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土地神様は薔薇が好き。  作者: WA龍海
競技、退治編

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20話 土地神様と体育祭 その十一



『それじゃあ両チーム、縄を持ってください~』



 縄の真ん中に巻いてある赤い紐を踏んでいる審判係の生徒が手持ちスピーカーで僕らに呼び掛ける。

 なんだかのほほんとした雰囲気の声掛けに力が抜けそうになりつつも、指示通りしっかりと縄を握る。

 周囲の生徒達や客席の人もマトイさんに軍配が上がる事を確信してか、あまり真剣にこちらを見ていないようだが……僕らはまだ、勝利を諦めていなかった。


『それじゃ、用意〜……』(ピィッ!)


(──っキリさん!)


《──えいっ!》


 スタートを告げる笛の音。それと同時に腕を引き込まれそうになりながら、頭の中でキリさんへと合図を出した。

 その瞬間――



「───ひゃっ!? 〰〰〰〰ッッ!!」



 何か可愛らしい素っ頓狂な声が聞こえた瞬間、縄の引っ張りが緩んだ。

 その隙を見逃さず、僕は声を張った。


「今だ!!」


 合図と同時にクラス全員が一斉に腕に力を入れ、身体を後ろに倒しながら全力で縄を引く。すると驚くほど素直に縄が僕らの方向へと引き込まれた。

 そして……縄の中心に括られたテープが地面に引かれた線を越え、審判係の旗が僕らへと向けて掲げられた。


『すご〜い。2-A、一本取りました〜』


『『『おおぉぉぉ!!??』』』


 気の抜けるような審判係の声が聞こえた瞬間、周囲から驚愕混じりの歓声が響いた。同時に一勝をもぎ取った僕らも各々で叫びを上げている。


『よっしゃ──っっ!』

『すげえ、マジで勝てたぞ!?』

『アイビキお前マジで何やったんだ!?』

「そこは企業秘密あ痛たたた」


 周囲に負けず劣らず興奮した皆にもみくちゃにされる。

 たかが一勝程度で喜びすぎなようにも思えるかもしれないが、されど一勝だ。ここまでのマトイさんの戦績から見れば興奮も当然と言え痛てててて。


(協力ありがとうございます、キリさん。タイミングばっちりでした)

《へへ、どういたしまして》


 身体を叩かれたり首を締められたりしながら頭の中で土地神様へ礼を言うと、照れくさそうな声が返ってきた。


 そう、今の一戦でマトイさんに決定的な隙が生まれた理由はキリさんの協力によるものだ。

 前にイザ達と特訓した日、キリさんの作り出した雪の落下に巻き込まれたマトイさんは身体を震わせて動けなくなっていた。そのことを思い出した時、もしかしたらあの人は寒さ、あるいは冷たいものが苦手なのではないかと考えたのだ。

 そこで綱引きで一番力を入れる寸前のタイミングに合わせてキリさんが神通力を発動し、マトイさんの服の中に雪を入れる……という小学生の悪戯レベルの作戦を思いついたわけである。


