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土地神様は薔薇が好き。  作者: WA龍海
怪異、怪人編

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22話 土地神様と付喪神 その八


 どこかから聞こえる音に聞き耳をたてていると、その音はどんどん近づいてきて……微かに僕らの足元が揺れ始めた。

 そして──



 ───ゴゴゴゴゴッ!!



「うわっ!?」

「うおお!?」

「きゃあ!!」


 僅かだった揺れは大きくなり、立っていられないほどの強さになって襲いかかってきた。

 思わず悲鳴をあげて蹲り、揺れに抵抗するが……いや、ちょっ、これ……っ!


「立ってられねえ! 何これ地震!?」

「ここ異空間なんでしょ!? 地震って有り得るの!?」


 未だ強まる揺れに対して這いずるように耐えつつ、叫ぶように言い合う。この空間を作ったのはそこの付喪神という話だったけど……



『───()()()()()()()()使()()()この空間を……』



「──もしかして……!」


 嫌な予感がして、僕らと同様に倒れ伏しているサラの身体へとなんとか近づき、とりあえず守るように覆い被さった。そして、肩を揺らすが……反応がない!


 そうか、この揺れは──!


「───時間切れだ。そこの付喪神、この空間を維持する力が尽きたみたいだな」


 僕が脳内で突き当たった結論をそのまま語るように、マトイさんが呟いた。

 ……どうやら嫌な予感は的中したようだ。


「ていうかなんでマトイさんはこの状況で立ってられるんですか!?」

「体幹どうなってんだマジで」

「マトイじゃけえねぇ……」

「キリさんのその信頼感も何なんですか本当に」

「そ、それより! このままいくとどうなんのよ!?」

「そりゃ空間の維持が出来なくなるわけだし、さっきマトイが言った通り全員仲良くアルデンテじゃねえの?」

「「嫌ぁぁーっ!?」」


 何故か冷静に分析するフキの言葉にイザと揃って悲鳴をあげた。

 そんな『ブラックホールにぶち込まれたらどうなる?』みたいなサイエンス動画的な死に方したくない。いや普通に死ぬの自体嫌だけど!


「───っ!」


 そうこうしているうちに身体中があちこちに向けて引っ張られるような、もしくは押し込められるような感覚が這い回ってきた。

 何も触れていないはずなのに全身をもみくちゃにされているというか、それもどんどん強まってきて痛たただだだだ!?


「あ痛てててて!? なんだこれうぐぐぐ…………なんか逆に気持ちよくなってき、いややっぱ痛え!?」

「痛たたたたちょっとマジで痛い何これ!?」


 フキもイザも僕と同じように苦しみ始め、痛みを訴えている。

 これが空間の捻れってこと……ってやばいやばいやばいコレホントにヤバイ! このままだと本当にパスタになる痛い痛い痛い!!


「──キリ、神通力! 一旦オレがどうにかするから、その間全員守れ!」

「あ、わ、わかった!」


 僕らが苦しんでいると、温かい光が僕らを包んできた。すると痛みが嘘のように和らぎ、少しだけ落ち着くことができた。

 た、助かった。全身雑巾絞りみたいな勢いだったからパスタどころか螺旋状物体になるかと思った……!


 安堵しつつ、浅い呼吸と未だに少し揺れる視界の中、マトイさんの動向を見ていると……激しい揺れの中、こちらへと歩いてきて立ち止まった。



「着物の付喪神。不本意だがアンタの不始末を一緒に拭ってやる。──手ェ貸せ」



 優しい声とは裏腹に、乱暴な物言いを投げかけてくる。僕ではなく、僕の下で気絶しているサラ……の着ている付喪神へと。

 相変わらず反応は無い。だが、マトイさんは気にせず手を伸ばし、サラの羽織っていた付喪神きものを器用に脱がせ──バサリと音を立てて裾を翻し、袖を通した。


 そして袖に通した右手を握りしめ、拳を作ったかと思うと──



「ォラァッッ!!!」


 ───ズドンッッ!!



