俺、スライムになっちまった・・・第2章
第2章 ー 被験者 ー
大学病院の研究室から資料を持って会社に戻ってきた。
「竜二、戻ったの?」
マキの声がした。
「ああ、これから会議で中間報告をね。しばらくはこっちで事務処理をしなきゃ。」
「大変ね、頑張って」
「今夜、時間ある?たまには飯でも行かないか?」
「ごめん、今夜はお母さんと先約がある、明日の夜は大丈夫よ。」
「了解、じゃ、明日は定時で上がれるように済ませておくよ」
「はい、明日、楽しみにしてるね。」
かわいい・・・癒される。まだ付き合い始めたばかりだから、余計かもだけど、僕に出来た初めての彼女。
今までは研究室に入り浸って、女性との会話も苦手な僕に、半年前の懇親会に近くに座っていたマキちゃんから
「あの?・・・あまり事務所ではお見かけしないですよね?私、人事部の早川マキと言います。」
「ぼ・・・僕は塚本竜二・・・今は大学の研究室につめています。」
「あ、研究員の方ですね、名前は覚えてたのですが、多分お会いするのは初めてですよね?・・・」
「あ・・・えっと・・開発室には行くのですが、それ以外はあまり知らないので・・・」
き・・・緊張する。
「今は何を研究されているのですか?」
「あ・・・研究の内容はちょっと言えないのですが・・・」
そんな会話を続けていると・・・
「マキちゃん、こっちに来てみんなで飲もうよ」
あ・・・
「どうぞ、みなさんと飲んできてよ」
「竜二さんも一緒に行きましょう。」
彼女が手を引っ張ってくれた。
完全に一目惚れだ・・・
この会社に入って10年は経つのに、こんなに人と絡んだことはない。すごく楽しい懇親会になって、あっという間にお開きになってしまった。
このまま終わりたくない。
そう思うと、いつもの自分では出来なかったことする勇気が出た。
「早川さん!」
別れ際に彼女に近づく
「ぼ・・・僕、すっごく人見知りであがり症なので、早川さんに声をかけてもらってすっごく嬉しかったです。ありがとうございました。」
言えた!
「私も楽しかったです。竜二さん、専門的なことが詳しいですから勉強になりました。こっちに来た時は人事部のほうにも寄ってくださいね。」
て・・・天使だ・・・
それからは、何かと用事を作って会社に戻り、その度に人事部を通りかかりマキさんに声をかけた。
連絡先の交換に成功し、一緒に飲みに行ったりちょっといい感じになったので思い切って告白した。
二つ返事でOKをもらえた時には世界中が薔薇色に見えた(気がした。)
そんな彼女と半月ぶりのデート、早く定時にならないかな?
「竜二、お待たせ」
?なんか、いつもの元気がない?
「どうした?何かあった?」
「ん?・・・うん、まあ、食事しながらでいい?」
徒歩数分の小料理屋に入り、マキが昨日の出来事を話し出した・・・
「私の家ね、お父さんとお母さんが離婚してるんだ。私はお母さんと一緒に住んでるの。お父さんとは離婚後会って来なかったんだけど、支援は受けてたの。それが突然連絡が入って、膵臓癌で余命宣告を受けたって・・・」
ポツリポツリ、涙を滲ませながら家族のことや昨夜の話を聞かせてくれた。
一通り話を聞いて、自分の研究の被験者を探していることを思い出し、話を切り出した。
「マキ、力になれるかわからないけど、アイデアがある。明日、確認をしてくるから詳しくはその後に話すよ。」
「ありがとう、竜二に話を聞いてもらって気持ちはずいぶん楽になったわ」
翌日、研究室に戻り、教授や部長たちと相談した。
「被験者として向かい入れる準備をしてみよう。 近いうちに被験者を連れてきてくれないかな?」
そのことをマキに伝え、後日お父さんに連絡すると言っていた。
しかし、数日後、お父さんが倒れたと連絡が入る。運ばれた先が令和病院、うちと提携している病院だ。
病状を確認するため、病院からカルテを取り寄せ、退院した日にこちらで面談することとなった。
「いらない心配をさせたく無いから、私たちのことはまだ伏せておきましょう。」
僕もその方がありがたい。
「猪飼と言います。この度はよろしくお願いいたします。」
白髪混じりの中年男性といった印象。見た目だけではがん患者としてはわからない。
話も進み、
「それでは、今回の治療方法について説明させていただきます、研究員の塚本竜二と言います。まずは構造について説明します。・・・・」
資料を伴いながら約1時間、説明を行った。
しばらくの沈黙の後・・・
「この治療、受けてみようと思う。」
覚悟を決めた言葉だった・・・
彼を見送った後、
「竜二、ありがとう。・・・これでどうなっても、何も出来なかったって後悔がなくなりそう・・・」
「ただ、さっきも言ったように人体では初めてなんだ。あとは結果を受け入れるしかないよ。」
僕も覚悟を決めた。
うまくいきますように・・・