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魔女部隊「雷花」 ③

「もう一年か。随分待たせたな。」


 フェリシアが感慨深げに魔女たちを眺める。その内の一人、赤髪の魔女がにやりと笑って口を開いた。


「全くね。この一年というもの目立った戦闘が無かったから、戦場の空気を忘れてしまいそうだわ。」


 赤髪の魔女サルビアは雷花の副隊長を務める。北方の出身に特徴的な赤髪を、髪留めを解いて潮風になびかせている。派手な容姿から窺えるように、好戦的な性格の持ち主だ。


「お久しぶりです、フェリシア隊長。ご壮健で何よりです。」


 フェリシアより少し背の高い長身の魔女ジャスティーンが敬礼する。金髪を短く刈り、いかにも軍人然とした風貌である。


「全く、あんたは真面目過ぎなのよ。もっと素直に再会を喜んだら?」


「何だと? お前は慣れ慣れし過ぎるんだ。軍人としての規律を守れ。」


 からかうサルビアに対し、ジャスティーンがむきになる。規律を重視するジャスティーンにとって、自由奔放なサルビアは相容れない存在である。未だにサルビアが副隊長であることに納得がゆかず、口調の端々に敵対心がにじみ出ていた。


「ははっ。二人とも相変わらずだな。」


 魔女たちは目を丸くして、笑みを浮かべるフェリシアを見つめた。フェリシアの傍らではフィオナが誇らしそうな表情で立っている。


「隊長が笑った?」


「何を言ってる? 隊長だって人間なんだ。笑って何がおかしい。」


「あんたね、その言い方は失礼でしょ!」


「それは……。」


「二人とも……喧嘩は止めて。……せっかく隊長と再会できたんだから……。」


 おずおずとした口調で二人を制したのは、うら若い魔女クレアだった。長く伸ばした金髪を頭の後ろで結っている。居並ぶ魔女たちより頭一つ小さいクレアの口調は以前から変わらないが、年上の魔女をいさめるような場面を見るのは初めてだった。


 フェリシアが感心した表情で口を開く。


「クレア。引っ込み思案だった性格は、暫く見ない内に変わったようだな。」


「うん……。もう一年前とは違うよ。隊長も……翼が戻って良かったね。」


 クレアは齢十六にして帝国最年少の魔女となった逸材である。優れた記憶力を持ち、戦場の部隊の配置や状態を瞬時に把握する彼女は、伝令役として得難い人材だった。一方で、極端な人見知りであったため、伝令役であるにも関わらず司令部に顔を出そうとしないことが悩みの種だった。


「これもローレンの指導によるものか?」


「うん。……お婆ちゃんのお陰だよ。」


「お黙り、クレア。あたしはまだそんな歳じゃないよ。」


 きっぱりとした口調で反論したのは初老の魔女であるローレンだ。頭の後ろで結っている金髪には白髪が混じり、目元に少しの皺が寄っているが、厳格な雰囲気から老いを感じさせない。魔女として豊富な経験を持つローレンは、雷花の精神的支柱である。フェリシアが魔女となる手助けをしたこともあり、フェリシアにとっては師にあたる存在だ。


「フェリシア、大分勘を取り戻したようだね。」


 口調は穏やかだが、フェリシアを見つめる目つきは鷹のように鋭い。立場上はフェリシアの部下であるが、ローレンを前にすると背筋が伸びる思いを抱く。


「ああ、暫く部隊の様子を見れなかったが、練度は申し分ない。皆の指導役を引き受けてくれたことに感謝する。」


「なに、大したことじゃないよ。それがあたしの性分だからね。」


 ローレンが口元に笑みを浮かべる。数々の戦場を生き抜いてきたローレンは、これまで多くの魔女を育ててきた。雷花の構成員は全員ローレンの指導を受けており、皆の信頼も厚い。