 本当に冷たい物が苦手かどうかは賭けだったし、神通力を弾くことができるマトイさんに通用するか分からなかったけど……なんとか成功して良かった。


 内心で安堵していると、イザがこっそりと服の裾を引っ張ってきた。


「……もしかして、キリさんの神通力?」

「うん。卑怯だとは思ったけど、それしか思いつかなくて」

「そもそもアイツ自体インチキみてえな存在なんだから卑怯もクソもねえだろ。……しかしマトイのやつ、意外と可愛い声で鳴くもんだな。性癖歪みそう」

「アンタのはいつでも歪んでるでしょ」

「テカなんでまた縛られてンノ?」

「不慮の事故の賜物です。あ、さっきとは違ってこれは菱縄(ひしなわ)縛りというものでだな」


 変態(フキ)の縛られ方の種類はともかく、なんとか一勝したことで余裕が生まれたのか、すっかり僕らはいつもの調子に戻っていた。

 とはいえ、まだイーブンに持って行けただけで勝利が確定したわけじゃない。が、絶望的な一敗からの勝利だ。めちゃくちゃ嬉しいのはその通りだね。

 そんな晴れやかな気分で皆と話していると……


「いやァ、まさかキリの力を使ってくるとはな。一本取られたわ」


 背後から掛けられた声に身体が強張る。

 恐る恐る振り返ると……拍手しながらこちらに近付くマトイさんの姿があった。


「…………どうもマトイさん。今のはアレですよ? サラがやれって言うから仕方なくですね」

「違うゼマトチャン。責任はフキにございマシテヨ」

「おい俺を売るな。盾にするなら戦力外のイザにしとけ」

「馬鹿言ってんじゃないわよアンタが肉壁になりなさい」

「マトイにやられたら肉壁どころか肉塊になるだろーがやめろお前ら押すな」

「ンなビビらなくてもいいよ。許可したのはオレだしな」


 晴れやかムードから一転して責任を押し付け合っている僕らに対し、マトイさんの対応はあっさりとしたものだった。


「え? ……怒ってないん、ですか?」

「うん。驚きはしたけど、むしろ褒めたいくらいサね」


 何を言われるのかと思ったら、マトイさんの声は拍子抜けするほどいつもと変わらない明るいもの。

 一応許可は取ったとはいえ、なんせやり口がやり口だ。怒られることも覚悟してたけど……まさか賞賛されてしまうとは思わなかった。


「マトチャン強すぎだケド、コレでTies(同点)! 次も負けナイヨ!」

「コラ、あんま煽んないの。手加減してください」

「これ以上加減させるとか鬼かチビ助。次はもっと卑怯な手で行こうぜ」

対戦者(オレ)の前で言うかね普通。別にいいけどサ」

「いいんですかそれで」


 卑怯な手を使った側の僕が言うのもなんだが、マトイさんはもう少し文句を言ってもいい気はする。

 しかし、こうして爽やかに対応されると小狡い手で勝ったことがちょっと恥ずかしくなってきたというか、余計に罪悪感が湧いてくるな……。


「それでセキよ。次の作戦は決まってんのか?」

「ん? いや、どうしようか悩んでるけど……」

「そうか。なら俺に一つ考えがある」

「えー……」

「なんだその『コイツに任せると外道な作戦しか出さない気がする』と言いたげな目は」


 流石は親友。僕の考えていることを先読みしてきやがる。


「比較的まともな案だから安心しろ。おーい審判」

『は~い。なんですか~』

「こっちのクラスに助っ人を追加してもいいか? さっきは偶然勝てたが、正直このままだとマトイの一人勝ちが目に見えてるからな」

『う~ん、どうしましょうか~。そちらの布の怪しい人から許可を貰えれば大丈夫ですけど~』

「面白そうだしいいよー。休憩時間のついでに呼んできたらいいサ」


 審判係がチラリと視線を寄越すと、怪しい人(マトイさん)は即座に首を縦に振った。

 助っ人を呼ぶことにすら文句ひとつ出ない。これは余裕の表れ……ってわけでもないな。多分本心から楽しみたいだけだわこの人。もはや恐怖を感じるぜ。


「それで、助っ人って?」

「いるだろ。さっきも協力してくれた強い味方が」

「……ああ、なるほど」


 言われてからコイツの案をすぐに理解した。

 助っ人として呼ぶのはキリさんだ。そして彼女を呼ぶということは勿論、目当てとしているのは神通力。それから比較的まともな案ということはつまり……


「キリさんにも参加してもらって、神通力で直接縄を引っ張ってもら──」

「試合中に神通力でマトイの服を脱がせて集中力を欠かせるという作戦だ」

「まともな作戦を考えろ馬鹿」


 流石は変態。僕の考えている斜め上をいきやがる。採用できるかそんな作戦。


「馬鹿とはなんだ馬鹿野郎。さっきのマトイの悲鳴を聞いてもっとあられもない鳴き声を聞きたいと思うのは自然なことだろうが」

「思わねえよ馬鹿」

「そういうのはせめて心の内に仕舞っときなさいよこの馬鹿」

「馬鹿馬鹿言うんじゃねえよ馬鹿共。もっとボキャブラリー豊かに罵倒しろ」

「TPOを弁えるという文字列が脳内メモリに存在しない馬鹿」

「昨今の社会性にそぐわないオールドタイプ変態」

「……へへっ!」


 なんて嬉しそうな表情だろうか。気持ち悪いことこの上ない馬鹿の変態である。

 しかし、キリさんを召喚するアイデア自体は悪くない。マトイさんに同じ作戦は通用しないだろうし、さっき僕が考えたように直接引っ張ってもらうのがいいだろう。


(あー、キリさん。ちょっとこっちに来てもらってもいいですか?)

《あ、はい。……え、私も出るん!?》


 おお、話が早い。

 流石は心を読む天眼通、ホントに便利ですね。




 というわけで、キリさんを僕らのチームに引き入れることになったわけだが……。


『誰だこの真っ白い美人は』

『柊崎くん達が呼んだ助っ人だそうですよ』

『あ、俺この人見た事あるわ。この前アイビキと榎園さん達と一緒にいたぞ』

『……アイビキって本当によく美人を侍らせているな』

「侍らせてねえわ」

「よ、よよよよよろしくおおお願いしますすす」


 謎のアルビノ美人を連れて来たお陰であっという間に僕らは囲まれ、なんとも不当な評価を受けている。

 当の本人(キリさん)は緊張で震えてるし……なんか連れてきたのは失敗だった気がしてきた。


『助っ人っつっても随分細いぞ。戦力になんのか?』

「美人がいるだけで俺のテンションが上がる」

『つまり柊崎の戦力増強か。悪くないな』

『髪も肌も綺麗ですね。どんな化粧品使ってるんですか?』

『ソウビキくんや柊崎くんとはどうやって知り合ったんです?』

『可憐だ……』

「あ、え、ぁえっと、そのぉ……」

「あーはいはい怖がってるから散れ散れ。さっさと位置に着きなさい」


 キリさんに詰め寄る連中との間にイザが割り込み、なんとか解放された。

『競技中は周囲が見えていないと危ないので、特別な理由がなければ外してください~』と審判係に言われ、サングラスや帽子を外してスッピン状態だから余計に目立つんだよな。

