトイのように深い知識があるわけじゃない。怪異に対して直接何かできるわけでもないし、下手に動けば自分達の身を危険に晒すことになるだろう。
だが、マトイの言う作戦なら俺達に降りかかる危険は低く、確実に協力できる。
「とにかく、それが俺らができる最善手ならそれでいくしかねえか」
「ま、元々優勝狙いだったわけだし、アタシも異存はないわ。マトイさんにばかり負担を掛けるのは気が引けるけど……」
「気にしなさンな。年上にゃ甘えとくモンだよ」
やだ、この不審者頼りになる……。いやマジで味方だと頼りになるから安心感あるな。
見た目のせいもあって敵の強キャラが味方になってる感じがすげえわ。
「そういうことなら、ボクもご助力させて頂こう。ただ、そろそろ教えて頂きたいのだが……その校舎におられるという神様は、一体どのような存在なんだ?」
マトイの言葉に謎の安心感を抱いていると、銀髪の後輩が訊ねた。
そういやその辺の詳細、あんまし聞いてなかったな。正直他にも訊きたいことはいくらでもあるが、重要な点だろう。
「本来の役割を放棄して変質している、服わぬ神。それが呪いによってさらにおかしくなった結果、今は凶神になってる。大元がどういうモンかってのを分かりやすく言うと──
───人の魂を刈り取って、管理する存在。『死神』ってヤツだな」