 ──そのままの勢いで振りかぶり、思い切り床へと叩きつけた。


 そんな殴打の威力は凄まじく、振動の音を掻き消すほどの音が一撃で轟き、衝撃で僕らの身体が一瞬浮き上がった。


「うおわあっ!? ……ん? あれ?」


 情けない叫び声を出しながら擦っ転がったところで、変化に気が付いた。

 ……揺れが収まってる。それに身体もかなり楽になった。


「な、何したんですか?」

「付喪神の力を無理矢理借りて空間を安定させた。一時凌ぎでしかないし、崩壊自体は止められないけどね」

「なんでンな事できんだよアンタ」

「物作ったり直したりするのは得意って言ったでしょ?」

「絶対その範疇超えてるわよね」


 マジでなんでもありだなこの人。もしかして付喪神と同じように異空間とか作れるんじゃないの?

 でも本当に助かった。あのままだと仮に死なないとしても痛みで気が狂うところだったよ。


「ホント死ぬかと思タネ。アリガトマトチャン」

「あ、起きた」


 マトイさんのヤバさにあらためて戦慄しつつ感謝していると、僕の身体の下からサラがひょっこりと顔を出してきた。


「サラ、身体は大丈夫?」

「ン、ダイジョブ。セッチャンも守ってくれてアリガト!」


 花開くような笑顔を至近距離で見せられ、少しだけ安心した。やっぱりコイツは表情豊かじゃないとね。

 ただ、流石に距離が近過ぎて気恥ずかしくなったのですぐに立ち上がって少し距離を取った。

 ……ていうかコイツ、また顔が赤いけど本当に大丈夫なんだろうか。まあ本人が大丈夫って言ってるし、そこは信じよう。


「おはよう眠り姫サン。状況は分かってる?」

「ウン。Wearing KIMONOの間も話は聞いテタし、ダイタイ分かってるヨ」


 マトイさんの問いに元気よく答えるサラ。

 どうやら付喪神に憑りつかれていた間も意識はあったらしい。説明の手間が省けて助かるよ。


「一時凌ぎって言ってましたけど、どれくらい持つんですか?」

「本当に一時的なモンだからすぐにでも崩壊は再開するよ。一応、対策は講じたつもりだけど」

「対策?」

「手短に説明すると『この空間がどうやって崩壊するか』っていう条件をすり替えたってトコだな」


 ええっと……つまりどういうこと?


「崩壊する方法を強制的に変えたってことかね? ……どういう形にしたん?」

「崩壊に掛かる力が拡散してたからそれを収束させて、一方向からスライドして圧縮するようにした。つまり簡単に言うと──



 ──全力で横から壁が迫ってくる」



 ───ズゴゴゴゴゴ!!



 マトイさんが端的に説明した途端、僕らが入ってきた襖がある方の壁が凄まじい擦り音を立てて迫ってきた。

 ……床や天井の装飾を物ともせずにぶち壊し、瓦礫として弾きながらこちらに向かってきてる!


