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土地神様は薔薇が好き。  作者: WA龍海
競技、退治編

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12話 土地神様と体育祭 その三



 イザ達が会場を盛り上げた後、借り物競争は着々と進行していった。

 あの活躍のおかげか、フキのせいで殺伐としていた空気が一転して普通の状態に戻り、僕も他のクラスメイトも問題なく完走した。


 あ、ちなみに原因である馬鹿(フキ)はゴールした他のクラスの連中にシメ上げられた結果、今は花のカチューシャ(Bクラスの借り物)とサングラス(Dクラスの借り物)をかけさせられ、縄跳び用の縄(僕の借り物)で簀巻きにされて立たされている。

 ……ゴールした生徒達の隣に佇む趣味の悪いダンシングフラワーと化した存在は見るに堪えない。今だけ他人のフリをしておこう。


「ヨッシャー、やったりマスデイ!」


 そんなこんなであっという間に順番は巡り、最終走者の出番となった。

 うちのクラスからはサラが出ており、スタート地点で意気揚々と腕を回している彼女だが……少し気がかりなことがある。


「……あいつ、カードの文字読めるかな」

「……そういえばその問題があったわね」


 思わず呟くと、イザもそのことを思い出したらしい。

 そう、あの半分アメリカンガール……榎園サラは日本語が苦手なのである。

 喋りでも少し不安定なところがあるが、それ以上に読み書きは不得手だ。そんな彼女が手に取ったお題に難しい漢字が書かれていたら……。


「ま、仮に読めなくても誰も責めねえだろ。どうなったとしても温かく迎えてやろうぜ」


 僕らが不安に思っていると、隣にそびえ立つダンシングフラワー柊崎が器の大きいことを言った。

 たしかにそうだ。たとえ間違ったり順位が低いとしても、サラなりに全力を出した結果だ。そんなことで責める人間はうちのクラスにはいないだろう。

 明らかに悪い方向で全力を振るった結果、めちゃくちゃ責められた後のフキが言うと説得力もクソもないけど。


『頑張れ榎園さーん!』

『今日も綺麗で可愛いー!』

『好きだー!』


 そんな僕らの不安を余所に、周りからはサラに向けて黄色い声が上がっている。

 黄色いどころか野太い声も紛れているが……流石はサラ、人気がすごい。

 普段からその容姿と性格で注目を集める彼女だが、徒競走の活躍もあってさらに注目されている気がする。


『あの子、すごい人気ねえ』

『たしかあの子って──』

『そうそう、去年の──』


 声援に紛れ、保護者席の方から少しだけざわめいた声も聞こえてきた。

 その声が聞こえてきた途端、隣に立っているイザとフキの顔が少し険しくなった。


「あー……二人とも、あんまり気にしない方がいいんじゃない?」

「……それもそうね」

「ま、気にしてもしゃーないわな」


 なんとなくその表情の理由は察せたので軽く宥めると、すぐにいつもの調子に戻った。

 うんうん、今はそれよりサラを応援しないと……なんて考えていたところで、スタートを告げるピストルの音が聞こえてきた。


「っと……サラー! 頑張れー!」


 周りより少し遅れながら声を出す。

 しかしやはりというか、サラは一番にカードの置いてある場所まで辿り着き、素早くお題を確認していた。

 それからまっすぐに見学者席へと駆け寄って……何かを掴んで引っ張り出した!


「ぃヨイショ──ッ!!」

「うわ──っ!?」


 まるでカブのように抜き出されたのは……キリさんじゃねえか。

 すっぽ抜ける形で出てきた真っ白な土地神様はまるで絵本のおおきなカブである。

 そんな可愛らしい根菜類……じゃなくてキリさんの腕を掴んだサラはそのまま引き込んで真横に抱え、大きな枕でも運ぶようにゴールまで一直線に駆け込んできた。


「オッシャGOOOAL!!」


 ぶっちぎりでゴールテープを切り、叫ぶ赤い人さらい……ではなくサラ。

 僕らのクラスや周囲から歓声が上がる中、マイクを持った判定係が紅白二人の元へと小走りで近づいてきた。


『お題を確認しますね! ……あれ?『薔薇』となっていますが……?』


 サラからカードを受け取り、内容を確認した判定係が首を傾げている。

 なんてことだ。お題が違ったのならゴールは取り消しとなり、探し直してこないといけない。

 しかもよりにもよって難しい漢字の薔薇だなんて。危惧していたことが起こってしまったか……


 ……ん? 薔薇?


「フッ……チャンとゴザイマスヨ。キリチャン、見せてやンナ!」

「え? え?」


 自信満々に言うサラとは対照的に、キリさんは状況が分からずに目を白黒させている。

 それからサラが耳元で何か囁いたと思ったら、キリさんが「あぁ」と声を漏らして懐から一冊の本を取り出し待て待て待て待て何をするつもりだ!?


「そういえばこれ、薔薇も描かれとったよね。はいどうぞ」

「エ? いや、ワタシはそのHair Accessoryを──」

『ええっと……よく分かりませんが、拝見します……ね…………』


 何やらサラが口を挟もうとしていたが、キリさんはそれに気づかないまま本を渡した。

 本を開き、無言で確認した……してしまった判定係の顔はみるみるうちに赤く染まっていき、固まってしまった。

 しかしきっちりと仕事はこなすタイプなのか、震える手でマイクを口元に持っていき……



『…………ぉ……OKですぅ……』



 首まで赤くなった状態で、絞り出すような声が漏れた。

 その瞬間、あらためて会場は盛り上がって歓声が上がり……その一方で、僕とイザは顔を覆って俯いていた。


『ゴハァッッッ!!!!』

『ゆ、ユッキー!? 大丈夫!?』

『おい死ぬな! 傷は浅ぇぞ!』

『ね、姉さーん!?』


 何故だか無性に申し訳ない気持ちで溢れかえっていると、どこかから血反吐を吐いたような声が聞こえてきた気がした。


 なんかごめんなさい、係の人。そして会場にいる作者(ニシユキ)さん。

 ……二人の尊い犠牲によってサラは一位をもぎ取り、僕らは教師陣に一勝したのだった。


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