表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/35

「雷の魔女」の情報官 ③

 それから暫しの会話を続けた後、ウェリントンが少しの仮眠をとると言った。議員の長話に付き合わされて辟易していたルーファスは『ようやくか。』と思ったが表情には出さずに頷く。


 ウェリントンが目を閉じた暫く後、部屋の外側より大きな物音が聞こえた。


「今の音は何だ?」


 ソファにもたれていたウェリントンが目を開け、びくりと背を浮かした。ルーファスは仕込み杖を手に席を立つ。素早く柄を捻ると、カチリという音と共に刀身が姿を現した。


「周囲を確認しろ。何か異変は無いか?」


 ウェリントンが護衛に指示を出す。彼らは壁や扉を確認し始めた。


 その時、勢いよく窓硝子を打ち破り、何者かが部屋に飛び込んで来た。


「何だ!?」


 ウェリントンが席を立って、窓の方を振り返る。ルーファスも突如侵入を果たした襲撃者の姿を確認した。


 身長はルーファスと同じくらい。細身の身体に黒いローブを纏い、素性は分からない。フードを被った顔も、目元以外は隠しで覆われており、性別すら定かではない。


「刺客だ! 殺せ!」


 ウェリントンが怒鳴り、護衛たちが刺客に向かって突撃する。しかし、刺客が素早く右手を振ると、辺りが急に暗くなった。


「何だ?」


 ルーファスは辺りに目を走らせ、暖炉の火や壁の蝋燭の火が全て消えていることに気付く。


(火が消えた。こいつが二人の議員を殺したのか?)


「雷灯を付けろ! 火が消えている!」


 ルーファスは護衛に向かって怒鳴る。護衛たちは腰元に備え付けていた雷灯に手を当て、明かりを灯した。しかし、その一瞬の間に、刺客は姿をくらましていた。


「どこへ行った?」


 皆が辺りを見回していた時、その内の一人が短く叫び声を上げる。


「どうした……?」


 後ろを振り返ったもう一人の護衛も、続けざまに悲鳴を上げてその場に崩れ落ちた。


「くそ、何が起きてやがる……。」


 ルーファスは、倒れた護衛の一人から雷灯を取り上げる。明かりを付けて辺りを確認すると、既に二人の護衛が絶命していた。二人とも喉元から大量の血を流して倒れ伏している。


「ウェリントンさん! 俺の傍から離れるな!」


「ああ……。」


 ルーファスが細剣を構えて議員の前に立ち塞がる。刺客は最後に残った護衛の命を奪い、今度はルーファスの元に向かってきた。


「くっ!」


 一瞬で間合いを詰めた刺客が、かすむほどの速さで右手を突き出す。ルーファスは辛うじて反応し、細剣で受け止めた。細剣に遮られて火花を散らす短剣をその目に捉える。


「……!」


 今度はルーファスが細剣を突き出す。並みの相手であれば目にも留まらぬ速さの正確な突きであった。しかし、刺客は難なくかわし、ルーファスから距離を取る。同時に、雷灯から光が消え失せていた。またしても周囲が暗くなり、ルーファスは相手の姿を見失う。


「何が……?」


 その瞬間、風切り音と共に向かってきた短剣を視界に捉え、寸前で細剣を構える。しかし、反応が遅かったため、弾かれた細剣がその手から抜け落ちてしまう。


「くそ……!」


 ルーファスが悪態を吐く間もなく、刺客は身を翻して回し蹴りを放つ。意表を突かれたルーファスは、自らの脇腹を正確に捉えた衝撃に耐えきれず、弾き飛ばされた。


「ぐっ!」


 ルーファスは床を転がり、横倒しになる。脇腹に激痛を感じ、直ぐには立ち上がれなかった。必死に呼吸を繰り返しながら、刺客の姿を探す。やがて、その姿を捉えたが、既にウェリントンの目前に迫っていた。


「や、やめろ……。」


 ルーファスが声を絞り出すも虚しく、刺客はウェリントンの喉笛を切り裂いた。議員は口から声にならない音を短く発し、喉元を押さえながらその場に倒れた。


「くそ、このまま逃がしてたまるか……。」


 激痛に身を強張らせながらも、ルーファスは何とか立ち上がった。刺客に向かって赤い雷を放つ。相手がイズナディア人である可能性は拭えなかったが、なりふり構ってはいられなかった。しかし、刺客は雷を防いだ。右手を素早く振り、その身を紅い炎で覆って。


「何だと……?」


 ルーファスは驚愕する。その時、刺客と目が合った。一瞬だが、炎に照らされて紅く光る瞳を確認する。刺客は再度ルーファスに向かってきた。


(ここで終わるのか……?)


 最早打つ手を無くしたルーファスは、呆然として自らの死を覚悟する。しかし、刺客は足を止め下を向いた。視線の先には、ルーファスの懐中時計があった。刺客の蹴りを受けた拍子に落ちた懐中時計の表面には小さな赤い雷が走り、周辺を赤く照

らしている。刺客が慎重に近づき、懐中時計に手を伸ばそうとする。


 ルーファスが固唾かたずを呑んでその様子を見ていると、部屋の外より人が押し寄せる音が聞こえた。新手の到着に気付いた刺客は踵を返し、自らが打ち破った窓より外に飛び出す。


「待て……!」


 脇腹を押さえながらルーファスは窓際に近付くが既に遅かった。窓の外を見渡すが、刺客の姿はどこにも見当たらない。


(嘘だろ!? ここは十階だぞ……。)


 驚くルーファスを余所に、遅れてやってきた警察隊員らが部屋に入って来た。扉の外にいた男も混乱した表情で後から付いてくる。隊員の一人が鋭い声でルーファスを制した。


「警察隊だ! その場から動かず、こちらをゆっくり向きなさい。」


 ルーファスはため息を吐いて、彼らの方を振り返った。さて、この惨状をどうやって説明しようか。


(全く、何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ……。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