「どどどどうすんのよコレ!? 死ぬ方法が圧死に変わっただけじゃん!」

「……イチかバチか受け止めてみるか?」

「オッシャ、やってみるかネ」

「無理に決まってんだろ馬鹿共! ……いやでもやるしかないか!?」

「待て待て。それはオレがやるからサ」

「え、ちょっ……マトイさん!?」


 目まぐるしい状況の変化に僕らが混乱する中、マトイさんが羽織った着物の袖を翻しながら素早く飛び出した。


「ッ……!」


 潰される! と思って手で顔を守りながら目を細めた瞬間、凄まじい衝撃と風圧が僕らを包んだ。恐る恐る目を開けて前を確認すると……マトイさんが壁を受け止めていた。


「こういうトコで矢面に立つのは大人の役目ってね。オレができる範囲で全員守るから、安心しな」


 着物を翻しながら、笑うように言い放つマトイさん。なんという頼りになる背中だ。顔が布で覆われている不審人物でなければ惚れちゃってたかもしれない。


「キリ! この部屋の一番脆いトコ探せ! こんだけデカい空間作ってンならどこかしらにあるハズだから!」

「わ、分かった! でもこの空間は大丈夫なん?」

「『対策』つったろ? 少なくともこの壁を止めてる間は崩壊も止まるのサ」


 なんともまあ力技な対策だ。けど、これで時間が稼げる。

 指示を受けたキリさんはすぐさま捜索に取り掛かり、少し狭まった部屋の中をうろつき始めた。

 ……たどたどしい足取りであちらこちらへ足を運ぶ様子は危なっかしさしかない。


「……あの、僕らにもできることってあります?」

「見てるホーがシンパイになるゼ。ワタシタチも探すヨ」

「そ、そうじゃね。じゃあええっと……空間の歪みを探してくれる?」

「空間の歪み……どんなの?」

「こう、ぐにゃっとしとる部分というか……とりあえず歪んで見える場所があれば教えてくれん?」


 要領を得ない説明ではあるけれど、なんとなくどういうものかは理解できた。というわけで、僕らも一緒に部屋の中を探してみることになった。


 そして、少し経った頃……


「見つからナイネー」


 静かになっていた部屋にサラの声が響いた。

 そう、部屋の中の探せそうな場所へ全て目を通してみたものの、どこにもそれらしい場所が見当たらないのだ。


「見落としとかは……ないよね」

「そら探す場所なんざ限られてっからな。見落としようがねえだろ」


 だよなぁ……。

 元が広い部屋とはいえ、せり上がってきた壁で面積はかなり狭まってる状態だ。そうなれば当然探す場所も限られているわけだが……それでも見つからないとはどういうことなんだ?


 そもそもキリさんの説明が間違っていて、僕らが捜している物体もしくは現象そのものが違うとか? いや、そこを疑い始めるとキリがないか。シャレではなく。

 でも空間の歪みと言われて他に浮かぶものといえば、一般相対性理論における質量や重力の話くらいしかない。もしかすると無関係ではないのかもしれないけど、それを話したところでどうしようもない気がするし……。


「……」


 ふと、マトイさんの背中へと目を向けた。

 壁を押さえ込むことに専念しているらしく、さっきまでのように色々喋るでもなく無言で壁に手をつき、踏ん張ってくれている。


(……そういえばこの人、なんでキリさんにだけ指示を出したんだ?)


 考えてみれば、マトイさんは僕ら全員へ呼びかけるでもなくキリさんにだけ指示を飛ばしていた。

 壁を止めるのに夢中で、思わず一番関わりのあるキリさんの名前だけを呼んでしまったという可能性もなくはないけど……何か他に理由がある気がする。


「あの、マトイさ──」


「ま、マトイ。もうちょっと時間かかりそうなんじゃけど、耐えれる……?」

「大丈夫大丈夫。多少キツイけど、全員無事に帰すまでは頑張って耐えるサね」

「や、やっぱりきついん!? 代わろうか!?」

「いや大丈夫だから。はよ空間の歪み見つけて?」

「マトイのためじゃったらなんでもするけえ無理はせんで、遠慮なく言うてね!」

「なんでも……!?」

「おい色めき立つなボケコラフキ」

「イザ、殴っちゃダメだヨー」

「なんでもってンなら押さえるのに集中できねェからサッサと探してくれないかねェ」


 僕がマトイさんへ質問を投げるよりも先に、心配したキリさんが話しかけ、そこから雪崩れ込むように他の皆が会話に参加して一気に騒がしくなってしまった。ていうか思ったより余裕あんなあの人。

 しかし参った。これでは訊ねることができない。けどなんか今、聞き覚えのある台詞があったような……。



『───言ってもらえれば本当になんでもできるよ?』



 ……あ、そうか。

 前に出かけた時、キリさんと話した時だ。たしかサラがいないうちにお礼がどうとかって話をしてたんだっけ。えっとたしかあの時、色々できることがあるとかって話を──


『も、もしかして信じとらん? ちゃんとやるよ、私?』


『ほ、本当よ? それなりにできることは限られるけど色々……。



 治めている土地の中のことになるけど()()()()()()()()()()、天気を変えてみたり──』



「──……あっ!」


 記憶の中に出てきた言葉に驚き、思わず叫んでしまった。

 そうか、マトイさんがキリさんを名指ししたのってそういうことか!


「え、何? 見つかったの?」

「違う! あ、いや、違わないけどそうじゃない!」

「どっちだよ」

「歪みそのものは見つけてないけど、見つける糸口は分かったんだよ。キリさん、前に神の奇跡で色々叶えられるって話しましたよね」

「あ、うん。セキさんは徳も積んどるし、できる範囲ならなんでもって」

「なんでも!?」

「黙ってろ馬鹿」


 過剰反応を起こすフキの脇腹にイザの蹴りが入り、床に沈んでいった。

 倒れ伏す馬鹿はさておき、話の続きだ。


「それ、たしか失せ物探しも含まれてましたよね? 歪みを探すのに使えませんか?」

「あ、うん。できるけど……この空間、全体的に空間が捻れとるせいで一番歪んで脆くなっとるところが分かりづらくて。一応その、セキさんが積んだ徳を使えばやれんことはない、かも?」