 ……ていうか、それならまず目の前にいる顔面布巻人間を注意してくれないだろうか。


 しかしこの様子だとちゃんと神通力が使えるか怪しそうだ。一応作戦というか、神通力で引っ張ってもらうことについては伝えてあるけど……大丈夫かな。


「だ、だだ大丈夫。ててて適度な緊張感がああある方が力がつか、使いやすい気がするけえぇ」

「大丈夫じゃなさそうですね」

「キリチャンオチ着きナ。例の本をお読みになるノダ」

「わ、分かった…………おぉ……」

「読み込んでんじゃないわよ」


 本に集中しそうになったキリさんの後頭部をイザが叩いて中断させた。相変わらず神を恐れない女ですこと。

 実際、キリさんが緊張すると強い神通力を出すことは知っているけど……アレは力を使うというよりも力が暴発してるという表現の方が正しい。爆発力はあると思うが、危険だから多少落ち着いてほしいところだ。


「おおぅ手が震える……助けてコマチさん……」

「ええ、ええ。わたしも手伝うから、一緒にがんばりましょ、う?」

「……ん? え、あれ? コマチさん?」


 目下から聞こえてきた声に思わず目線を下げると、青い着物(ルリさん)に身を包んだコマチさんが綱を掴んでいた。

 ……なんでいんの?


『うわぁなんか小さいこけしみたいな子が増えてる!』

『わ、可愛い!』

『誰かの妹さんでしょうか?』

「俺のとこの子だが」


『『『えっ、隠し子!?』』』


「親戚だ馬鹿共。距離を取るな」


 嘘を織り交ぜた説明を行うフキに対し、クラスメイトからあらぬ誤解が生じている。さもありなん。


「たのしそうだったから、きた、の。だめだったかし、ら?」

「そんなコトナイナイ!」

「むしろ戦力が増えて助かるわ。ただ……」

「ただ、なにかし、ら?」

「いやその、ルリさんがこっちにいるのが意外に思えて」


 イザの言う通り、コマチさんはともかくとして、ルリさんがこちらに助力してくれるのは割と予想外なように思えた。

 マトイさんのことを気に入っている彼女(?)なら、むしろ向こう側に付くのが自然なはず……一体どういう風の吹きまわしなのだろう。


「あ、それなんじゃけど……ルリさんとしては先月の名誉挽回をしたいみたいで。ほら、フキザキさんの家で会った時にルリさんはほとんど力尽きてしもうとったじゃろ?」

「なるほど。それで僕らより強いマトイさんとは相対する形を取ったと」

「そういうことみたい」


 たしかに前回、僕らがルリさんと対面した時には既に疲弊した状態だったから、結果的にルリさんが全力を出すことはなかった。本(にん)、いや本(にん)? 的には不完全燃焼なところもあったのかもしれない。

 まあ理由はともかく、さらに戦力が増えたのは嬉しい誤算だ。これで次の試合結果は分からなくなってきたんじゃないじゃないだろうか。


「っし……やるぞお前ら!」


『『『オォ───っっ!!』』』


 フキの声に呼応して、クラスの全員が吠える。やる気は十分だ。

 しかしイザはその内に入らず、なんだか少し不安が残っているような顔をしていた。


「どうした?」

「ああいや……キリさんたちの神通力込みで引っ張るのよね? 正直それでも勝てそうにないっていうか……ほら、前に弾かれたりとかあったじゃない。その辺アンタはどう考えてんの?」

「そうだなぁ……確実に勝てるとまではいかないかもしれないけど、案外いい勝負になると思うよ。ルリさんの全力だってまだ未知数なわけだしさ」

「……それもそっか。まあ、多少食らいつける可能性があるだけ十分よね」


 イザの疑念も尤もだが、僕としては勝算がないわけではないと思っている。

 以前キリさんが神通力を暴発させた時、たしかにマトイさんは難なく弾いていた。だが、先月の柊崎家での一件でマトイさんは迫る壁を止めるのに苦労していた……ような気がする。つまりあの化物みたいな人の力にも底があるということだ。


 それにここまでの試合回数による疲労の蓄積もある。たとえ力が強くても、確実にスタミナは削れているはず。

 そして、神様達の奇跡の力と勝利を渇望するクラスメイトの力。全ての要素が合わさった今、マトイさん一人なら十分に戦えるはず──



「え? あの時のマトイって本気じゃなかったと思うんじゃけど。セキさんたちがおったけえ、空間が崩れんようになるべく力を抑えとったような……」



「え?」

「え?」


『そろそろ次の準備をお願いします~』


 キリさんが不穏な一言を残したところで、審判係の間延びした声が聞こえてきた。

 …………ものすごく嫌な予感がしてきた。




 そして運命の三戦目。

 案の定その予感は的中し──僕らは見事に全員宙を舞ったのだった。





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