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夜の監視者 ②

 同日の午後、フェリシアはフィオナを伴って作戦室に向かった。


「失礼します。」


 フィオナが扉を開け、フェリシアが部屋に入った。部屋を見渡すと、机上と壁面の資料が丁寧に揃えられている。整然とした部屋でフェリシアを待っていた四名が立ち上がり、フェリシアに敬礼した。


「お疲れ様です、隊長。」


 ヘイデンが口を開く。午前中に休息を取った副隊長は普段の生気を取り戻していた。


「ああ、ご苦労だったな。今夜の計画を聞かせてもらおう。」


「はい。」


 隊員の一人、レスターが椅子を引き、フェリシアが着席する。その左側にフィオナが控えた。


「計画は本日の二十時、襲撃犯が行動を開始する前に実行する。」


 壁面に貼った資料を指差しながら、ヘイデンが説明を始める。


「目的は襲撃犯二名の捕縛、そして火の国の商人であるセルバン・コルテスとその使用人の身柄の確保だ。襲撃犯を捕縛する理由は言わずもがなだ。セルバンは襲撃犯を幇助ほうじょした容疑で確保する。」


 ヘイデンの力強い口調に、作戦室が緊張で包まれる。


「場所はロンディウム中央区、紅凰館。標的の居場所はキーラが突き止めた。」


 フェリシアが視線を右に向ける。全身黒ずくめのキーラは腕を組んで壁にもたれ掛かり、静かにヘイデンの説明を聞いていた。


「標的は今夜二十一時に出航する予定だ。その前に我々が取り押さえる。」


「出航予定はどうやって突き止めたんだ?」


「火の国へ今夜出航する船をしらみつぶしに探した。そしてセルバンが乗り込む船を特定した。船の出航時刻もな。」


「出航させないための手を打て。もしセルバンを取り逃がしたとしても、港で確保できるようにする。」


 ヘイデンの目が強い光を放つ。


「そこは問題ない。船長に接触し、セルバンの乗船を拒否するように説き伏せた。念のため、船の付近にはレスターを待機させる。」


「結構。」


 フェリシアが頷く。この短期間で準備を終えた副隊長の働きに、内心で驚きを覚えていた。


「問題は襲撃犯の捕縛だ。キーラによると、我々は空間魔法の使い手を相手にすることになる。」


「空間魔法だと……?」


 フェリシアが眉を上げる。空間魔法の使い手が、火の国の命を受けて派遣されたことは最早明白だった。商人を拘束する帝国に対して、火の国は実力行使を選択したことになる。軍勢を差し向けるまでではなかったが、代わりに虎の子を寄越してきた。


「キーラ、確かか?」


「ええ、襲撃犯の男は転移能力を持っている。私の追跡が間に合わない程よ。」


「そうか……。」


 フェリシアが顎に手を当てる。空間魔法の使い手と戦った経験はないが、相手が魔女で無い限り魔力で負けることはない。敵の攻撃方法を把握すれば、後は魔力の差で押し切る自信があった。


「襲撃犯の男は隊長一人に任せたい。我々が加勢しようにも邪魔になるだけだろう。」


「ああ、引き受けよう。」


 ヘイデンが頷き、今度は別の資料を指差した。


「襲撃犯の女の方は、俺とキーラ含め四人がかりで取り押させる。今まで得た情報から、女が魔女である可能性はほぼ無い。持久戦に持ち込めば我々に分があるだろう。」


「その女が使う特殊な火の魔法にはどう対処する?」


「魔力切れを誘う。地上と空中から間断なく攻撃を続ければ、いずれ防戦に回って消耗するはずだ。」


「いいだろう。紅凰館はどうやって包囲する?」


「ああ、屋敷の見取り図を見て欲しい。」


 ヘイデンが壁面の見取り図を示す。紅凰館を俯瞰する図には三か所に印が書かれていた。


「館の出入り口は三か所だ。正面玄関には隊長、東側の出口にフィオナとモーリス、西側には俺が向かう。キーラは少し離れた地点から様子を窺い、標的がどこから出て来ても追跡できるようにする。」


「フィオナには市民の退避をさせたい。私が空間魔法の使い手と交戦に入った場合、周囲を無人にする必要があるだろう。」


「分かった。では、モーリスには一人で東側の出口を任せる。女がそちらに向かっても戦闘はするな。キーラに合図をして援護に入ってもらえ。」


「かしこまりました。」


 ヘイデンの指示を受け、モーリスと呼ばれた隊員の男が素早く反応する。


「隊長。計画の説明は以上だ。何か不明点は?」


 フェリシアは立ち上がり、隊員たちを見回す。


「無い。目的を果たすにはこれが最善の計画だろう。皆、しっかりと準備を整えておけ。敵は火の国からの間者と思われる。くれぐれも市民に危害を加えるような真似はさせるな。我々で必ず取り押さえる。」


「はい!」


 隊員たちが一斉に敬礼をした。彼らの士気の高さを確認したフェリシアは頷き、フィオナが開けた扉より作戦室を後にする。


 襲撃犯の確保は、警察隊として行う最後の捜査となる。自らが隊長に就任した意味を思い返しながら、フェリシアは内に宿る決意を揺るぎないものにしていた。

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