「力の後押しができるってことですね。分かりました、使ってください」


 即決で頭を下げた。

 神様になんでも叶えてもらえる権利を手放すのは惜しいけれど、この状況を打破できるんならここが使い時として最適だろう。


「分かった。じゃあセキさん、手を出して」


 僕の即断にキリさんは少しだけ目を丸くした後、僕の意図を汲み取ってくれたのか優しい笑顔でそう言ってきた。

 言われるままに右手を差し出すと、キリさんが両手で包み込むように握ってきた。

 唐突な柔らかい感触にドキッとしつつ、その手を見つめていると……包まれた手の隙間からキリさんが神通力を行使する時の光が漏れ出てきた。と、同時に優しい暖かさを手のひらに感じた。


「……うん。こんくらいで大丈夫かな」


 キリさんはそう呟くと手を離し、そのまま手の中の光を自身の胸元に押し込むように両手で抑えた。するとその光はどんどん縮小していき……吸い込まれるように消えていった。

 それから胸元から両手を離して器のように開いたかと思うと、今度は身体全体が淡く光始めた。そして、手のひらの上には小さな光球が一つ浮いている。

 それに向けてキリさんがふう、と息を吹きかけると……光球は形を崩し、砂が舞うように宙へと散らばって蝙蝠の集団移動のように群を成して漂い始めた。


「あとはこの光が勝手に見つけてくれるよ」

「便利だネー」

「あれ? 先月捜し物をした時とは違いません?」

「あれはちょっと特殊な状況じゃったけえね。あ、探しとる物が見つかったら消えるけえ、見逃さんようにしてね」

「分かりました。……あっ」


 光粒の群は僕らの近くをしばらく旋回した後、天井の一点に密集するように止まった。どうやらあの辺りを指し示しているようだけど……。


「……特に何ともないような気がするけど……フキ、何か見える?」

「俺も特に異常なしに見えるな。キリさんは?」

「わ、私も同じ意見かな……」


 色々と見えるっぽいフキと神様であるキリさんも僕と同意見のようで、光の粒が止まっていること以外は変化が見受けられない、木造の天井にしか見えなかった。

 ……もしかして、神通力の失敗? そんなことがあるんだろうか。いやでも、キリさんだしありえるかも……。


「私もそう思う」

「勝手に心読まないでください。ていうかせめて否定してくださいよ」

「神通力を使いこなせてないんは自覚があるけえね……」


 自嘲気味に笑いながら顔に影を落とす土地神様には悪いけど、少し納得した。

 初対面で僕やフキを吹っ飛ばしたりもしてたし、この前もマトイさんにとんでもねえ勢いの念動力ぶつけそうになってたし……そりゃ自覚もするわな。


「Wait, That is not gone.」

「ん? あ、そういえばたしかに光が消えてないわね」


 女子二人に言われて天井付近に留まっている光をあらためて見つめる。

 キリさんの話だと捜し物を見つけたら消えるんだったな。まだ消えてないってことは……正確にはまだ見つかってない?


「あの辺り、調べてみようか。フキ、肩車」

「おうよ」


 フキの首元に跨り、光が留まっている場所へと近づく。流石は筋肉ダルマ、いい安定感だ。

 ……ん? この光、天井を叩いてるような動きをしてるな。

 物は試しと光が叩いている辺りに手を添えてみると……。


「あ、外れた」


 適当に触っていると天井板を外すことができた。空いた隙間に光がするりと入っていく。

 続くように頭を入れて中を確認するが……暗くてよく見えない。スマホのライト使うか。


「セキさん、どう?」

「うおっ!?」


 ポケットからスマホを取り出そうとしていると、真横にキリさんの顔が生えてきた。同じ隙間に顔を突っ込んできたようだ。

 どうやって……って思ったけど、そういやこの神様、神通力使えば自分で飛べるのか。最初から任せればよかった。


「光が消えちゃったんで、明かりをつけて確認しようかと」

「あ、じゃあ私が照らすよ」

「え? ちょ、待──」


 止める間もなく、キリさんは即決行動。

 瞬間、目の前が真っ白になり……僕の意識はすっ飛んでいった。





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