 ローレンが部隊にもたらす安心感から、いつしかサルビアとクレアは愛称として『婆さん』と呼ぶようになっていた。更に戦場においても『婆さん』呼ばわりを続けたため、今では帝国軍の皆が同じ愛称で呼んでいる。ローレン本人はわざと嫌そうな顔をするが、自分の愛称が帝国軍の士気に大きく影響することを理解していたため、好きに呼ばせていた。


 実際に、ローレンが戦場に現れた時の士気の上がり方は、帝国の主神『ウォーデン』の化身と言われるフェリシアが現れた時に比肩するほどであった。


「休憩はこれくらいにしようか。先程は飛び入りで訓練に参加したが、もう少し皆の状態を把握しておきたい。次は隊列を組んで飛行する。準備はいいか?」


「はい!」


 魔女たちが一斉に返事をする。一年前と変わらず精強な部隊を前に、フェリシアの胸が高鳴った。


 彼女たちはエスケンドリア攻略戦においてもフェリシアの手足となって動き、帝国を勝利に導いた立役者であった。数々の戦いによってつちかわれた絆は、フェリシアにとってかけがえのない財産である。


「隊列は雁行がんこうとする。マリーは私の右隣に来い。隊列を組みながら姿勢を維持する方法を教えよう。」


「かしこまりました。」


「では、行くぞ。」


 フェリシアが漆黒の翼を表出させ勢いよく飛び立つ。部隊の魔女たちも続き、フェリシアを先頭にして、軍艦の方へ向かって行った。



 数分後、雷花はフェリシアを先頭に、左右に連なる形を保って飛行していた。彼女たちの翼の色は漆黒、純白、茶色など、契約した魔獣によって様々である。グリニッジ港の上空を飛行しながら、フェリシアはマリーの飛行を指導していた。


「一度翼を折りたたんで横転し、元通りに戻る。私のようにやってみるんだ。」


 フェリシアが漆黒の翼を折りたたみ、空中で横転をする。元の体勢に戻った後、瞬時に翼を広げて滑空を始めた。


「はい。やってみます。」


 マリーが頷き、純白の翼を折りたたんで横転する。しかし、高度を下げまいとして広げた翼をばたつかせていた。マリーの表情に焦りが浮かぶ。


「怖いか?」


「はい。少し……。」


「心配するな。体勢を崩しても全員で助けに行く。一回転した後は思いっきり翼を広げるんだ。」


 フェリシアが勇気づけると、強張っていたマリーの表情がほころんだ。


「はい!」


「マリー! みんなを信じて!」


 フェリシアの左隣を飛行していたサルビアも声をかける。真剣に訓練に臨む者をからかう魔女は、雷花には存在しない。共に戦場を翔る仲間として、困難に立ち向かう者がいれば全員で支えた。


「ありがとうございます!」


 マリーが力強く応じ、再度横転をする。純白の翼を先端まで精一杯広げ、ほぼ高度を落とすことなく姿勢を維持した。


「マリー! やったね!」


 サルビアが満面の笑みで喜ぶ。他の魔女たちもそれぞれにマリーを讃えた。


「隊長、皆さん……。ありがとうございます。」


 こくこくと頷くマリーにフェリシアが声をかける。


「雷花は仲間を置き去りにはしない。どんな困難があろうと全員で立ち向かう。皆を信じるんだ。訓練でも戦場でもな。」


「はい!」


 眩い日差しに負けないくらいの笑顔でマリーが応じる。


「隊長がこんなに面倒を見てくれるなんて思わなかったわ。」


 左隣のサルビアから声をかけられる。


「じゃあ、私の我儘わがままも聞いてくれるかしら。今晩、みんなで飲みに行くのはどう?」


 大真面目のサルビアを見てフェリシアは苦笑する。


「すまない。まだ警察隊の仕事が残っていてな。遠征から帰って来た後にしよう。」


「え~、約束ですよ?」


「ああ、必ずだ。」


 フェリシアは力強く頷く。自らが率いる雷花の結束力、そのかけがえのなさを胸に刻みながら。

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